「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
ジャガー横田、夫の木下博勝氏

第35回 ジャガー横田

 女子プロレスラー・ジャガー横田の夫で、医師の木下博勝氏のパワハラ疑惑を『週刊文春デジタル』が報じました。木下氏と働いていた准看護師の男性が、同氏のパワハラ行為の損害賠償として300万円を請求、応じない場合は法的措置も辞さないと戦う気マンマンのようです。木下氏は所属事務所を通して、書面で「事実と異なる点が多数ある」と反論しています。

 パワハラ行為とは、どんなものだったのか。『週刊文春デジタル』から抜粋してみましょう。

 木下氏と准看護師は車で訪問診療をしていたそうです。同行した新人助手がドアを閉める音が大きすぎると感じて気に入らなった模様。准看護師に対して突然怒りだし、

木下氏「そういう風に閉めたら耳がおかしくなるだろ、お前。考えろ」
准看護師「はい、すいません」
木下氏「『はい』って言ってるけどな、鼓膜破れたらお前金払えんのか? 医者の給料なんぼだと思ってるんだよ。お前、払えると思ってんのか慰謝料」

 言葉だけでなく、准看護師の運転が気に入らないときは、後部座席から蹴ってきたり、頭を小突いたりしたそうです。

 准看護師は「木下先生は医者が一番偉いという考えなんです。助手の僕が気を遣うのは当たり前で、『おれを誰だと思っているんだ』が先生の決まり文句でした。病院には内科の先生が多いのですが『外科医であるオレは内科医よりも偉い』と話すこともありました」とも話しています。

「序列にこだわる」木下氏

 パワハラかどうかは双方の言い分を聞いて法律の専門家が判断することですから、私は何も言えません。が、木下氏は「医師は看護師より上」「外科医であるオレは内科医よりも偉い」といった具合に、「序列にこだわる」傾向があるように私は感じました。看護師は自分より「下」だと思っているからこそ、暴力に訴えたり、自分の価値をおカネではかるような話をするのではないでしょうか。

 ジャガー夫妻は結婚当初から、テレビカメラの前で木下氏がジャガーをからかうようなことを言い、怒ったジャガーにビンタされたりプロレス技をかけられて「ごめんなさい、許して」という寸劇を繰り広げていたことから、恐妻家と見られてきました。それゆえにネットでは、ジャガーが怖すぎて、そのストレスが職場の看護師に向けられたのでは? という意見がありました。つまり、ジャガーがヤバい妻だから、夫までヤバくなってしまったという考えなのでしょう。

 ですが、この夫妻、本当に「気弱な夫と鬼嫁」の組み合わせなのでしょうか?

夫へのビンタは「レスラーらしさ」を示すため

 元フジテレビアナウンサー・中野美奈子や女優・酒井美紀など、芸能人が医師と結婚することはそう珍しくありません。しかし、女子プロレスラーと医師というのは、異色の組み合わせですから当然、メディアも注目します。テレビに出る際、ジャガーが楚々(そそ)とした振る舞いで木下氏を立てたら、なんの意外性もない。ジャガーのビンタは「レスラーらしさ」を示すためであって、ふたりがどんな夫婦なのかは、また別の問題なのではないでしょうか。

 夫妻に限らず、芸能人のキャラと実際が違うことはよくありますが、それは“お仕事”なわけですから、ある意味当然です。しかし、ジャガー夫妻の新婚当時に密着した番組を見たときに、ちょっと嫌な感じだったことを覚えています。

 仕事で疲れていたからでしょうが、帰宅した木下氏はバラエティーで見せる笑顔はなく、ジャガーは夕食の焼き魚の骨まで取ってあげていた(そうしないと、食べないそうです)。ジャガーがウキウキしてやっているのなら新婚さんらしいと言えるでしょうが、木下氏は結構、気難しく、ジャガーも割と従順なのかもしれないと思った覚えがあります。

「自分は医者である」という強い自意識

 木下氏は「ジャガー横田の夫」として芸能活動を始めます。木下氏の言動を見ていると「自分は医者である」という意識がかなり強いタイプだと思うのです。

 例えば2014年、ラジオ番組『テリー伊藤のフライデースクープ そこまで言うか!』(ニッポン放送)の「鬼嫁におびえる夫たち」に出演した木下氏は、ジャガーとの初対面をこういうふうに振り返っています。

 リングドクターのアルバイトをしていた木下氏は、ジャガーの後輩に「東大病院のセンセイよ」と紹介されます。ジャガーは「気持ち悪~い」と言ったそうです。木下氏は「それまではセンセイセンセイと言われていて。そんなふうに言うのはジャガーが初めてだった」と語っています。医師に向かって「気持ち悪い」という女性に会ったことがなかったことから生まれた恋を「いい話」と見る人もいるでしょう。しかし、逆の見方をすると「医師は敬われるべきだ」「医師は下にも置かぬ、もてなしぶりを受けるものだ」と思っているからこそ、衝撃を受けたわけですから、それだけ強い自負の表れだと見ることもできるのではないでしょうか?

