田中みな実

 田中みな実の初写真集『Sincerely yours...(シンシアリー ユアーズ)』がなんと発売前に10万部の重版が決定、累計22万部を突破しているというニュースが世間を騒がせている。なんでも予約部数が発行元の『宝島社』史上最高の数字なんだとか。かなりの快挙である。写真集の宣伝のために作ったインスタアカウントもフォロワー130万人を超えるほどの人気ぶりだ。

 なぜここまでのヒットを叩き出せたのだろうか──。

男女問わず全方位に刺さる“みんなのみな実”

 田中みな実といえば、これまで「奔放な発言をするぶりっ子キャラ」「『anan』で公開した抜群のプロポーション」といった背景から、度々、おじさん大好物の『実話誌』に名前が登場してきた。ここには絶対に書けないような“えげつないワード”が飛び交うアダルティーな見出しを何度目にしたことか。

 今回の「写真集発売」なんていうのはまさに格好のテーマだったようで、発売が近づき先行ショットが公開されるたびに、その取り上げられっぷりは加熱の一途を辿った。そのなかでもまだマシだと思われるタイトルを引用してみたい。

『「透け○&張り○」も完全公開 田中みな実の〇〇すぎ「〇〇禁発言」 史上空前の写真集フィーバーの中で…』(『週刊大衆』12月16日号)※○は編集部で伏せ字に

 これはもう、世のおじさんたち的には“予約不可避”といったところか。

 田中本人にとってはとてつもない名誉毀損だろうが、写真集の版元としては「頼んでもないのに勝手に宣伝してくれている状況」であり、サンキューです! の一言のはずだろう。インスタという文明の利器に不慣れ(?)な世代にもきっちり「写真集発売」の情報を届けることに成功しているし、コンビニに陳列された雑誌の表紙に印字された『田中みな実 写真集』という文言は自然と目に入ってしまう。もはやポスターや看板広告などと同じほどの宣伝効果ではないか。結果、コンビニ利用者には、「田中みな実の写真集が発売される」事実が刷り込まれることに。もちろん、この貢献は売り上げの一部分ではあると思うけど。

 そして、今回の写真集で特筆すべきは上記といった熱気ムンムンな男性陣に加え女性層もお熱を上げているという点だ。

 当初、おっさんたちのハートを鷲掴みにしてきた田中のキャラは、女性からは批判的にみられることが多かった。しかし、ここ数年の彼女は、女性たちにとって『美のカリスマ』的存在になっているのである。そのきっかけは、もちろん'17年に雑誌『anan』の企画で、あの“肘ブラ”を披露した瞬間だ。

 この撮影のために「63万円もかけてパーソナルトレーニングにストイックに取り組んできた」と報じられたり、「美容のためにミニトマト、いちご、マスカットを常に持ち歩く」「痩せすぎないように米を全部お粥にして“ただただ、泣きながら流し込む”」とテレビで明かしたりと、とにかく美容へのストイックさが半端ない。というか泣きながら流しこむ図にいたっては単純に狂気に近いものを感じる。

 しかし、そんな努力の甲斐もあってか、『嫌いなアナウンサーランキング』の常連だった彼女も今や「美しさは認めざるを得ない」「33歳でこのプロポーションには尊敬の一言」と賞賛の受けるようになり、「写真集を見てモチベーションにする」といった発言もみられるように。雑誌で《美肌先輩・田中みな実さんに続け!人生変えちゃう冬の保湿革命》(『non-no』'19年12月号)なる企画も組まれたりと、いつのまにか先輩風を吹かしているというではないか。

 “実話誌おじさん”をはじめとした世の男性たちが「抜群のプロポーション」にそそられてきたのと同じように、女性たちも「美を追求するストイックさ」に多大なる影響を受けているのだ。つまり、この写真集は性別を問わず、全方位に刺さる。何かひとつ極めていると、ついには認められるようになるというわけだ。真の“みんなのみな実”状態である。

 そんな彼女は'15年に雑誌の対談取材でこう語っていたことがある。たった数年前のことであるが、現在の彼女とはだいぶ異なる印象を受けた。

《アナウンサーってタレントさんの横に立たせてもらうから、きれいすぎちゃいけないんですよ。その点、私はちょうどいいなと思ってました。たとえば滝川クリステルさんなら一人でメイン張れる感じがしますけど、私は報道番組のメインになりたいわけではなくて、永遠のサブというか、アシスタントとしてサポートできたらいいなと思ってるんです》(『週刊朝日』'15年3月20日号)

 今や“きれいすぎる”美容研究家・女優業のほうがが本業になってしまい、彼女がフリーアナウンサーであることをほとんどの人が忘れてかけているんじゃないかと思うのだが、どうだろうか。さらに、かつては夜の食生活について《一人でおそばを食べにいったりとか、ラーメンですませてしまったりとか》(同前)とも発言しており、現在の“泣きながらお粥をすする”一心不乱なスタイルとはかけ離れていたことがわかる。

『anan』への出演に踏み切らなければいまの彼女はなかった、かもしれない。「努力次第で人は変われる」ことを教えてくれる希望のような存在にみえてきた。大げさか。

〈皿乃まる美・コラムニスト〉