「リラックスした状態で目を開いて正面を向いたとき、黒目の3分の1以上が上まぶたで隠れているようでしたら、眼瞼下垂(がんけんかすい)が疑われます」
こう語るのは、眼瞼周囲手術のスペシャリストとして定評がある、帝京大学医学部附属病院の小室裕造主任教授だ。
加齢、化粧、コンタクトレンズが原因に
眼瞼下垂は最近、キャスターの宮根誠司や歌手の和田アキ子が手術を受けたと公表したことでも話題になった。小室主任教授によると、眼瞼下垂には先天性(生まれつき)のものと後天性(成長してから)のものがある。後者の場合、多くが加齢にともなう自然な老化現象であり、50~60代の女性患者が大多数を占めるという。
「眼瞼下垂は、年をとるにつれてまぶたを上げる筋肉が弱くなったり、その筋肉と一緒になってまぶたを引き上げている薄い膜(腱膜)がはずれたりすることで起こります。実は、腱膜はそれほど丈夫でなく、土台である『瞼板(けんばん)』という組織にガッチリとくっついているわけでもありません。刺激を受けることで腱膜が伸びる、もしくは瞼板からはずれ、まぶたが垂れて、ものが見えにくくなってしまった状態。それが、眼瞼下垂という症状なのです。
加齢以外の原因としては、白内障などの手術が影響して起きる場合もあるほか、アトピーや花粉症持ちの人、お化粧歴が長い人、コンタクトレンズを長期間使っている人にもよく見られます」(小室主任教授、以下同)
コンタクトレンズユーザーは、女性に人気のカラコンはもちろんのこと、ハードからソフトレンズまで、つけはずしの際には必ずまぶたを引っ張るし、コンタクトはもともと目のなかに入れて使用するもの。まぶたの筋肉や腱膜が常に刺激を受けていることは、私たち素人でも容易に想像することができる。
さらに、アトピーや花粉症がある人はかゆくて目をこすりがちになるし、化粧歴が長ければ、クレンジングで目のまわりをゴシゴシ洗うのも相当な回数になるだろう。まぶたを刺激しがちな女性に多い症状であるというのも、うなずけるものがある。
昨今では、30代、40代で病院を訪れる人も増えてきたというから、上記の動作に心当たりがある女性は要注意だ。
ちなみに、腱膜のはがれが原因の眼瞼下垂を『腱膜性眼瞼下垂』といい、「このタイプがもっとも多い」と、小室主任教授。
“睡眠不足なの? 眠そうな顔をしているよ”、そんな指摘をされることが増えてきたら、まずはこちらの眼瞼下垂を疑ってみて。
「さらには、筋肉や腱膜自体には問題がないものの、まぶたの皮膚がたるんで眼瞼下垂のように見える『偽眼瞼下垂』という症状もあり、両方が合併していることもよく見られます」
では、眼瞼下垂になると、どんな弊害が生じるのだろう?
「まずは、前が見えにくいという点が挙がりますね。ひどくなると、常にあごを上げていなければ、十分な視野が確保できなくなることも。
加えて、見た目の問題があります。目を開こうと眉やおでこを上げる筋肉(前頭筋)を酷使することで、ひたいに横ジワが寄ってしまいます。また、眉毛の位置が上がり、垂れた上まぶたとの間に距離ができると、顔が老けて見えてしまうんです。さらに、脂肪が目の奥に引き込まれますから、上まぶたにくぼみができます。
常に目やひたいのあたりに力を入れ、緊張させていることで、頭痛や肩こり、疲れやすいなどの症状も起こしやすくなりますね」
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手術の流れと失敗しないドクター選びのコツ
では、眼瞼下垂の疑いがみられたとき、気になるその治療法とは?
「手術ですね。腱膜がはずれているケース、つまり、もっともポピュラーな腱膜性眼瞼下垂では、まぶたを切開し、はずれた腱膜を瞼板に縫いつけて固定する手術を行います。まぶたの機能は正常でも、皮膚がたるむことで起こる偽眼瞼下垂では、垂れてしまった皮膚そのものを切除します」
心当たりがあった場合は、どの病院に行くべきなの?
「形成外科、眼科、美容外科のいずれかですね。手術は局所麻酔を用いて行い、1時間弱で終わります。術後2~3日は安静にし、激しい運動や飲酒は避けてください。血流が激しくなると、内出血などを起こすおそれがあるからです。大きな腫れは1~2週間ほどでひき、2~3か月もたてば、全体的になじんで落ち着きます。
クリニックでは日帰り手術が基本ですが、大きな病院ですと、2泊3日程度の短期入院で手術することもできます。手術後、血がにじんだガーゼを当てて帰宅することや、足元の見にくさを考えれば、高齢の方などは入院治療を考えてもいいかもしれません」
ところで、手術費用はいかほど?
