今年こそやせる! 貯金! 勉強! 運動!……と、強い意志をもって新年の抱負を立てるも、ろくに実行できないうちに時は過ぎ、あっという間に1年経過。また翌年も似たような目標を立てている……。そんな経験がある方は多いのでは?
「でも、諦めるにはまだ早い!」と心強いアドバイスをくれたのは、明治大学教授で、話題の新刊『科学的に自分を変える39の方法』(クロスメディア・パブリッシング)の著者・堀田秀吾先生。
「『意志』ではなく、具体的かつ簡単な『アクション』を通じてダメな自分から変わる方法であれば、実行に移しやすいでしょう。しかも世界中の研究者たちによる、心理学・脳科学・言語学などの実験や観察で実証された“科学的な方法”なら、確かな効果も期待できるはずです」
さらに、どうせやるなら楽しいほうがやる気も出るし、続けやすい! ということで、できる限り前向きな気持ちで実践できそうな、ユニークな方法を6つ教えてもらいました。
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<性格・気質 編>
マイナス思考→感情を紙に書く!
数ある「欠点」のなかでも多いのがこちら、マイナス思考。ついつい物事を悪い方向に考えてしまう、ネガティブな自分を変えるには? その方法はとてもシンプル、「書くこと」です。
テキサス州にある南メソジスト大学のペネベーカーらの実験によると、「1日15分、ネガティブな感情について筆記すること」を4日間続けると、(筆記直後には一時的にネガティブな感情が強まるものの、)長期的にはポジティブになることが示されています。
実験から4か月が経過した後、「感情について書いた被験者」と「部屋の様子など、表面的な事柄だけを書いた被験者」を比べると、前者は気分・感情の改善が認められ、さらに体調不良の日数や健康センターへの訪問回数が明確に少なくなっていたのです。身体にまでよい影響があるんですね。
また、筆記の際に『洞察語』、つまり「思う・感じる・わかる」などの思考や理解に関する語を多く用いるほど、ネガティブな感情が軽減されることもわかっています。自分の考えや感情をより深く掘り下げて書くことが重要なようです。
もし、マイナス思考にお悩みなら、感情を紙に書き出すことを習慣にしてみてはいかがでしょうか?
怒りっぽい→三人称で自分を実況!
怒りっぽい人のことを「頭に血が上りやすい」と表現しますが、これ、実は脳科学的にも正解なんです。
怒りの感情は、脳の『大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)』から発生します。大脳辺縁系は、主に怒りや恐怖、不安などの「感情」を司る部位を含みます。人が怒っているとき、脳内では大脳辺縁系にバッと血流が集まって、その働きを促しているのです。怒りっぽい人、イライラしやすい人とは、「大脳辺縁系が活性化しやすい人」と言い換えてもいいかもしれません。
ミシガン州立大学のモーザーらが、怒りの感情の変化について研究を行いました。
被験者に嫌悪感を抱かせるような画像を見せた後、一方には、「いま“私”はどう感じているか?」と、一人称で自問自答してもらい、もう一方には、「いま“彼・彼女”はどう感じているか?」と、心の中で三人称で語ってもらいます。
そして、その際の脳波を測ってみると、大きな違いが見られました。一人称で語った場合よりも、三人称で語った人場合のほうが、感情に関わる脳の部位(大脳辺縁系)の活動が、急激に低下していたのです。
まさに怒っている真っ最中に、三人称で、あたかも他人の出来事のように自分を描写し語ってみるだけで、自身を客観視でき、怒りの感情を抑えることができたのです。
とはいえ、「絶賛怒り狂っているときに、論理的なことなんて考えられない!」という人も多いかもしれません。そんなときはまず、大きく深呼吸を!
ノースウェスタン大学のフィンケルらの研究によると、人間の怒りは10秒ほど我慢すれば、ある程度治まるとのこと。
イライラは脳の大脳辺縁系で起こり、大脳新皮質でそれを抑えるのですが、大脳新皮質が働き出すまで数秒かかります。深呼吸をして時間を置くと、大脳新皮質が活性化するまで待つことができるのです。
<行動・習慣 編>
実行力がない→自分の行動を予言する!
「今年こそはあれをやるぞ!」と、あれこれ思い浮かべてはみるものの、いざ実行するとなると、自信がないし、面倒くさいし、具体的な手段は浮かばないしで、ぜんぜん行動に移せない……そんな自分を変えるには?
