24時間365日営業が当たり前のコンビニエンスストア業界の働き方が変革期を迎えている。
「きっかけは近年の2つの出来事でした」
とコンビニ加盟店のオーナーらでつくる「コンビニ加盟店ユニオン」の執行委員長、酒井孝典氏が説明する。
時短営業の実証実験
「1つ目は2018年の福井県の記録的な大雪のときのこと。加盟店のオーナーがコンビニの本部に何度も営業停止を訴えても認められず、約50時間以上、連続勤務したことを訴えました。
2つ目は'19年2月に大阪府の加盟店オーナーが人手不足による長時間労働から時短営業に踏み切ったときです。コンビニ本部は猛反対。強引に阻止しようとする顛末(てんまつ)が報じられると問題への関心が集まりました」
こうした背景を契機にセブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマートの大手3社は'19年、それぞれのフランチャイズ加盟店に対し、時短営業を認める方針を打ち出した。
コンビニの時短営業について街では、
「閉店している時間が深夜ならあまり問題はないです」(40代の主婦)
「最近は公共料金支払いや宅配便とかで利用することのほうが多いです。家の近くにコンビニが1店舗しかないので、帰りが遅くなったときに閉まっていたら困ることもあるかも……」(30代・会社員)
と賛否はそれぞれ。
前出・酒井氏がオーナーの兵庫県姫路市の店でも時短営業の実証実験を行った。'19年10月13日から12月15日まで毎週日曜日深夜0時から午前6時まで店を閉めた。
「もともとお客さんの少ない時間帯。“閉店で困った”というクレームは来ていません」
と話すが、実験を通して明らかになったのは別の負担だった。
「レジの管理や商品の準備、掃除、片づけなど閉店と開店の作業です。スタッフができればいいけど、そうなると人件費がかかる。時短営業で休む時間は少し増えたかもしれませんが、閉めている時間は短いし、開けていてもあまり変わらない気がしています」
問題はそれだけではない。
金銭的な負担が大きい
「時短営業をすることで本部から送られる月10万円の奨励金がもらえなくなる可能性があるんです」(前出・同)
客足は少ない時間とはいえ、売り上げは落ち、本部からの支援も切られるのは死活問題。
「時短営業だけではコンビニが抱える問題の根本的な解決にはならない」(前出・酒井氏)
さらに、加盟店オーナーたちが過酷な実情を語る。
「レジ袋やお弁当の割りばし類、トイレの貸し出しもすべて店の負担。災害時には指定公共機関として支援もしますが行政や本部からの補助はありません。お客様には快適で安全に過ごしてもらいたいからこそ引き受けますが、結構きついのも現実です。特に金銭的負担は大きい」
と、ため息をつくのは埼玉県の加盟店オーナー・Aさん。売り上げの金額に応じて本部に支払うロイヤリティーの割合も関係している。
「売り上げの70%以上を本部に払っている店舗もあると聞きます。オーナーたちはその残りから店舗の運営費、廃棄、人件費、自分たちの給料などを工面します。そのため利益はほとんど残らない場合が多い」(前出・Aさん)
東京都の加盟店オーナーBさんも、
「人件費を抑え、生活費を確保するために週80時間以上働くオーナーは少なくない」
オーナーの90%が過労状態
オーナーの年収が400万円以下という店舗もざら。前出・酒井氏も労働時間が400時間を超える月もあるというが、年収は300万円以下だ。
「時給を上げたくてもなかなか上げられない。もし上げられたとしても従業員には主婦も多く、夫の扶養のため今度はシフトに入れる時間が減ってしまう。外国人ですら集まらないから結局はオーナーが働くことになります」
とBさんは苦悩をのぞかせた。
「オーナーの90%が過労状態。過労死一歩手前の人もいます」(前出・Aさん)
負担が増えれば辞める店も増えることも考えられるが、
「飲食物や日用品の販売だけでなく、銀行や役所の機能もあり、社会インフラの一部として位置づけられ、生活に欠かせないものです。だからオーナーが辞めて店がなくなったからとすむ問題じゃない。店舗数が少ない郊外では住民生活に影響が出る可能性がある。だからこそ、消費者のみなさんにも現状を知ってほしい」
と前出・酒井さん。さらに、
「営業時間、ロイヤリティーの問題など1社だけでなく業界全体で見直す必要があります。そして労働時間や最低賃金など、フランチャイズのオーナーを守る法律も日本にはありません。業界を変えるためには法整備や本部に対して改善命令を出せる行政機能の設置も必要だと思います」
前出・Aさんは訴える。
「私たちオーナーも普通の生活がしたいと願っています。利用者も含め、みんなでコンビニのあり方やその働き方を考えなくてはいけない」
'20年はコンビニ問題にとっても大きな変革がある年になるのだろうか。