「形成外科や眼科であれば基本的に健康保険がきき、3割負担の方でしたら、両眼で4万5000円ほど。ただし、美容外科では保険診療は受けられず、自費になります。
とはいえ、まぶたやひたいが重い、視界の狭さが気になる、などの自覚症状がなければ、無理に手術を受ける必要はありません」
上手な病院選びについてもお聞きしてみた。
「“いい病院を探す”というよりも、“いいドクターを選ぶ”という感覚を持ってください。形成外科でも、眼瞼下垂の手術をあまりやっていないドクターはいますし、まぶたではなく目が専門の眼科でも、手術経験が豊富なドクターもいます。手術するのは病院ではなく、人なのですから。
ドクターを見極める際には、ホームページなどに掲載の、年間手術件数を参考にするといいでしょう。ちなみに私の場合、年間150強ほどある手術のうち、半数は眼科の先生からの紹介ですが、残りの半分はインターネットで情報を調べての来院です」
憧れのあの女優の目にしてもらえるの?
さて、小室主任教授に術前と腫れがひいた数か月後の症例写真を見せてもらうと、その変化のほどに圧倒される。どの患者さんも、ぼんやり眠そうな目元がスッキリ・ハッキリとして、男っぷり、女っぷりが2割以上は増しているのだ!
見えにくさの改善など、治療が第一目的で受ける手術ではあるものの、どうせなら、よりきれいになれるように手術をしてもらいたいもの。石原さとみや佐々木希のような幅広の並行型二重も素敵だし、桐谷美玲や新垣結衣みたいな末広型二重にもなってみたい。蒼井優ふうの奥二重も捨てがたい……。ついつい、そんな思いが湧き起こってしまう。だが、
「どんなまぶたでも自由に作れるというわけではないんですよ。個人の骨格とかまぶたの皮膚の厚さなどによって、できることは決まっています。まずは、ご自身の10年前、20年前の写真を探してみてください。そのころのまぶたがデザインの基本です」
とはいえ、二重の幅を広くしたり狭くしたりはできるので、仕上がりの希望は積極的に伝えていい、と小室主任教授。どのドクターも、要望は極力聞いてくれるという。
「ただし、対応可能な範囲には限りがあるということです」
インターネットをのぞくと、「眼瞼下垂手術で後悔している」「失敗してしまった」という書き込みを目にすることがある。前述の和田アキ子についても、2018年の冬に1度目の手術を受けたのち、今年10月には、眼瞼下垂の修正手術を受けたことを明かしているから、初回の仕上がりには不満があったのだろう。
「目は、顔の中でも最初に視線が向くところです。術後は術前よりも目元がパッチリしすぎたなど、印象が変わってショックを受けることも少なくありません。
例えば、一重まぶたの厚い人が切開による眼瞼下垂手術を受けると、涼しげな一重まぶたが急に座布団をたたんだような二重になり、相当な違和感を感じるでしょう」
「手術に失敗した」という人は、こうした術式の選択を誤った末に生じた不自然さが気になって悔やんでいることが多いというのだ。
「一重でまぶたが厚いタイプの人には、『眉毛下皮膚切除手術』という、眉下部分の皮膚を切って、たるみをとる手術をおすすめします。これだけで重さが軽減されますから、とても楽になりますし、イメージも変わらないと思います。繰り返しますが、眼瞼下垂の手術では、その人のまぶたのタイプを判断しての術式の選択が大切なのです」
周りに手術をしたことを知られたくない、という人は、“切らない眼瞼下垂手術”がおすすめだ。
「目の美容整形である埋没法の手術を応用したもので、目の裏を糸で止めます。実施している医療機関は美容外科が多く、やはり基本的には自費での手術になります。しかし、これでしたらダウンタイムを短くすることができますし、手術を受けたことにほとんど気づかれないでしょう」
(取材・文/千羽ひとみ)
【PROFILE】
小室裕造先生 ◎帝京大学医学部形成・口腔顎顔面外科学講座主任教授。小児の頭蓋顔面の先天異常や顔の外傷の治療を主に扱っている。美容外科領域でも、これらに関連した顔面の骨格の手術、まぶた周辺を中心とした顔面の若返り手術を得意としており、手術の腕前は「早くて、繊細かつ正確」と定評がある。