アメリカの社会学者・マートンが、『予言の自己成就』という現象を提唱しています。これは、たとえ間違った予言であったとしても、その予言を信じることで実現してしまう、というもの。「きっと失敗する」と思い込み、努力をすべき時間をクヨクヨしながら浪費してしまい、結局、失敗してしまうような場合がこれにあたります。
この『予言の自己成就』をポジティブに変換して使うことが、「実行力がない!」と悩む人にはいいかもしれません。
例えば、「プロジェクトAは今期中にスタートするよ」「私、ダイエットがうまくいっていて、あと1か月で3キロはやせそうなの!」と、やるべきことを自ら予言するんです。
さも予言者のように明確な未来や目標を述べると、それに向かって具体的に努力したり、目標を知った周囲の人が手助けしてくれたりすることで、本当に実現できる可能性が高まるからです。
また、これには『パブリックコミットメント』という効果も働きます。周囲に対して自分の意見や立場を明確にする、つまりパブリックな形でコミット(意思表示)すると、一貫した人間に見せようと努力し、そうなろうとする意識が強く働くのです。
行動力がないと自覚する人は、まず予言です。「海賊王になる」「秒速で5億円を稼ぐ」「私、失敗しないので」と高らかに言い放ち、おのずと行動できる人を目指しましょう。
三日坊主→やったことを数字で記録!
いざ実行に移せたとして、さらなる敵は“続かない問題”。3日で終わったジム通いに英会話、禁煙に朝活……。いわゆる“三日坊主”とどう戦うかは、人間の永遠のテーマかもしれません。
なにせ人間の脳は飽きっぽくできているので、継続力がないのはむしろ自然のこと。脳では、さまざまな事柄に適応しようとする『馴化(じゅんか)』という作用が起こります。馴化とはいわば“マンネリ化”で、物事にいちいちトキメキを感じなくなる、ということ。
物事が目新しいうちは『報酬系』と呼ばれる脳の回路が働き、快楽物質であるドーパミンが分泌され、脳も活性化するのですが、やがて馴化が起きてしまうと報酬系は働かなくなります。この報酬系が、三日坊主を脱却するカギを握ります。
香港中文大学のシェンとシカゴ大学のフシーは「無意味な報酬に人間はどう反応するか」を調べました。実験では、被験者にパソコンを使った作業を指示。画面上には常に“謎のスコア”が表示され、作業を終えるたびに、スコアがランダムに増加します。
ただ、「そのスコアに特に意味はなく、作業を評価しているわけでもない」ということに、被験者の多くは作業の途中から気づいていました。
一見、無意味に表示されているだけのスコア。しかし、この謎のスコアが速く上がるほど被験者のモチベーションが上がり、スコアが増えないときは作業効率も下がる、という結果が出たのです! そう、「無意味な数字が脳への報酬として働いた」のです。
三日坊主なあなたは、この“謎のスコア方式”を応用し、「行動を数字で記録」してはいかがでしょうか? 数字を脳のご褒美にするのです。
ダイエットで体重の経過をつけていくことは定番ですが、停滞期に入って体重が減らなくなると、数値も変化せず、脳が喜ばなくなり、モチベーションが低下します。このやり方では、ただ行動と結果を記録しているのみです。
“謎のスコア方式”は、例えば、「ジムに行ったら1」「1km走ったら5」「スクワット50回は10」のように自分で決めたポイント数を記録するので、体重が減っても減らなくても関係ありません。
もっとシンプルに、「ダイエットに繋がる行動をしたらカレンダーにマルを書く」だけでもOK。31個のマルがたまっていくことで報酬系が刺激され、脳がうれしいと感じるので、続けられるのです。これは、「人間は一度始めたことが途絶えると不快に感じる」という性質も利用しています。ソーシャルゲームの「ログインボーナス」と同じようなことです。
<コミュニケーション 編>
人見知り→アイコンタクトを増やす!
以前、バラエティー番組の『人見知り』がテーマの回で、お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんが、「楽屋など、大勢の人がいるシチュエーションでは、飲み物のパッケージの裏側にある文字をひたすら読んでいる」という自身の人見知りエピソードを披露されていました。俳優の中井貴一さんも、若いころは人見知りであったことを公言されていますし、実は世の中、人見知りだらけなのかもしれません。
人見知りとは、往々にして「相手の目を見ることが苦手」、ということではないでしょうか?
