SNSを駆使して、スマホを隅々まで活用しつくすデジタルネイティブ世代。『ネットの上のみの“友達”が多い』ということがザラにあるこの世代において個人情報とともに、“いま”をオープンに多数と共有することに何の抵抗もない。
そんな利便性を悪用しての事件も多く起きている昨今、大人は子どもに何を伝えておくべきかをスマホ安全アドバイザーに聞きました!
スマホの“ブラックボックス化”
'19年、大阪で、千葉で、埼玉で相次いだ誘拐事件。そのどれもがSNSを通じ、子どもが見知らぬ人に会っていたというもの。SNSを通じて事件に巻き込まれる子どもの数は増加の一途で、'18年は18歳未満の未成年1811人が被害に。わが子がスマホによる犯罪に巻き込まれたら? そんな不安を抱いている人も多いのでは。
「親御さんの不安に拍車をかけているのは、スマホの“ブラックボックス化”。まずは知るところから始めましょう」と話すのは、「親が知らない子どものスマホ」などの著書がある、スマホ安全アドバイザー・鈴木朋子さん。鈴木さん自身、2児の母親。
物心つくころからネットがあった、いわゆる「デジタルネイティブ」との感覚の違いに驚くといいます。今どきの中高生は、LINEで友達と常時コミュニケーションをとり、情報収集にはTwitterやInstagramを駆使。進学時には、入学前からTwitterなどのSNSに「#春から〇〇」と進学先を投稿して友達をつくります。
すべてがスマホで完結するため、「パソコンは何に使うの?」と話す子どもも多いそう。しかも、ITに疎い親にとっては、「スクショ」に「エアドロ」と聞き慣れない言葉が多数。子どもが夢中で見ている小さな画面のなかで、何が行われて、誰とつながっているかわからず、不安になってしまうのです。
スマホを知るために子どもと一緒に使う
鈴木さんがアドバイスするのは、まずは子どもの利用率が高い、アプリをお試しで使い、用語に慣れることだといいます。
「この先、ネットがなくなることはないでしょう」と鈴木さん。高校生になると、スマホを使う授業が登場することもあり、スマホを「危ないから」と遠ざけるだけでは、子どもは守れません。
使いすぎと怒るばかりではなく、子どもにLINE、Twitter、Instagramなど「お母さんにもやり方を教えて」と声をかけてみましょう。子どものアカウントをフォローすれば、SNS上の行動もそれとなくわかります。
さらに、スマホの利用にあたっては、「パスコードを親が管理する」「スマホの利用時間は○時まで」「知らない人にLINEアカウントを教えない」「個人情報がわかる動画、画像をアップしない」「人を傷つけるような言葉は使わない」など、ルールを決めましょう。
なぜルールが必要なのかということや、ルールを破った際のペナルティについても話し合っておきましょう。子どもが安全にスマホを使いこなせるようになるには、親の見守りが欠かせません。
SNSで犯罪に巻き込まれる子どもたち
'19年11月に発生した大阪の小6女児誘拐事件。容疑者と女児の出会いがTwitterだったこと、また女児が保護されたのが、大阪から400キロ以上離れた栃木であったことから、世間に大きな衝撃を与えました。
ネット上の危険を裏づけるように、小学4年生から高校生までの子どもへの調査で、53%が「ネットで知り合った実際の友達と会ってみたい、または会ったことがある」と答えたというデータも(2019年5月、デジタルアーツ調べ)。
なぜ子どもたちは知らない人に会うのでしょうか。「中高生ぐらいになると、本人は大人気分ですが、まだまだ子どもという危うさがあります」と鈴木さん。周りにいるのは親も含めていい大人だけ。
そのため、大人が危害を加えたり、性的対象に見たりするとは思ってもみないのではと指摘します。子どもを誘い出したい大人は、その無防備さにつけ入ります。ときには、「好きなアーティストのグッズやチケットがあるよ」と声をかけてくる場合も。悩みがある子どもに対しては話をよく聞く優しい大人を演じます。
「そうするうちに、子どもたちは『いい人、友達』と思うようになります」(鈴木さん)。
オンライン上では同世代の子どもなどと素性を偽ることも簡単です。「文字のやりとりは後に残りますが、SNSを入り口に、LINEの音声通話などに移ると痕跡が残らないことにも注意してください」(鈴木さん)。
SNSで目立つのが、自分の裸の画像を送るよう強要される「自画撮り被害」。言葉巧みに子どもに近づき、信用したところで写真を送らせます。親からしたら、なぜ知らない人にそんな画像を送るのか? と疑問しか残らなくても、SNS上で知り合った大人の巧みな脅しに逆らえなくなってしまうのです。
では、被害から子どもたちを守るためには? まずは文部科学省がYouTubeにアップしている「ネット被害」に関する動画などを見て、犯罪被害を含むネット上のトラブルを知りましょう。
