(写真左から)木下優樹菜、唐田えりか

《最近、ホットワインが好きになりました。身体も温まり、おすすめですよ》

 これは女優・杏の夫の俳優・東出昌大との不倫でいま話題の唐田えりかが’18年のクリスマスにインスタグラムに投稿したもの。何げない投稿に目を光らせたネット特定班と呼ばれる人たちは、すぐさま東出のインタビュー記事を掘り起こす。理想のクリスマスデートを聞かれた東出が、

《ホットワインとか飲みたいです》

 と答える記事が見つかり瞬時にネットに拡散。唐田の投稿画像の日付が’18年5月15日で、カンヌ映画祭のため2人はフランスにいたことも確定。奥に映る男性の手が東出だということもすぐに特定された。唐田による匂わせが次々に明るみになり、これ以上の掘り起こしを恐れたのか、唐田のインスタグラムは閉鎖されている。

『週刊文春』が2人の不倫を報道してからわずか数時間でこれらのインスタは掘り起こされたのだった。早すぎる!

 ほかにも特定班により引退にまで追い込まれそうなのがタピオカ騒動から年末離婚で話題の木下優樹菜。

発端は木下優樹菜の長女とスタイリストの顔が似ているとツイッターやネット掲示板の5ちゃんねる、ガールズちゃんねるなどで噂されたことでした。そのネタに飛びついた特定班と呼ばれるネット探偵たちがこぞって木下の浮気の証拠を暴こうとやっきになった結果、“たかしあいしてる”の縦読みが発覚。1月に入り、SNS上で“相手は乾貴士です”との一文が投稿され、瞬く間に相手はスペインのサッカー1部リーグのSDエイバル所属の乾貴士選手だと広がりました」(ワイドショー関係者)

 その後、乾選手もインスタグラムで“ゆきなだいすき”と縦読み投稿していたことから疑惑は拡大。火のないところに煙は立たないというが、まったく火のないところから大炎上にまで持っていくこの特定班とは何者なのか。なぜそこまでするのだろうか。

最も優秀な探偵力を持つ『既婚女性板』

 ネットに詳しいジャーナリストの渋井哲也さんが彼らの生態について解説する。

職業も年齢もバラバラで団体でもないです。あくまでも趣味でやっている人たち。燃料が投下される(ネタを落とすという意味)のはだいたい昼か深夜で夕方が少ないことから主婦が多いのではないか、と言われていますがネタや分野ごとに人も変わりますからね。

 特定班はインターネットの普及で登場しました。私が覚えているのは’00年ごろで当時は2ちゃんねるの『ニュー速+』板で事件が起きると当事者のブログを発掘したり、ということが発端でしたね」

 現在、特定班の中でも最も優秀な探偵力を持つのが5ちゃんねるの『既婚女性板(いた)』に常駐する主婦だという。

「中には既婚女性になりすました男もいますが、彼女たちは鬼女(きじょ)と呼ばれ、何か事件が起きると既婚女性板をのぞく報道関係者も多いんです」(渋井さん)

鬼女に直撃! なぜ特定するの?

「報酬もないし完全に趣味です。自分が投下したネタで盛り上がっているのを見るのが快楽なんです」

 40代主婦の夏樹さん(仮名)は、「胸糞(むなくそ)の悪いいじめ事件」専門で特定班をしている。

「加害生徒が法律で裁かれないなら私が裁いてやろうと思って」

 夏樹さんがいじめ加害者の“特定班”活動をしたのはきっかけがあったという。

「’12年に大津市で中学2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺した事件がありましたよね。あの事件を知ったとき被害生徒がかわいそうすぎて涙が出ました。それで既婚女性板に加害生徒の家族の情報が出ていたので、実際に現場に行って加害生徒の家を写真に撮ってアップしたりしました。この事件では加害生徒の親も既婚女性板に降臨してさんざん暴言を吐きまくってきていたので、悪いことをしたとはまったく思っていませんね

調査に集中したいときは「カレー煮込む」

 加害生徒の親についての真相は定かではないが、それ以降、夏樹さんの中で「胸糞の悪いいじめ事件」が起きるたびに加害生徒の本名をできる限り調べ、拡散しているという。夏樹さんが調べる際に使用するツールはツイッターが主だという。

「事件についてのワードを検索するとときどき信憑性(しんぴょうせい)のある名前が出てきたりします。その相手にDMを送ることもあるし、つぶやいている人物の周辺を探ったりそこからフェイスブックに飛んだり、ネットのツールを駆使しますね。鬼女板でよく使われる言葉で“カレー煮込む”という言葉があるんですけど、これはカレーを作り置きして夫や子どもに食べさせて、自分はネットに集中するという意味があります。私も実際に集中したい事件があるときはカレー煮込みます(笑)