実は、「あえてアイコンタクトを増やすと会話への参加度合いが高まる」ということが、クイーンズ大学のバーテガールらの実験でわかっています。
実験では3人組に、パソコンの画面を通してビデオチャット的にグループ会話をしてもらい、会話への参加度合いを比較しました。被験者は1人だけで、残りの2人はサクラです。
結果、話しているときに聞き手が適宜、アイコンタクトをした被験者は、あまりしなかった被験者よりも、会話への参加度合いが22%も高かったのです。
つまり、アイコンタクトをしながら話すと、相手がよりたくさん話してくれるということです。
また、テキサス州にあるコミュニケーション分析を専門とする企業『クォンティファイ・インプレッションズ』によると、人は会話をしているとき、相手の目を見ている時間は通常30~60%程度ですが、アイコンタクトの時間が60~70%になると、より深い心理的なつながりを感じ始めるという調査結果もあります。
ですから、話したくても話せない、という人は、まずアイコンタクトを増やすことから始めてみてはいかがでしょうか? 自然に会話の量が増え、場が温まっていけば、人見知りなあなたでも打ち解けやすくなるはずです。また、「目は口ほどに物を言う」といったように、目で訴えかけることで、相手と会話したい・親しくなりたい、という気持ちも伝わりやすくなります。
また、脳は身体の動きに騙される特徴があるので、「アイコンタクトをしたら会話する」、ということを自分の中でルールづけしてしまえば、いずれ「目を見たら会話に参加する」という行為も臆することなく、当たり前のようにできるようになるかもしれません。
気がきかない→文学作品を読みまくる!
飲み会で上司のグラスが空なのに気づかない、会議資料をクリップなどでまとめずバラバラで配って手間をかけさせる……ほんのちょっとの気配りを欠いただけで“気がきかないヤツ”と言われてしまうのは、もったいないことです。
一方で、気がきくと褒められるのは、大荷物で困っている人がいたら声をかける、自分がドアを閉めるタイミングで誰かが来たらサッと開けるなど、相手が求めているものをすぐに提供できる人がほとんど。気がきく行動というのは、相手の立場になって考えたり行動したりできる、すなわち、相手に「共感」するからできることです。
実際、チューリッヒ大学のハインらの研究では、困っている他者を助けるときには、脳の共感と関わりがある部位が活性化していることがわかっています。
逆にいえば、気がきかない人というのは、共感性が低い人だということがいえます。では、どうしたら共感性を高め、人に親切になれるのでしょうか?
小説を読むことで共感性が高まることが、ニューヨークのニュースクール大学のキッドとカステイノの研究で明らかになりました。
実験では被験者を4グループに分け、それぞれに、(1)大衆小説、(2)(純)文学作品、(3)ノンフィクション を数分間読む、(4)何も読まない という行動をとってもらったあと、他者の考えや感情を想像したり理解したりする能力を測るテストを実施。
結果は、(2)の文学作品を読んだグループがもっとも高い点数を取り、しかも、文学的な作品が嫌いな被験者にも好結果をもたらしました。
文学作品は、登場人物の状況や心理的背景がしっかりと描かれているものがほとんど。それらを読むことで、感情移入した結果、他人の人生への共感や理解につながるということです。
気がきかない自分を自覚しているなら、周りをよく見て意識的に他者への親切行動を増やしつつ、日常的に文学的な小説を読むことがおすすめです。
さまざまな困難と立ち向かいながら成長や変化をしていく主人公に気持ちを寄せることで、身近な人たちへの共感性も高まり、いずれ気がきく人へと成長できるでしょう。
【著者プロフィール】
堀田秀吾(ほった・しゅうご) ◎明治大学教授。言語学博士。熊本県生まれ。シカゴ大学博士課程修了。ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了。言葉とコミュニケーションをテーマに言語学、法学、社会心理学、脳科学などのさまざまな分野を融合した研究を展開。熱血指導と画期的な授業スタイルが支持され、『明治一受けたい授業』にも選出される。研究の一方で「学びとエンターテインメントの融合」をライフワークとし、研究活動において得られた知見を活かして書籍を多数執筆。テレビ番組『ワイド! スクランブル』のレギュラー・コメンテーター、『世界一受けたい授業』『Rの法則』にも出演するなど、多岐にわたる活動を展開している。