人生100年時代を迎えて、定年後も働く人が増えている。多くの会社は60歳が定年だが、国は65歳まで雇用を継続することを義務づけ、さらには希望すれば70歳まで働けるようにする方針も打ち出した。
だが、シニアライフアドバイザーの松本すみ子さんは、「再雇用された人たちはハッピーになっていないのが現状」と話す。そんな悩めるシニアに向けて、イキイキとしたセカンドライフを送るためのアドバイスをまとめた著書が『定年後も働きたい。』だ。
なぜ俺が仕事を辞めなければいけないんだ
「定年後もできるだけ長く働いてもらう。そんな方針を国が打ち出した大きなきっかけは、人口の多い団塊世代が一斉に定年退職を迎えた“2007年問題”です。年金世代が増えるのに、それを支える現役世代は少ないのですから、『だったらシニアも自分でお金を稼いでもらいましょう』というわけです。
一方で、定年を迎えたシニアたちも、まだまだ働きたいという意欲がある。今の60歳は若くて元気ですから、『能力は衰えていないのに、なぜ俺が仕事を辞めなければいけないんだ』と理不尽な思いを抱えている人が多いのです」
国はシニアに働いてもらいたいし、シニアも働きたい。しかも今は人手不足だから、働くシニアが増えれば社会全体が助かるはずだ。なのに実際は、定年後の第2の人生がうまくいかないケースは多いという。
「いちばんの理由は、シニアが希望する仕事がないこと。求人はあっても、今までの仕事人生で培った能力やスキルを活かせる働き口がない。なぜなら、雇う側に『高齢者に現役世代と同じ仕事はできない』という思い込みがあるからです。だからシニアの求人は、補助的な仕事や簡単な作業が中心になってしまう。
再雇用制度にしても、国が決めた法律だからしかたなく守っているだけで、60歳以上の能力を活かす仕組みや体制が整っていない会社がほとんど。だから再雇用されても、自分のスキルや経験とは無関係な部署に回されたり、やることもなくただ席に座っているだけで肩身の狭い思いをする。そんなの全然ハッピーじゃないですよね」
まずは働き方のイメージを見直して
ただし、そんな状況を招いてしまうのは、シニアたちの意識にも原因がある。
「再雇用されたシニアが『これであと5年は安泰だ』と考え、ただ会社にしがみついている人が多いのも事実。会社としては、本来なら若い人たちのお給料に回すべき原資を使ってシニアを雇っているのに何も会社に貢献せずダラダラされたら、冷ややかな対応になるのもしかたありません」
そこで松本さんは、幸せなセカンドライフへの第一歩として、「まずは働き方のイメージを見直して」とアドバイスする。
「今の中高年層は“働く=雇われる”というイメージが強い。だから、今まで勤めていた会社に再雇用されれば安心だと思ってしまうのです。でも世の中には、自分が得意なことを活かして起業したり、フリーランスになる選択肢もあるし、NPOや有償ボランティアなどの社会貢献活動に打ち込む人もいる。
最近は地域に役立つ活動をして収入を得る“コミュニティービジネス”も増えていて、この本でも地元の人たちの交流の場になるカフェを始めたご夫婦を紹介しています。だから発想を切り替えて、自分を活かせる場所を広い視野で探すことが大切です」
自分を活かせる場所、それはつまり「自分がやりたいことをやれる場所」だ。だが松本さんによれば、男性は「自分がやりたいことがわからない」という人も多いらしい。そこで必要になるのが、妻の力だ。
尻を叩いてでも夫を外へ出して
「やりたいことを見つけるには、とにかく外へ出ていろいろな人に会ってほしい。すると人とのつながりや興味の範囲が広がって、やりたいことが見つかるきっかけになります。もし夫が家に閉じこもっていたら、尻を叩いてでも外へ出してください(笑)。男性は会社の外の世界を知らないし、同僚以外に友達もいない。
だから定年後に頼れるのは奥さんだけという人も多いのです。私のシニア向けのキャリア講座にも、『妻にすすめられた』という男性がよく参加しますし、もっと気軽に趣味を楽しんだり、散歩しながら地元の人たちと会話するだけでもいいので、奥さんからさりげなく外へ出るようすすめてあげるといいですよ」
また、育児や介護を終えた女性の中にも、「もう1度働きたい」と考える人はいるだろう。松本さんは、「労働力不足の今、シニア主婦は貴重な戦力。ぜひ社会に出て」とエールを送る。
「専業主婦でブランクがあっても、シニア女性なら接客業やサービス業で引く手あまた。特に飲食店やコンビニは深刻な人手不足ですから、喜んで雇ってくれます。それに今は働き方も柔軟になり、『朝の3時間だけ』『夕方の2時間だけ』など、自分のペースで働ける。
お金は入るし、職場で友達もできるし、時間も有効活用できるし、いいことずくめです。元気なうちは何歳でも働くのが普通になりつつある今は、シニア女性にとっていい時代なんですよ」
ライターは見た!著者の素顔
IT企業に20年以上勤めた後、48歳で起業した松本さん。「40代になると、会社勤めもつまらなくなっちゃって(笑)。そろそろ何か自分がやりたいことをやろうと思ったんです」。
シニア世代の支援事業を選んだのは、「私自身が団塊世代で、周りを見て“このオジサンたちは定年を迎えたらどうするんだろう?”と思ったから。ですから私は、『やりたいことがない』というシニアには、『自分に関係のあることから考えたらいかがですか』とアドバイスしています」
(取材・文/塚田有香)
まつもと・すみこ 早稲田大学第一文学部東洋史学科卒業。IT企業で広報・