来年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』を襲った沢尻エリカ(33)の薬物事件は、彼女の降板と代役・川口春奈(24)による撮り直しということで決着した。沢尻はかつて、映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』のヒロインにも内定していたが、当時の所属事務所とのトラブルで実現せず、代わりに黒木メイサが演じたものの「イメージが違う」という声が出たことがある。
降板・代役はよくあるが、大河は別格
大河でいえば、今年の『いだてん』ではピエール瀧がコカイン事件を起こし、三宅弘城に途中交代。また、昨年の『西郷どん』では不倫騒動の斉藤由貴が撮影に入る直前に辞退し、南野陽子がその役を務めた。
ただ今回、沢尻が演じるはずだったのは準主役で、すでに10話分を撮り終えてもいる。それゆえ、撮り直しは容易ではない。1月5日放送予定だったのが、2週間の先延ばしを発表した。かつてNHK時代に『龍馬伝』などを手がけた映画監督の大友啓史氏は『文春オンライン』の取材にこう語った。
《以前に、NHKドラマ『ハゲタカ』(2007年)で、代役を立てて再撮影をしたことがあります。ですから、その大変さは理解しているつもりですが、それでも大河ドラマは別格と言っていいほど大変だと思います》
ちなみに『ハゲタカ』で降板したのは中村獅童。代役は松田龍平だった。降板理由は、獅童の信号無視と酒気帯び運転だが、同乗していた岡本綾との浮気まで発覚。竹内結子との離婚につながった。
降板や代役といったものにはスキャンダルがつきものだったりする。大河では昔『勝海舟』で主役が途中交代するという一大事が起きたが、そのときもそうだった。渡哲也が病気で倒れ、第10回から松方弘樹が継承。そんな混乱のなか、共演した仁科明子(現・亜季子)と不倫関係になってしまった。やがて、松方は離婚して仁科と再婚したものの、その後、別の女性と不倫して、また離婚。大河のようなドロドロの愛憎ドラマの起点となったのである。
不倫といえば、今年、原田龍二がこれにより、舞台『サザエさん』のマスオ役を降板。代役は葛山信吾だった。
宮沢りえやEXILEも
また、高畑裕太が強姦致傷事件を起こしたときには『24時間テレビ』(日本テレビ系)内のドラマで出演が決まっていたが、急きょNEWSの小山慶一郎が代わりに演じた。小出恵介が17歳少女との飲酒淫行事件で活動を休止した際、ドラマ『愛してたって、秘密はある。』(日本テレビ系)で代役に起用されたのは、今をときめく賀来賢人だ。
というように、代役でチャンスをつかむ人もいる。昭和の大ヒットドラマ『積木くずし 〜親と子の200日戦争〜』(TBS系)は高部知子の当たり役だったが、映画化を前にいわゆる“ニャンニャン事件”(裸でベッドに寝ころび、胸まで布団をかけ、タバコをくわえている写真が週刊誌に流出した事件)を起こしてしまい、代わりに渡辺典子が主演した。渡辺はその3年後、自殺した岡田有希子が主演するはずだった2時間ドラマでも代役を任されている。
最近では、'17年に突然、芸能界を引退し、幸福の科学に出家した清水富美加(現・千眼美子)が第1作のヒロインだった映画『東京喰種 トーキョーグール』の新作でその役を山本舞香が引き継いだり、能年玲奈(現・のん)が主役に内定していたといわれる、映画『ちはやふる』、ドラマ『重版出来』(TBS系)にそれぞれ、広瀬すずと黒木華が主演することになったりした。
ところで、降板したあとにその理由が判明することもある。'06年にミュージカル『テニスの王子様』の新作に出演が決まっていた田崎敬浩は、初日の10日前に降板。前作までその役をやっていた鯨井康介が代わりにこなして事なきを得た。しかし、田崎はその直後、EXILEの新しいボーカルを選ぶオーディションで優勝し、TAKAHIROとして華々しく世に出ることになる。
「歌手になりたい、というより、EXILEになりたかった」
というのが、オーディション後、本人が語った言葉だ。
また、降板した過去をその後、払拭(ふっしょく)した人も。'95年に映画『藏』の主役に決まっていながらクランクイン直前にドタキャンした宮沢りえだ。代役は一色紗英だったが、その背景には二番手の浅野ゆう子が主演扱いを要求したことに宮沢サイドが怒ったという、いきさつがあったという。
その18年後、彼女は舞台『おのれナポレオン』に公演期間の途中から主演。わずか2、3日の稽古で演じきり、病気で倒れた天海祐希の穴を埋めた。翌々年『ヨルタモリ』(フジテレビ系)のなかで、演出の三谷幸喜とふたりきりで特訓したことを告白し、「ちょっとお手伝いをさせていただきました」と謙虚に振り返った。かつて世間を賑わせた女優も人間的に成熟したということだろう。
はたして、当代一のお騒がせ女優・沢尻エリカにもそんな日は訪れるのか──。
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。