「空気が乾燥する冬のほうが頭皮にはよくありません。実は、夏場のウエットな環境は頭皮に悪い環境ではないのです。
傷を例に見ても、昔は“乾燥させて治す”とされていましたが、今は“ウエットに保湿する”ほうが傷も早く治りますし、皮膚にもいいという考えが主流です。
一方で、冬の乾燥は皮膚のバリア機能を破壊します。一定の湿度を保たないと、物理的に皮膚外側の表皮がはがれてしまうのです。頭皮も同じように、乾燥によってかゆみやフケが出たり、炎症が起きやすくなり、ばい菌にも感染するおそれがあります」
とは、医師で再生医療技術支援などを事業とする、株式会社セルバンク代表取締役の北條元治さん。特に女性にとって、乾燥は大敵だ。お風呂やシャワーの後、肌がカサカサしたりつっぱったり、粉を吹いたり表皮がはがれたり、ときには荒れて出血することもあるだろう。それは頭皮にも同じことが起きているのだ。
頭皮に優しいお湯シャンプー
そんな頭皮を守るためのケア方法が、自身も「肌が弱い」という北條先生も実践する「湯シャン」だ。湯シャンといえば、タモリや福山雅治、世界的モデルのミランダ・カーなどなど、多くの芸能人が実践していることで数年前から広がった、シャンプー剤を使わずにお湯だけで頭を洗う“お湯シャンプー”のこと。
ではなぜ、湯シャンが推奨されるのだろうか。
「例えば私は、特に冬になるとフケが多く出る体質です。頭皮にまったく問題がないという人は湯シャンをする必要はありませんが、誰しもが頭皮に何らかの不安を感じているのではないでしょうか。それらを改善してくれるのが湯シャンだと、私は思います」
普段のシャンプーは“洗いすぎ”
一般的なシャンプー剤は、頭皮の汚れや脂をきれいに落とすメリットがあるが、一方で“きれいにしすぎる”デメリットもあるのだとか。
「頭皮からは皮脂が分泌されますが、何のために出るかというと、外界からの刺激を防ぐバリアの役割を果たす角化層を、濡らして頭皮に張りつけておくことで保湿とコーティングをしてくれるのです。
皮脂がなくなると角化層がはがれ落ちやすくなりますが、これは深爪と同じで何らかの刺激ですぐに出血してしまいます。つまり、シャンプー剤を過度に使うことは、頭皮を守ってくれる皮脂を過剰に洗い落としてしまうのです」
当然のように毎日使っていたシャンプー剤は、頭皮乾燥の原因にもなっていたのだ。
ただ、これまで実際に湯シャンを試した人もいるはず。でも、シャンプー剤を一切断ったものの、逆に頭皮のべたつきやにおい、かゆみが出てしまい挫折してしまったケースも少なくないのでは。それは、やり方が間違っていたのかもしれない、と北條先生。
「湯シャンといっても“シャンプー剤をまるっきり使うのをやめる”のはオススメしません。推奨したいのは2日に1度、シャンプーをした次の日は頭皮をいたわる気持ちで湯シャンにすることです。
最初は物足りないように感じるかもしれませんが、“明日、シャンプーで洗えばいいか”と気楽に構えてください。毎日、朝晩にシャンプーをしていたとすれば、肌にかかる負担は4分の1に減ります」
2日に1度でいいのだ。それだけで十分に頭皮は乾燥から守られ、いいほうに改善されていくという。さらに、こんな作用をもたらすことも。
「これまでシャンプー剤を多用して頭皮に負担をかけていた人が、湯シャンにすることで髪の毛が増えることもあると思います。
極端な例で言えば、皮脂を過剰に落としすぎて皮膚炎を起こした場合、それが抜け毛、薄毛の原因になっていたとも考えられます。これを湯シャンで頭皮のコンディションを整え直してあげることで、再び髪の毛も元どおりになることもあります」
もちろん、「それぞれに体質があり、すべての人が湯シャンに向いているわけではない」と北條先生は話す。それでも代謝機能が衰え始める30代からは、また冬の乾燥に備えて頭皮のケアが大事だ。
「フケやかゆみがある方、抜け毛や薄毛に悩んでいる方、頭皮に何らかの不安をもっている方は、試しに湯シャンを始めてみてはいかがでしょうか。もしかしたら、その原因はシャンプーのしすぎにあるのかもしれません」
では、北條先生のお墨つき“週刊女性”的「正しい湯シャン」のやり方をどうぞ!