文科省による「情報化社会の新たな問題を考えるための教材」がYouTubeで配信中。未成年者におけるSNSトラブル、詐欺(気軽な気持ちでゲームのIDを交換し、犯罪に巻き込まれる例など)、ゲームがやめられなくなるネット依存など、子どもたちが犯罪被害を含む危険から身を守るための対応策を動画で紹介。犯罪の手口などが動画で具体的に理解できる。
そして、スマホ利用に関して口うるさく注意するだけでなく、普段から「見てみて! ママ友からこんな写真が来たんだ」など、雑談レベルからスマホ利用について家族で話しやすい環境を作っておくことも大切。いざというときに「こんなメッセージが来たんだけど」と子どもが相談しやすくなります。
また、個人情報の公開範囲にも注意を。中高生の子どもは、SNSを主に友達同士でつながるために利用するため、顔出し、プロフィールに学校名を書くのは当たり前。個人情報を書く場合は公開範囲を指定する、非公開にするなどの約束を。
「たとえ子どもが知らない人とSNS上でやりとりしても、『会う』『写真を送る』というステップに至らせない。それが重要です」(鈴木さん)
SNSいじめへの企業対応
スマホのトラブルは、大人相手だけではありません。友達同士のいざこざやいじめも、いまやLINEやInstagramで起こります。LINEでは文字でのやりとりが主になるため、ちょっとした言葉遣いがきっかけでトラブルになることが多いもの。それがいじめに発展するケースもあります。
一方、'17年から中高生の利用時間が長くなっているInstagramでは、フォロワー数やいいねの数へのねたみが、トラブルのもとになることも。さらに、LINE上では悪口の投稿や無視、Instagramでは投稿画像への誹謗中傷コメント、嫌がらせをしている動画や画像を投稿する「さらし行為」でのいじめも。
LINEやInstagram側の企業もこうした問題は把握しており、InstagramはAIによる判定で、いじめ行為にあたる動画や画像を削除する取り組みを始めています。
また、LINEは「安心安全ガイド」、Instagramは「保護者のためのヒント」として、その機能からトラブル事例までを紹介する保護者向けのコンテンツを用意しています。2社とも公式サイトに情報を掲載しているのでぜひチェックを。
「簡単に画像や動画が撮れ、世界に発信できる。そんな世の中になってまだ10年前後。未熟なのは子どもも大人も同じ。親子で学んでいきましょう」(鈴木さん)
次のページでは、「子どもの会話のスマホ用語クイズ」を出題!
子どもの会話のスマホ用語いくつ分かる?
※添付の画像と照らし合わせて以下の解答をご覧ください。
1.エアドロ
iPhoneなどApple社のデバイス同士で画像や動画をワイヤレスで送り合える機能「AirDrop」の略。モバイルデータを使わず画像などを送受信できる。女子高生にiPhone人気が高い理由のひとつ。
2.スクショ
スマートフォンの画像を保存する機能「スクリーンショット」の略。Webページを共有するときは、URLをコピペするよりもスクショを使う子どもたちが多数。長文をスクショで送るケースも。
3.ステメ
LINEの「ステータスメッセージ」の略。自己紹介や近況を書く欄だが、メッセージや日常で感じたことなどの書き込みにも使われている。500文字書き込めるので、スクロールさせると「ムカつく」などの悪口が現れることも。
4.ストーリーズ
Instagramの機能のひとつ。最大15秒の動画が投稿できる。投稿された動画は24時間で消え、「いいね」機能がないため、日常を気軽に投稿する。
5.プリ
スマホの自撮りだと顔をしか映らないため、全身を映したいときはプリクラを使う。シールだけではなく、今はプリクラの撮影画像を即スマホで共有できる。流行りもの(タピオカなど)を持って、プリクラを撮ってスマホで共有するのが、女子高生のありがちな放課後の過ごし方。
6.ティーバー
「Tver」は、在京民放キー局が共同で立ち上げた、TV番組見逃し配信サービスおよび、そのアプリ。見逃したドラマをこのアプリでチェックする若者多数。しかし、動画を視聴すると「ギガが減る」。
7.WiFi、ギガ
ギガは「GB」のこと。本来はデータの単位だが、若者中心にデータ通信量の意味で使うことが多い。月々使用できる通信量を超えると速度制限がかかる。動画視聴が多い中高生は、月末にはギガ不足に悩むことに。WiFi(無線LAN)を使えばデータ通信量を食わない。
8.グルチャ
LINEのメッセージ機能で行われる、複数人数でのトーク、グループチャットの略。対して、1対1でのトークは「個チャ」と使われる。
(取材・文/仲川遼子 デザイン/黒田志麻)
ITジャーナリスト。スマホ安全アドバイザー。システムエンジニアとして働いた後、フリーライターに。身近なITに関する記事を執筆。デジタルネイティブ世代の娘2人を育てた経験から、SNS&ネットの安全な使い方をひも解く『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)など