最近外食チェーンの中でも何かと話題を振りまいている『いきなり! ステーキ』。
2017年ぐらいにはブームになり、各地の店で行列ができたが、昨年から売上不振だという。そんな状況を打開するため、昨年12月3日から社長が直筆で来店を呼びかける「お願い」が各店舗に貼りだされた。
しかし、値下げや特典をともなうイベントでも何でもなく、単に来店を促すだけの内容だったため「上から目線」などとネットで炎上してしまう。
そうこうしているうちに12月下旬から、公式サイトの店舗ページに続々と【閉店のお知らせ】が掲示され始める。今後かなりの店舗が閉店になる模様だ。
同店には肉マイレージというユニークな顧客サービスがある。航空会社のマイレージのように、食べた肉の量がマイレージとして積算されていき、そのマイレージによって、数々の特典が用意されている。上級マイラーとなると、ドリンク無料だけでなく、行列ができていても優先案内するなどの特典もいっぱいだが、その道はけわしい。
ダイヤモンドマイラーの「実態」
入会から3000グラム(3キロ)未満までは“平マイラー”で、3000グラム(3キロ)以上になると、ゴールドマイラーとなる。さらに、20000グラム(20キロ)以上になると、プラチナマイラーとなり、100000グラム(100キロ)以上になると、最上級のダイヤモンドマイラーとなる。
最上級のダイヤモンドマイラーだと、最低でも100キロの肉を食べないといけないのである。この数字だけでも、上級マイラーになるには、かなりの覚悟が必要なのは一目瞭然。同店のホームページには、さらりと「一回500g食べる方だと200回」と書いてあるが、そもそも500グラムの牛ステーキは、一般男性からしてもかなりきつい量だろう。
この肉マイラーの世界には、ランキングも存在している。マイラーが食べた累計のグラム数をもとにした総合ランキングと、月間ランキング、さらに期間を区切ってのイベントであるマラソンランキングも存在する。
累計なので、いつから食べ始めたのかわからないが、総合ランキングのトップの人は、1821078グラム、約1.8トンという肉を食べている。月間ランキングも熾(し)烈で、トップの人は昨年12月25日現在、43964グラム、約43キロという肉を12月だけで食べているのだ。
イベントのマラソンランキングであると、トップの人は、3カ月で163187グラム、約163キロを食べている。なお、この肉にかかる金額は、一番安いリブロースステーキでさえ、グラムあたり、6.9円(税抜き)。ここまでの量になると、かかる金額もかなりのものになりそうだ。
いきステ、あるダイヤモンドマイラーの突然死
実は筆者の友人に、その肉マイラーのランカーがいた。
月間ランキングでは常連であり、マラソンランキングでは上位入賞を果たしていた。3か月で40万円以上を使って、100キロ以上のステーキを食べていた様子は、SNSで見ていても、驚くほかなかった。
同店の名物・ワイルドステーキという450グラムの量があるものを、一度の食事で三つ食べるなどを普通にやっていたのだ。月に36キロを食べたことさえある。いまから考えると、肉が好きというだけでなく、ランキングそのものが目標にもなっていたのかもしれない。
そんな彼であったが、彼は現在、月間ランキング上にいない。今後、彼のマイレージが増えることはない。実は、彼は、数か月前に突然死してしまったのである。自宅に帰宅した直後、玄関口で倒れて救急車を呼んだものの、心停止のまま、この世を去った。
死因は心不全とされたが、事件性はないということで、正確な死因ははっきりしないのだが、まぎれもない突然死である。実は、まだ50代に入ったばかりだった。あまりにも予期せぬ死であり、遺族もその死を受けいれられなかったようだった。
彼が、肉食にこだわる理由は、別にあった。糖質制限ダイエットである。もともと、知り合った時、ぽっちゃり体型であった彼は、それを始めてから、かなりほっそりとなった。何事にも凝り性なのか、アプリを使って糖質を管理して、糖質ゼロに限りなく近い食生活を1年以上にわたって続けていた。
1日の糖質が5グラムでも彼にとっては多いようであった。結局、朝はプロテインのみ。昼は、『いきなり!ステーキ』で1キロ近くのステーキ(しかもつけあわせなし)を食べ、飲み物は炭酸水、夜も外食時はステーキで、自宅では糖質ゼロのロカボ麺などといった食生活だったのだ。また、栄養を補助するためにサプリメントも複数服用していた。
もちろん、彼の死と糖質制限ダイエット、ひいては『いきなり!ステーキ』中心の食事の因果関係は定かではない。
銀座TAクリニックの神林由香医師に、糖質制限ダイエットと健康について取材した。
「学会でもまだはっきりとした結論は出ていないのですが、医師は全般的に緩やかな糖質制限に対して肯定的です。2008年に発表された有名な論文で、カロリーを制限しなくても糖質さえ制限すれば体重が減少するという研究結果を示したものもあります。
老化に関しても、酸化に加えて糖化も老化に繋がることが、近年認識されるようになってきています。血糖値の観点からも食生活全体のバランスにおいて、糖質を控えめにし、急激な上昇を抑えるのが良いというのは、医師の中では共通認識になっています」
ただし、極度な糖質制限は健康への危険性があるという。
「具体的には1日に20g未満の糖質制限を長期間続ける場合などです。糖分が足りない場合、脂肪やタンパク質から糖を作る仕組みが人の体にはあります。これを糖新生と言います。これは過剰であれば肝臓と腎臓に負担がかかります。さらに、特に基礎疾患がある場合などでは、極度な糖質制限による低血糖が、突然死の原因になる可能性もあります。足りない糖分は、糖新生により作られ血糖値は保たれますが、それが追いつかない場合は低血糖になってしまい、最悪の場合、心不全につながります」
さらに美容の観点からも、ステーキの食べすぎは脂質や老化物質のとりすぎにつながり、推奨できないという。
現在、店舗の閉鎖が相次ぐ『いきなり!ステーキ』では、マイルを貯めて得た特典の消化のために肉マイラーたちが押し寄せているという。肉汁したたるステーキは、みんなが大好きな人気料理であることは間違いない。何事もバランス。ステーキとうまく付き合って、健康な生活を送っていきたいものである。