 加害生徒の名前が人違いだったらどうするのだろうか。

「自分が捕まってもかまいませんよ。罰金払ってすぐ出てこれるし、何より被害生徒の近くにいたのは確かだから加害者には変わりないんじゃないですか?」

 と自分の行いが正義だと信じて疑わない様子の夏樹さん。現場にまで行くという行動力や執念には夏樹さんの過去にいじめの被害にあうなどの出来事があったのだろうか。

「いえ、私も私の子どももありがたいことに被害にはあっていません。ただ、許せないというのと暇つぶし。本当に趣味ですね。趣味でいじめ加害生徒に制裁をあたえています(笑)」

 と、あっけらかんと答える。前出の渋井さんも、

「彼らの行動に深い意味はないですよ。祭りになるのを楽しんでいる。SNSが普及した現代においては趣味のひとつになっている感覚」

 だという。

「少年犯罪の加害者の写真、実名をさらし続けるサイトもありますし、殺人事件の加害者の家族や周辺を追い続ける特定班もいます」(渋井さん)

炎上で必ず出てくる『なりすまし』

 一方で特定班たちの人違いにより被害をこうむった人たちもいる。昨年、ワイドショーをにぎわせた“あおり運転事件”。傷害容疑で逮捕された宮崎文夫被告の横でガラケーで録画する同乗者の女性は、特定班が誤った情報を拡散した最悪なケース。

「これは特定班が人違いでまったく関係のない女性をガラケー女として拡散してしまい、彼女の会社やフェイスブックには嫌がらせの電話やコメントが殺到しました。精神的苦痛をこうむった女性が、特定班の誤った情報を拡散したとして、愛知県豊田市議を名誉棄損で訴える事態に発展しました」(渋井さん)

 また、炎上状態になると必ず出てくるのが『なりすまし』の存在だと渋井さん。

「唐田さんの不倫騒動ですぐに出てきたのが唐田えりかの偽インスタグラムです。縦読みで《東出大好き》となるんですけど、よくよく見ると名前がカラテエリカになっているし、投稿文の最後も《きんたま大きなきんたま》などと書かれていて、すぐに偽物とわかりそうなんですが、この投稿を信じて批判している人も多くいました」

 もともとのファンがその探偵力を発揮する場合もある。

「アイドルの彼女の匂わせを暴いたケースなどはほとんどファンですね。彼女たちは意中のアイドルと共演した人を徹底的に調べます。そこで匂わせ行為に気づくんです。これはファンならではの探偵力でしょう」(渋井さん)

 ファンならば執念を持って追跡することも不思議ではないが、破局に追い込むまではしていないようだ。

今、最もファンから警戒されているのは女優の平祐奈とキンプリ平野紫耀の組み合わせです。例えば平野が『かぐや様は告らせたい』という映画に主演しているときに平がインスタライブで“かぐや様”と脈略もなく発言。平野のものと思われるオープンカーに乗ってインスタストーリーをあげる。おそろいの眼鏡をかけるなど、これまでもお互いに匂わせが多く、歓迎されていないカップルですね」(芸能記者)

バカッター投稿は人生の終わり!?

 特定班に追われるのは一般人も同様だと渋井さんは警鐘を鳴らす。

いちばん気をつけなくてはいけないのは一般人でツイッターに悪ふざけ動画を投稿する通称“バカッター”たち。だいたい学生でまだモラルもわからないうちからSNSに気軽に自分の個人情報を投稿しています。特定班は彼らが身内だけで撮っていたおふざけ画像をスクショ(スクリーンショット)して、拡散します。そして学校や就職先にクレームの電話を入れるまでがセットです。実際にこれで内定取り消しになった人も大学を退学させられた学生もいます

 特定班に狙われたら最後。人生を棒に振る危険もあるのだ。

◇特定班が暴いた主な出来事

■住谷杏奈ロールパン偽造疑惑(’07年)
ブログに手作りのロールパンとしてアップしたものが市販のロールパンだったことが画像検索により特定された。

■五輪エンブレムパクリ疑惑(’15年)
デザイナーの佐野研二郎氏がデザインした東京五輪のエンブレムに盗用疑惑があがり白紙撤回に追い込まれた。ほかにも佐野氏がこれまで手がけたデザインのパクリ疑惑が検証されるサイトが次々に出現した。

■仙台いじめ母子心中事件加害者特定(’18年)
仙台でいじめを受けたとする小学2年の少女とその母親が心中するという痛ましい事件が起き、特定班は加害者を特定。今でも加害者とされる人物の実名がネットに出ている。

■女子中学生暴行動画拡散事件(’19年)
葛飾区の中学生の女子を集団で取り囲み暴行する動画がツイッターにアップされ、すぐに加害少年の名前、中学などが特定され中学校の副校長が認めるまで追い込んだ。

教えてくれたのは…
ジャーナリスト 渋井哲也さん◎長野日報を経てフリー。自殺やインターネットに詳しい。主な著書に『ルポ平成ネット犯罪』などがある