ミルクボーイ

 今年の『M-1グランプリ』を制した『ミルクボーイ』は'07年に結成されたコンビで、“苦節12年”での快挙となった。それにしても、披露された“ネタ”自体が話題になったのはこれまでになかったことではないだろうか。

 ネタに使われた『コーンフレーク』の代表的なメーカーである『ケロッグ』は商品がネタで“イジられた”にもかかわらず公式ツイッターで、

《ミルクボーイさんのコーンフレークのネタ、腹筋崩壊のレベルでわらったw史上最高点での優勝おめでとうございます》

 と祝福し、彼らに1年分のコーンフレークを提供することを約束。

 また2本目のネタでテーマとなった『最中』を扱う和菓子店もこれに負けじと反応。熊本にある老舗和菓子店はツイッターで、

《ミルクボーイさん優勝おめでとうございます。上顎にひっつきにくい『ふた口最中』です!》と祝福。ほかの全国の和菓子店も優勝した彼らのネタをもじって、商品PRをしつつ、優勝を祝福する声が広がっている。

「ネタは面白いけれど……」

『M-1』で優勝すると“一夜にして世界が変わる”と言われている。優勝が決まった直後からマネージャーの電話は鳴りやまず、テレビやラジオの番組出演依頼が殺到、CMのオファーも入ってくる。『ミルクボーイ』も例外ではなかった。

 翌朝に出演した番組で一睡もしていないと語っていた。まさに“M-1ドリーム”なのである。すでに3か月半先までスケジュールが埋まっており、優勝からわずか数日で50近い番組への出演が決まったという。これから、彼らはスター街道をまっしぐらということになる、ハズだが……。しかし、「そう簡単に出世街道に乗れるとは限らない」というのはキー局でバラエティー番組の制作を担当するディレクター。

まず、そもそもネタを披露する番組の需要が減り続けている状況。そのためテレビ出演となると、バラエティー番組が主流になります。ところがお笑い芸人が増えすぎ、また世代交代もほとんど行われないので、入り込む隙間が狭くなっています。そのなかで突出した存在になるにはバラエティー能力が高くなければなりません。具体的にはアドリブとフリートークです。彼らはこれまで、台本ありきのネタに力を入れてきたので、その点には懸念があります

 たとえCMに起用されることが多くなっても、テレビ出演そのものが少なければ、認知度も低くなり、やがては忘れ去られてしまうだろう。

 振り返ってみると歴代M-1優勝者は、誰もが受賞直後にバブルが訪れているのは間違いない。しかし、なかにはブレイクは受賞直後だけで、その後は東京のキー局ではあまり姿を見ないコンビがいることも否定できない。そのコンビたちも、確かにネタは面白かった。しかし、その後のポジションを築くには何かが足りなかった。

 受賞後の『ミルクボーイ』のコメントを聞くと、まだ緊張がほぐれていなかったせいもあり、特に面白いことを言うワケでもなく、ある意味、彼らのきまじめさが際立った。それはかえって好感が持てたともとらえられるが、今後に一抹の不安を感じたのは私だけではないだろう。

テレビ局の現場では、過去の例からみて“『M-1』優勝者がブレイクするには「タレントしての華」か「インパクトの強さ」を持っていることが売れる法則”だとよく話されています。

 彼らの優勝直後、制作スタッフの間で出ていたのは“ネタは面白いけどちょっと地味だな……”という声でした。過去最高の得点を叩き出したふたりですが、去年の『霜降り明星』が優勝したときのほうが盛り上がった気がしますね」(同前)

 とりあえず、“食品ネタ”のバリエーションを増やせば、メーカーからのCM出演オファーが殺到するのは間違いないだろうが──。

<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌などで取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。