頭皮と髪を守る「正しい湯シャン」のやり方
1.ブラッシング
湯シャン前に乾いた状態の頭皮と髪の毛を、やわらかいブラシでとかす。頭皮や髪の毛についたホコリなどをとることで、シャワー時に汚れが落ちやすくなる
2.濡らす
シャワーは38度~40度とぬるめの温度にして、3分ほどかけてじっくりとお湯を十分に地肌にまで浸透させる。頭皮の汚れと余分な脂だけが流れ落とされ、なおかつ皮脂は落とさずに残る
※冬場はシャワー前に湯船につかり、毛穴を広げることでより汚れが落ちやすくなる
3.洗う
頭皮を傷つけないように、爪を立てず、力を入れすぎずに指の腹で全体をもむように洗う。洗髪ブラシなどの器具はなるべく使わない
4.流す
浮き出た脂や汚れを洗い落とすように、頭皮と髪の毛を丁寧にシャワーで3分~5分流す
※枝毛防止やつや保持のためのトリートメントやコンディショナーは使用OK。頭皮につかないよう注意
「冬場の大敵といえば、乾燥が引き起こす静電気。髪の毛のキューティクルがはがれたりダメージにつながるので、トリートメントをして静電気を防止したほうがいいでしょう」
5.乾かす
髪の毛をこすらないようタオルで水分をしっかりふき取る。ドライヤーは十分に距離をとり、基本は冷風を使用して温風と併用しながら乾かす。温風を当てすぎると頭皮の乾燥の原因にもなるので注意
※湯シャンの効果は体質によって異なります。頭皮の諸症状の悪化や違和感があった場合は中止してください。
髪の毛は若返らない!?乾燥から髪を守る湯シャン
よく“髪の毛に栄養を行き届かせる”などという表現を耳にしますが、それは絶対にありえません。髪の毛自体に栄養を代謝させる器官がないからです。
例えば、細胞が栄養素をとりこんで皮脂腺を作る、修復するというのが生命現象ですが、髪の毛にはその機能がありません。髪の毛を切っても痛みを感じないのはそのためです。
また、若いころはつや、ハリ、太くてキューティクルがあった髪の毛が、年をとるにつれてつややハリもなく細くごわごわしてくるのは、毛根が健康的な髪の毛を作れなくなっているからです。残念ですが、これを若返らせることはできません。
よく美容院に行って“つややハリが戻った”と思われるでしょうが、言い方は悪いですが、“車のワックスがけ”と同じことで、髪の毛を一時的にコーティングしているだけなのです。
ワックスをかける必要のなかった新車が、年月がたつにつれて色つやが落ちてくるように、髪の毛も同様でトリートメントなどのケアが必要になります。
なので、日ごろからドライヤーを長時間あてない、紫外線からキューティクルを守るなど、いかに髪の毛の質をキープしていくかにかかっています。その手助けのひとつとなるのが、皮脂を残して乾燥から頭皮と髪の毛を守り、いたわることができる湯シャンなのだと思います。
北條元治 医学博士 株式会社セルバンク代表取締役。RDクリニック顧問。東海大学医学部非常勤講師。信州大学医学部附属病院勤務を経てペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。帰国後、東海大学にて同研究と熱傷治療に従事。'04年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンクを設立。著書に『美肌のために必要なこと』(スタンダーズ刊)、ほか多数。
イラスト/上田惣子