「オーディションに受かるかは、本当にわからなかったです。ただ、この役は絶対につかみたいと思っていました」
活動弁士、略して活弁(カツベン)
数々の名作を生み出してきた周防正行監督の5年ぶりとなる映画『カツベン!』。100人を超える志願者の中から主役に選ばれたのが、成田凌(26)。
今作を含め、今年6本の映画が公開され、報知映画賞の助演男優賞など、すでに3つの映画賞を受賞した彼にとって初主演を飾った記念作。できあがった作品を初めて見たときの感想を聞くと、
「(自分が)いっぱい出ているなと思いました(笑)。あと、楽しいなと。お芝居をするとき、いろいろ考えてしまうことが多いんです。でも、この作品はそれをあまりしなかった。(永瀬正敏、高良健吾、竹中直人、渡辺えりなど共演者の)メンバーがいたら、僕がどうこうするなんてないですから。大船に乗らせていただきました。
それから、改めて監督を尊敬しました。撮影中、なんでここにこだわるんだろう? って疑問に思っていたことの明確な答えが映画にあったんです。
例えば、何人かの出演者が廊下を歩いたり、横切ったりするシーン。すごく気持ちのいいタイミングで役者が動いている。すべてが心地のいい映画だなと思いました」
今から100年以上前の日本では、モノクロで無音の映画(=活動写真)に楽士の奏でる音楽と、活動弁士の“しゃべり”をのせることで物語を説明する独自の文化が生まれていた。
銀幕のスターよりも、活動弁士こと“カツベン”のしゃべりを聞きにいくことが目的だった時代に、成田が演じる活動弁士を夢見る青年・俊太郎が小さな町の映画館に流れ着くことから物語が始まる。ある理由で追われる身の俊太郎は、本物のカツベンになることができるのか。そして偶然、再会した初恋の相手との恋の行方は……。
タクシーで喋り続けたら…
「役作りでは、いまも活躍されている活動弁士の坂本頼光さんから毎日3時間、7か月ほど訓練を受けました。声を張ることでノドに負担がかかってくるので、1日3時間以上の練習はできなかったですね。
最初は、うまくしゃべれなくて本当につらかった。3か月くらいたったときに、自分のリズムみたいなものがつかめて。そこからは楽しかったです。移動で乗ったタクシーの運転手さんに“活動弁士”を知っている方がいて、訓練を少し披露したら“すごいですね! タダにしてあげるよ”と言ってくださったこともありました(笑)」
映画を見たしゃべりのプロ、徳光和夫や古舘伊知郎にも絶賛されたという。
「本当にうれしかったです。このおふたりに褒められたら、太鼓判を押された感じがしますよね。徳光さんとは番組のロケでご一緒したんですが、同じバスに乗った乗客の方や、街で会った人たちにも映画をすすめてくださって。カメラが止まっているところでも“お世辞じゃなくて、本当に素晴らしい”って言ってくださいました。
いろいろな方にいい反応をいただいて、俳優としての自信がどんどん湧いてきています(笑)」
さらに、特別な人からもいい感想が聞けたそう。
「初めて両親が褒めてくれました。ふたりとも“面白い!”って。これまでの作品も見てくれています。だから、うれしかったですね。あっ、父は『ニワトリ★スター』という映画だけは見てくれていないんですよ。理由を聞いたら“だって、凌、死ぬんでしょ”って。かわいいですよね(笑)」
この作品と向き合った時間、出会った人、結果、すべてを含めて宝物のような初主演映画になったと語る。
「『カツベン!』でみんなが“楽しい”って思ってくれるものが作れたので、来年も同じように楽しいと思っていただけることに挑戦していきたいです。しばらく、テレビドラマをやっていないので、できたらいいなと思っています」
去年のクリスマスは小栗旬の家へ
映画公開直後のクリスマスはどう過ごす?
「何の予定もないです。去年は……、あっ、そうだ! 小栗(旬)さんが誕生日(12月26日生まれ)だったから、小栗さんの家に行きました。
子どもたちに遊んでもらって(笑)。クリスマスだから、誕生日だからって、何かしたいとは思わないほうですね。誕生日もなるべく少人数で、飲むほうがいいかな。人数が集まったら、それはそれでうれしいんだろうけど、なんか恥ずかしい(笑)。僕、あまのじゃくなところがあるんです」
子どものころ、一緒に活動写真を見た初恋の相手を思い続ける俊太郎。成田さんの初恋の思い出は?
「小学生のころのバレンタインで、たぶんお互いに好きだよねっていう女の子から「机の横に引っかけておいたから」って言われて。「えっ、何?」って聞き返したら「チのつくやつ」って。チョコレートってわかっているのに、ありがとうじゃなくて「何を?」ってテレた甘酸っぱい記憶があります(笑)」