 木下氏の不倫にも「自分は医者である」という自意識がにじんでいるように思います。夫妻の間には2006年に第一子が生まれますが、2014年に木下氏は沖縄に住むシングルマザーとの不倫を『フライデー』(講談社)にスクープされます。

 この女性は水商売をしていましたが、木下氏が院長をしていたクリニックから月20万円の“お手当”を出すことで、夜の仕事をやめさせたそうです。相手の女性に《僕が好き?それとも、生活のため?》とやんわり「オレはカネを出している」感をちらつかせたり、女性の都合が合わず、会えないときは《僕が一番であってほしかった》《(木下氏を)最優先でお願いします》といった具合に、自分を上においてもらわないと納得いかない様子。女性には「男の子を産んでほしい。ただし、医者にさせるのが条件。そのための学費は全部出すから、マスコミには黙っておいてほしい」と言っていたそうです。ちなみにこの時期、ジャガーは第二子妊娠のための不妊治療を続けています。

木下氏がジャガーを結婚相手に選んだ本当の理由

 それにしても、医師である自負が強く、妻ではない女性に出産を頼むほど子どもを医師にしたいとこだわるのならば、なぜ木下氏は女性医師と結婚しないのかと思う人もいるでしょう。女性の医師であれば、医師になったという“実績”を持つわけですから、申し分ないパートナーなはずです。

「縁がなかった」と言ってしまえばそれまでですが、「自分と相手、どちらが上かにこだわる」性質の人にとっては、女医さんはいいパートナーではないと思うのです。だって、自分と同じ資格や同等の経済力を持っている女性では威張れないじゃないですか。木下氏が自分が優位でいることに重きを置いているタイプだとしたら、医学部や医師の世界を知らない、かつ年上のジャガーになら存分に威張れるでしょう。結婚することで有名人の夫となり、芸能人になれるわけですから、ジャガーは“最高の妻”ではないでしょうか。

 レスラーとして鳴らしたジャガーが、木下氏に威張られるはずはないと思う人もいるかもしれません。しかし、彼女の過酷な生育環境を心理学にあてはめて考えると、「相手のいいなりになりやすい」性質を持っているとも言えるのです。

『解決!ナイナイアンサー』(日本テレビ系)によると、ジャガーは四姉妹の末っ子として生まれます。お父さんは腕のいい職人さんでしたが、お酒を飲んでしまうので生活はかなり苦しかったそう。

 お父さんは酔ってはお母さんや子どもに暴力をふるい、時には刃物を持ち出して切りつけることもあったと言います。耐えきれなくなったお母さんは、幼いジャガーだけ連れて家出。置き去りにされたお姉さんたちは、それぞれ違う施設に連れていかれて、家族は生き別れになります。お母さんは居酒屋で仕事をはじめ、10歳年下の男性と再婚しますが、名字が変わったことでジャガーはいじめられたそうです。高校に進学することも考えましたが、家計を助けるため、中学を出てプロレスの道に入ります。

 大人の生きづらさの根本的な原因が親との関係にあるとして、カウンセリングを行うスーザン・フォワード氏のベストセラー『毒になる親 一生苦しむ子ども』(講談社文庫)によると、「アル中の親を持つ子どもの多くは、普通なら受け入れられないことでも受け入れる許容量を発達させている」とあります。また両親が離婚した場合、「家族に何かネガティブな出来事が起きると、子どもはほぼ必ずと言っていいほど、それが自分のせいではないかと感じる」とも述べており、これらのことから考えると、ジャガーが尋常でない我慢強さと罪悪感を持っていることが推測されます。

 この我慢強さや罪悪感がプラスに働けば、厳しいプロレス界で成功することもできるのでしょうが、マイナスに働くと、目の前の男がヤバいことに気づかないで、認められるためにひたすら言いなりになってしまうこともあるでしょう。

 木下氏の不倫騒動の際、ジャガーは「主人を信じている」と鬼嫁とは思えないコメントを出しています。医師を目指す息子の大維志くんが、今年、中学受験に挑戦した際は「受験の先輩として、的確なアドバイスをしてくれる。尊敬できる主人です」とこれまた昭和妻のようなしおらしさを見せていました。その気持ちが心から感じていることなのか「医師が至上」という序列を叩き込まれた結果、夫を敬うべきと思いこまされているのか。ジャガーは一度考えてみてもいいかもしれません。


仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。