人生最大の買い物=マイホームのローンが原因で、老後破産する人が増えているというデータがあります。特に「ゆとりローン」などで70代までローンを組んでいる場合、今後、厳しくなる人はさらに増えるという指摘も。そこで、ピンチになる前に、大切なわが家を生かしながら、危機を乗り切る方法を紹介します。
【まず最初に】その住宅ローン、損してない?
現在、住宅ローンの金利は1%を切るほどの低金利。しかし、ひと昔前の3~4%という高金利の住宅ローンをそのまま支払い続けている人も少なくありません。まずは、住宅ローンの借り換えによって返済額を減らせないか調べてみましょう。
【借り換えの目安】
●残債が1000万円以上
●残り返済期間が10年以上
●借り換え後の金利が1%以上下がる
当てはまらなくても、試算してみて借り換えコスト(50万円程度)以上、返済額が軽減されるなら検討してみては。年齢も70歳までは借り換えできる可能性があります。
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老後2000万円問題など、先行き不安があっても、家さえあれば何とかなる。そう思っている人も多いのではないでしょうか? しかし、近年、不動産ローンが支払えなくなり、終の棲家さえ失う「老後破産」に陥る人が増えています。
「近年、不況やリーマンショックなどの影響を受け、不動産ローンが支払えなくなる人が増えています。中でも、バブル崩壊後に旧住宅金融公庫が扱った『ゆとりローン』が原因で老後破産する高齢者があとを絶ちません」
そう話すのはNPO法人住宅ローン問題支援ネットの代表理事を務める不動産コンサルタントの高橋愛子さん。ゆとりローンとは当初5年は低金利で、6年後には通常金利に移行、11年後には最初の5年の倍ほどの額を支払うという仕組みのローン。
「このようなローンは年齢とともに給料が上がり、定年まで働き続けることができ、なおかつ、不動産価値も上がり続けることが前提です。
ですから、給料が下がったりリストラされたりして返済期間が延びると、老後に持ち越しとなり、結果、支払えなくなって自己破産で家を失うことになるのです。もちろん、ゆとりローンでなくても、想定外のことが起こり、老後破産する人もたくさんいます」(高橋さん)
ローンは厳しいけれど、終の棲家は守りたいという人は、どうすればよいのでしょうか?
「ローンが支払えなくなると、競売にかけられて取り上げられるしかないと思っている人が多いのですが、対処法は多様化してきています。早めに対処することで大切な家を失わずにすむ場合もありますし、失うとしても有利な条件で売却できる可能性も。
放っておいてもよいことはひとつもありません。ローンが苦しいと思ったら、ぜひ、できることがないか探してみてください」(高橋さん)
払える見込みがないのか、一時的に払えないのか
住宅ローンの返済が難しくなっても、それが一時的なことであれば返済期間を先延ばしにする「リスケ(リスケジュール)」で対応できる可能性が。
「日本人の特性だと思うのですが、住宅ローンなどの支払い予定は、絶対に守らなければいけないルールのように思っている人が多いです。しかし。
失業や病気などにより一時的に返済が苦しくなっている場合には、金融機関と話し合ってみると、一定期間は利息の支払いだけでいいなど、返済を猶予してくれたりします。金融機関もできれば不良債権は出したくないのです。
とはいえリスケは支払いが猶予されるだけで、免除されるわけではありません。完済できる年齢が上がれば、返済不能に陥るリスクも上がりますので、安易なリスケも慎重に行いましょう」(高橋さん)
先々も、返済できる見込みが薄い場合にはどうすればよいのでしょうか?
