木村拓哉。ドラマ『ギフト』のころは肩につくほどの長髪がトレードマークだった

「このドラマで“国民的アイドル”という殻を破りたかったんだと思うよ」

 そう話すのは、木村拓哉が主演を務めた'97年放送の伝説的ドラマ『ギフト』(フジテレビ系)の脚本を担当した飯田譲治氏。木村は、自分の名前はおろか記憶のすべてをなくしているのだが、なぜか“届けること”へ異常なほど執着する運び屋という難しい役どころを演じた。

「'96年に拓哉主演のフジテレビ系のドラマ『ロングバケーション』が大ヒット。あれで恋愛モノの極めつきをやっちゃったから、次は恋愛モノじゃないドラマを作ろうというのがコンセプトにありました」(飯田氏、以下同)

憧れていた忌野清志郎さんと初共演

 本作で、木村は憧れのロックシンガー・忌野清志郎さんとの初共演を果たす。清志郎さんは、木村演じる運び屋の情報屋であり、犯罪マニアの怪しい男を演じた。

「拓哉は、もともと清志郎さんのファンで、特に『君が僕を知ってる』という曲が好きだった。僕なりの解釈だけど、この曲は“ひとつの過ちですべてを否定されてしまうのはおかしいよね”ってことを歌っていて。アイドルの頂点まで上りつめていた彼にとって、プライベートでのしくじりは命取りになるじゃない? だから清志郎さんのメッセージが心に沁みたんじゃないかな」

 木村が演じた主人公も、この曲を体現するかのようなキャラクターだった。

「過去にとんでもない失敗をしてしまって、そこから逃れたいために記憶喪失になっているという設定でした。物語が進んでいくと、どんどん過去の傷を思い出しながら、それをひとつひとつ清算していく。そして蘇生して、新しい人生を生きていくというストーリーでした」

 ドラマの冒頭でクローゼットから全裸の木村がゴロンと出てくるが、

「あれは世間が持つ“アイドル・木村拓哉”から生まれ変わるというイメージだった」

『雨あがりの夜空に』を現場でセッション

 撮影現場で、木村と清志郎さんはすぐに意気投合したという。

「撮影の空き時間に木村さんはよくギターを触っていましたが、清志郎さんもギターを現場に持ってきていました。木村さんがポロロ〜ンと弾くと、清志郎さんが笑顔で近づいてきて“いい感じだねぇ”と褒めていましたよ」(制作会社スタッフ)

 現場でひっそりとセッションを重ねていたことも。

「清志郎さんがリーダーを務めるバンド『RCサクセション』の名曲『雨あがりの夜空に』をふたりで弾いている姿も見ましたよ。いま思うと、あれは豪華なコンビでしたよね」(同・制作会社スタッフ)

 木村の自宅に清志郎さんが突然、訪問するなどプライベートでも交流を深めていた。

「ドラマの打ち上げでは、ふたりでギターを弾きながら、エリック・クラプトンの名曲『ティアーズ・イン・ヘヴン』を歌ってくれた。いいモノ見せてくれたなって感じがしたよ」(飯田氏)

 '09年に清志郎さんがこの世を去ったとき、木村はこんなコメントを残している。

「お付き合いさせていただいて、お亡くなりになった後でも、曲という形で僕の中にいてくれる友達だと思っています」

 ふたりのセッションは永遠に続く──。