大阪の小6女児誘拐事件が世間を騒がしている。大阪市住吉区の小学6年女児(12)は、栃木県の35歳の男とオンラインゲームを通じて知り合い、ツイッターのDM(ダイレクトメール)機能のやり取りがきっかけで、誘拐されたという。
埼玉県の37歳の不動産業の男が兵庫県の家出願望がある女子中学生を誘い出した事件も、八王子市の43歳の男が愛知県の女子中学生(14)を誘い出し家に寝泊まりさせた事件も、やはりツイッターを通じて行われている。
ツイッターを発端とする誘拐事件が相次ぐ理由とは?
SNSで広がる未成年の出会い系被害
警察庁少年課の「平成30年におけるSNSに起因する被害児童の現状」によると、2018年にSNSが原因で事件に巻き込まれた18歳未満の未成年は1811人に上る。
ある女子高校生が親子関係に悩み「家出したい」というツイートをしたところ、1時間余りで50件近いメッセージが届いた。開封すると、送り主は男性ばかりで、中には「ベッド1つしかないから一緒に寝ることになるけど、いい?」といったメッセージもあり我に返ったという。
また、ある女子中学生は「匿名の裏垢(垢=アカウント)で『寂しい』と書いたことがある」と語る。プロフィールにJC(女子中学生)と明記していた彼女。「よかったら相談にのるよ。つらいよね」「1人じゃないよ、大丈夫」などのメッセージが多く寄せられ、親切そうな人とDMで複数回やり取りをしたそうだ。「変な人ではなかったけれど、そういえばメッセージをくれたのは男性ばかりだった」という。
父親・母親世代の読者には信じられないかもしれないが、10代の子どもたちにとって、顔も知らない人とメッセージをやり取りするのは当たり前になっている。なぜ子どもたちは見知らぬ人と交流するのか?
そもそも子どもたちの世界は、学校と家を中心とした狭いものだ。さらに、友人同士でオフラインでもオンラインでも密接につながりあっている。
失言すると拡散されてしまい、一瞬で自分の居場所を失うリスクに脅かされているため、ツイッターでは複数のアカウントを使い分け、自分の本音を学校の友達に明かさない子は多い。
クラスの友達には無難なキャラクターを演じ、本音は裏垢、趣味は趣味垢、中学の友達とは中学垢、高校の友達とは高校垢で付き合うというのが一般的なのだ。
ある女子高生からは、「ネットで顔も知らない人なら、本音をぶつけられる」と聞いた。「いざとなったらブロックすればいいし、何を言っても拡散されたりしない」のが大きな理由だという。
「学校には本音を言える友達はいない。自分も言おうとは思わない」と彼女は言い切る。以前、クラスメイトに「声優になりたい」と何げなく教えたところ、知らない間に拡散されて笑いものにされていた経験がトラウマになっているという。
現実よりもネットの相手を信頼する理由
また、彼ら彼女らが「大人とは違う感覚」を持つことも原因の1つかもしれない。10代の子どもたちにとって、ネットとリアルの境界は薄い。「ネットでやり取りすれば、もう友達」「ネットでやり取りすればいい人かどうかわかる」と多くの子どもがいう。
確かに友達には言いづらいことも、ネットの知り合いには告白しやすい。人間関係のしがらみもないし、友人間に噂が広まる心配もない。しかも、普段人に言えないことを打ち明けることで、お互いの心の距離が縮まったように感じがちだ。
「会ったことがないネット内彼氏・彼女」がいるという10代もいる。「周りの友達とかには言ってないことも何でも言えるし、LINE通話もよくしているから、お互いに彼氏、彼女だと思っている」というのだ。
大阪小6女児誘拐事件も、高松市の23歳の女が小6男児に対して強制性交の容疑などで有罪判決を受けた事件でも、加害者と被害者の接点になったのはオンラインゲームアプリだったと言われている。
バトルロワイヤル系のオンラインゲームアプリには、ボイスチャット機能があり、話しながらプレーすることができる。スマートフォンでも遊べるうえ、YouTubeのゲーム実況などでも人気が高いこと、友達と集まってプレーしたり、離れた友人と話しながらプレーしたりできる点から、10代に人気が高い。
10代の子どもたちが、ツイッターなどでゲームのタイトルにハッシュタグをつけて、ゲーム仲間を募っている例を多く見かける。
ある女子高生は、「周囲に同じゲームをプレーしている友達がいなくて、チーム戦ができなかったから」という理由でツイッターでフレンド募集をかけた。「ゲームのキャラクターの写真を掲載してIDを公開したら、男の人ばかりたくさん申請がきた。出会い厨(出会い目的のユーザー)は多いと思う。出会い系メッセージは何度ももらったことがある」と語る。
フレンドになった相手から頻繁に「会いたい」というメッセージがきたこともあるそうで、彼女は会ったことはないが、フレンドと会う人の気持ちも理解できるという。
「子どもたちの安全」を守るために
10代の場合、SNSが居場所となり、SNSの友達だけが本音を言える相手ということも少なくない。相談相手がいたことで孤独に陥らず、自殺を思いとどまったという子もいる。ネットの世界は、セーフティーネットとして機能する面がある。一方で、寂しくて悩みを抱える10代の子どもたちを狙う大人がいることも事実だ。
SNSやゲームアプリ自体が悪いわけではない。しかし、悪用する大人がいること、ネットでは年齢・性別・職業などを偽ることができることは子どもに教えておくべきだろう。そして、ネット経由で知り合った人に会いに行くリスクを伝え、もし会いに行く場合には、親や友人に伝えてから、日中に人が多い場所で複数人で会うなど、対策して身を守るよう約束を取り付けてほしい。
高橋 暁子(たかはし あきこ)◎ITジャーナリスト 書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、企業などのコンサルタント、講演、セミナーなどを手がける。 SNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。『ソーシャルメディア中毒』(幻冬舎)など著作多数。『あさイチ』『ホンマでっか!?TV』などメディア出演多数。公式ブログ: 高橋暁子のソーシャルメディア教室