「支払い不能になったら、いくつかの選択肢がありますが、それを選ぶ際にふたつのポイントがあります。
ひとつはローン残債と家の時価との差。時価のほうが高いアンダーローンの状態なら、比較的簡単に生活を立て直すことができます。しかし、残債のほうが高いオーバーローンの場合は、選択肢が限られてきます。
もうひとつのポイントは、家の所有権にこだわるのか、住み続けられればよいのか、ということです」(高橋さん)
このふたつのポイントをふまえて、住宅ローンが支払い不能になった場合の代表的な対処法を紹介します。
急に支払えなくなったときのために
住宅ローンが支払えなくなったらどうする? 失業や減収など、思わぬトラブルに見舞われて、急に支払えなくなった場合に備えておきましょう。
【対処法1 売却】
ローンが残っている場合、ローンを一括返済しなければ担保がはずれず、売却できません。しかし、オーバーローンの場合、売れても残債に足りないため、差額を支払える人でなければ売却できません。そのような状態で売却をするなら、競売または任意売却となります。競売と任意売却とでは、その後の残債整理などでも大きな差が出てきます。
《競売》
●住宅ローンの支払いを滞納し続けたことで強制的に売却させられる。
●実勢価格の7割程度で売られることが多い。
●売却益は一切もらえない。
●競売にかけられたことが他人にも知られてしまう。
●残債は一括返済を求められる→多くの場合、自己破産となる。
《任意売却》
●すべて債権者の了解が必要だが、下記のようなメリットが得やすい。
●時価に近い金額で売却できる。
●売却額から引っ越し費用がもらえる場合がある。
●残債の減額、分割払い等、支払える額での返済にしてもらえることもある。
●通常の不動産売却と同じなため、破産状態を周囲に知られにくい。
◎POINT 任意売却は新たな生活を立て直しやすい方法ですが、債務者との交渉や任意売却は経験がないとうまくいかないことも。専門にしている会社や団体に依頼を。
【対処法2 所有権を制限して住み続ける】
家にずっと住み続けることができれば所有権にはこだわらないという高齢者に向きます。ただし、オーバーローンの人には難しい方法です。
《リバースモーゲージ》
家を担保にお金を借り、利息のみを返済していき、死亡したら家を引き渡すことで元金返済ができるというシステム(現金で一括返済すれば家を残すことも可能)。
借りたお金で住宅ローンを返済すれば毎月の支出が抑えられて余裕ができる。
利用できるのは55歳(金融機関により異なる)以上。
基本的に土地の評価額が融資限度なので、必要額借りられない場合も。
《シルバー返済特例》
70歳以上で返済不能になったら、それ以降は利息だけ支払い、債務者全員が死亡したら自宅を売却して残債を一括返済(または売却しないで現金で一括返済)する方法。
売却しても債務が残っていても、相続人には請求されない。
住宅金融支援機構に融資を受けていることなど、諸条件がある。
《セール&リースバック》
自宅を信頼できる相手に売却し、買い手からそのまま賃貸で借りて住み続ける方法。
所有権はなくなるがリバースモーゲージよりも多くの資金調達ができる。
条件設定がうまくいかず、追い出されるなどトラブルが起こることも。
返済が厳しくなってもやってはいけないこと
生活が苦しくなり住宅ローンが支払えなくなってきたとき、どのような選択をするかで、その後の運びが大きく変わってしまうので注意をしましょう。
「ローンが払えなくなっても、黙って滞納してしまう人が多いようです。しかし、債権者は無断滞納が続けば早く回収しないとまずいという思い、問答無用の債権回収が始まり、競売がグッと近づきます。
大切なのは滞納する前に、払えなくなりそうだと相談すること。払う意思を見せることで、相手も柔軟な対応をとりやすくなります」(高橋さん)
何とか返そうと無理をして事態をさらに悪くするケースも。
「何とか返済しなければと消費者金融に手を出す人もいますが、高金利の借金で低金利の借金を返すなんて論外です。絶対にやめてください。
また、家をとられたくないという思いから何とか住宅ローンは払っても、税金を滞納し続けてしまうという人もいますが、それも、あとあと大きく後悔しますので、やめてください」
税金は支払わなくてもブラックリストにのることはなく、怖い人が取り立てにくるわけでもありません。しかし、延滞税は14%ととても高く、さらに、自己破産をしても帳消しにもなりません。
税金を滞納して家を差し押さえられると、任意売却をしようと思っても許可してもらえず、競売にかけるしかなくなることも。後回しにしてためこまないよう注意しましょう。
住宅ローン返済の心得
1.払えなくなる前に相談すべし! 黙って滞納するべからず
2.消費者金融など高金利の借金で住宅ローンを返済するべからず
3.税金の支払いは後回しにするべからず
老後破産しないためのポイント
●フルローンは組まない!
不測の事態が起こったときに、不動産を売却すればローンを返済できる状態にしておけば、破産という最悪の状態を防ぐことができます。不動産価格の2割程度の頭金を入れれば安心だといわれていますので、参考に。
●連帯債務は避ける
親子ローンやペアローンなど、連帯債務にすると、片方が働けなくなったときに共倒れしたり、不仲になったときに困ったことになります。一緒に住む場合でも、片方の収入で支払える範囲のローンとし、もう一方の収入は貯蓄や繰り上げ返済にあてるようにしましょう。
(取材・文/鷲頭文子)
宅地建物取引士、不動産コンサルタント。不動産会社を経て、任意売却専門の不動産コンサルティング会社を設立。売却以外にも住宅ローンで悩み苦しんでいる人のためにNPO法人を設立。年間300件以上の相談に乗っている。『改訂版 老後破産で住む家がなくなる!あなたは大丈夫?』(日興企画)など著書多数。