氷川きよし 撮影/廣瀬靖士

「芸能生活を続けてきて、最高に充実したなと思っています」

 '19年を振り返って、そう語ったきよしくん。3月には20周年記念両A面シングル『大丈夫/最上の船頭』をリリース。

「『大丈夫』、最初は少し不安だったんです。受け入れてもらえるかなって。演歌ファンの方は、もっと重厚なものを求めているんじゃないかとも思ったけど、氷川きよしは氷川きよしでしかない。ほかの誰にもなれない。自分自身とみんなを励ましたい。そう思ってこの曲に決めました」

 不安は杞憂、25万枚超のロングヒットに。さらに5月には、大阪・新歌舞伎座で13年ぶりの座長公演を行った。

それほどのギャップがあるのか……と

「公演中、レコード会社の人が“なんかバズってるんだけど!”と教えてくれて」

 昨年のクリスマスライブ『きよしこの夜』で『限界突破×サバイバー』を熱唱した動画のことだ。

「約半年前の映像だし、アニメ『ドラゴンボール超』の主題歌だったのは2年前。“なんで今さら?”と思ったけど、でも、あのときは思いきって真っ黒のアイシャドーを自分で入れて。“自分のやりたいことやるから!”って(笑)」

 その動画が、ツイッターで日本1位、世界でも4位に。

「うれしかったですよ、すごく。ただ、“あの氷川きよしが!?”というみなさんの声にはびっくりしましたね」

 作品に合わせて自分を演じ、歌う。デビュー以来、一貫してきたことが、表現方法を変えただけでこれほどまでに注目された。驚きを隠せなかったという。

「あの姿に、それほどのギャップがあるのか……と。自分じゃわからなかった。そして、あまりにイメージを作り上げていたことに気づいたんです」

キャリアと共に増える葛藤

 今年もっとも印象深いのは、日本武道館(7月)と大阪城ホール(9月)での20周年記念ライブだという。

 “演歌界のプリンス”。デビュー以来、愛情と敬意が込められたそのキャッチフレーズは、ずっとついて回ってきた。

氷川きよし 撮影/廣瀬靖士

「デビューのときは股旅演歌を歌い、“若いのに珍しい”と、みなさんに盛り上げていただきました。本当にありがたく思っています。ただ、だんだんそのギャップがなくなっていき、ここで落ち着いていていいのかという思いがありました」

 生意気だと思われてはいけない。あまりに自分を出しすぎるのもどうか……。それぞれが持つ“氷川きよし”に誠心誠意、応え続けてきた。しかし10年後、20年後……。自分自身がわからなくなりそうな恐怖感もあった。

「40歳を過ぎ、歌い手としての成人を迎え、そろそろ自分自身の人生を歌い、自分を生きることをテーマにしてもいいんじゃないかと思ったんです。自分には幼少期から、たくさんのコンプレックスがありました。

 そんな葛藤の中、歌という表現方法を見つけた。歌うことで、そしてみなさんのおかげで、自分の苦悩や悲しみを喜びに変えられた。それを伝え、励ましを与えられる歌手になりたい。いいところばかりを見せるんじゃなく、自分の使命感をしっかり持って歌っていきたい。自分の中で得られた確信です」

ヒヤヒヤするような変化はあった方がいい

 デビュー20周年という節目の年の心境の変化は、ヴィジュアル面にも大いに現れた。夏には神宮球場での始球式、世界最大のアニソンイベントへの出演。ロックで中性的でセクシー。新たな魅力を爆発的に開花させる。『タマホーム』のCMも話題をさらった。秋にはインスタグラムも開設。氷川きよしの加速度的進化が止まらない。

 

「インスタ、すごく楽しいですよ。おこがましいんですがアーティストとしての自分を表現していきたい。おしゃれやファッション、メイクも大好きなので」

 開設1か月でフォロワー数は9万7000人超え。今なお、雪玉を転がすように増大している。自撮りやオフショットをアップするたび、SNSとスポーツ新聞は大騒ぎ。“Kiiちゃん、キレイ”など、その美しさを称賛するコメントも多数寄せられている。

「みんな本当に優しいですよね。今は、自分の好きなことをやっているからストレスフリー。逆に、ストレスを抱えていることは身体によくないですよね。心と身体はつながっているから、心の充実が身体の充実になっているのかな、とは思います」

 ピカピカの肌とキラキラの笑顔がまぶしい。演歌界で確固たる地位を築いていたなか、新たな自分をさらけ出すことは、勇気が必要じゃなかった?

「勇気、いりましたね。演歌だけが好きな方もおられると思うので。でも、自分はステージに上がる側なので、やっぱりギャップは必要。“えっ!?”と思われるような、どこかヒヤヒヤするような変化があったほうが絶対にいいと思うんです」

 恩人でもある亡き会長には、よくこう言われていた。“芸能人は笑われてなんぼだ”。

「'20 年はもっと大胆にやろうかと思っていて。またキャラ変しますよ(笑)。テーマは“自分を生きる”。今は歌うことが本当にすごく楽しくて。ますますいろんな歌を歌いたい。

 自分にとって歌は剣であり、衣装は盾。それらをもって、勇者のようにたくさんの方を照らしていきたい。同時に、たくさんの傷ついた心を癒すナイチンゲールでもありたいんです」

20回目、節目の紅白
「やっぱり20周年の節目の年なので、出させていただきたいという気持ちは強かったです」
 
大みそか恒例の『第70回 NHK紅白歌合戦』。'19年も出場おめでとう! 五木ひろしの49回目、郷ひろみの32回目に次いで、きよしくんの出場回数は白組で3番目に多くなっている。
「みなさんがこの1年、応援をしてくださったことで出演できる、年に1回の素晴らしい歌の祭典ですから。年の始めから、“とにかく年末に向かって”という目標を掲げてやってきたので、本当に感謝しています。幸せです。とにかく一生懸命、心をこめて歌います。みなさんが喜んでくれたらいいな、と思っています!」

スタイリング/伊藤典子(hoop) ヘアメイク/助川良幸(Allure)