行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、妻が妊娠中にもかかわらず夫が不倫したトラブル事例を紹介します。
東出昌大と杏、残りの焦点は離婚するか否か
2020年一発目の文春砲には驚きましたね。3人の子どもに恵まれ、温かい家庭を築き、まるで朝ドラの世界が現実化したような、おしどり夫婦……そう思われていた東出昌大さんと杏さんが現在、離婚の危機だとは。
報道によると、東出さんは共演していた女優と親密な関係に。杏さんに見つかったものの、東出さんが「もう会わないし、連絡もしない」と約束したので事なきを得ましたが、不倫相手と連絡をとり合っていたのが再度、杏さんに見つかった模様。東出さんは、一度は許してくれた杏さんを欺いて不倫を続けていたのだから、まさに恩を仇(あだ)で返す仕打ちです。結果、家から閉め出されて別居に至ったようですが、当然といえば当然です。
すでに東出さんは報道の一部始終をほぼ認めているので、残りの焦点は夫婦が離婚するか否かです。時系列をたどると東出さんの不倫が発覚したのは、杏さんが第三子を妊娠している最中。
私は数々の離婚相談に乗ってきましたが、「妊娠中の不倫」は芸能人に限らず、一般人でも起こりうる悲劇。毎年必ず、同様の事例が数件は私の耳に入ります。もちろん、身重の妻が養育費を決め、離婚届を書き、役所へ提出するのは少数派です。ほとんどの場合、出産準備のために里帰りし、実家近くの病院で出産、心身ともに落ち着いた頃合いに離婚の諸手続きに移ります。
いずれにせよ妻の妊娠中に夫の不倫が発覚した場合、十中八九は離婚は避けられません。なぜ夫婦は「妊娠中の不倫」という悲劇を乗り越えることができないのでしょうか?
出産前の妻が受けるショックはあまりにも大きく、怒りの矛先が胎児に向けられ、夫の子を宿していることを許せなくなり、堕胎を考え始めるケースもあるほどです。そして出産後、子どもを一緒に育てようとしても夫は弱みを握られているので妻に何も言えなくなるし、妻は夫に少しでも気に入らないところがあると「不倫した分際で何なの!」と蒸し返してくる。何より不倫の過去を引きずったまま夜の営みを行うことは難しいので、はやばやとセックスレスに陥ってしまい、離婚は秒読みになるのです。
医師の夫が妻の妊娠中に女医と不倫
それでも「妊娠中の不倫」を経験したのに、今なお結婚生活を続けている夫婦もいます。今回紹介する医師の妻・橋田理恵さん(29歳・仮名)もそのひとりです。
医師と有名芸能人は「収入の高さ」が共通しています。さらに、芸能人はロケを理由に外泊しても怪しまれませんし、医師も当直や学会などを理由に外泊しても怪しまれないという点でも似ています。
理恵さんは、もともと夫と同じ病院で働く看護師。夫は理恵さんと付き合う前、別の看護師の女性と交際していたようで、二股の末、夫が理恵さんを選んだのでした。そして今回の不倫相手は、同じ病院に勤めている医師の女性。
「男の人ってやっぱり同じことを繰り返すんですね。結婚したら変わってくれると思っていたんですが……。それでも私は主人のことを今でも信じています」
と理恵さんは言います。
彼女が離婚せず復縁に至ったポイントは、「妻との不仲が理由か」「妻子の存在を隠したか」「夫が不倫相手をかばうか」「不倫相手に離婚すると言っていたか」「不倫相手にプレゼントを渡したか」「修羅場の切り抜け方を知っているか」の6つ。詳しく解説していきましょう。
夫:橋口淳(36歳)勤務医(年収1800万円)
妻:橋口理恵(29歳)専業主婦 ☆相談者
長男:橋口陽太(6歳)小学生
夫の不倫相手:木下春香(34歳)同僚医師
「主人のスマホを見てしまいました。すると、私の知らない女性と性的関係を持っていることを初めて知りました」
理恵さんが夫の不倫を疑ったのは、スマホのホーム画面に現れたLINEの通知でした。「愛している」「早く一緒になりたいね」「世界でいちばん大事な人」など甘い言葉のオンパレートが表示されたので、理恵さんはこっそりとスマホのパスワードを解除し、中身を閲覧してしまったそう。
「主人は医師という職業柄、夜も昼もなく働いていたので、父親としての仕事をお願いしたことはなく、ほとんど私ひとりで子育てをしてきました」
と理恵さんは言いますが、ちょうど第二子を身ごもっている最悪のタイミングでした。
不倫の証拠を夫に突きつけると
もともと夫は出張で国内外に出かけることが多いのですが、当時は毎週のように泊まりの出張が続いていたので、理恵さんも「さすがに多すぎるのでは? 本当に仕事なの!?」と首をかしげたのです。理恵さんは限りなく怪しいけれど確証がないという状況に耐えかねて、興信所を依頼してしまったそう。
具体的には、夫が学会の出張で使うホテルで興信所のスタッフが待ち伏せし、夫と女性を尾行し、どの部屋に入るのかを撮影するという段取りでした。後日、スタッフは理恵さんに報告書を渡してくれたそう。
理恵さんが恐る恐る報告書を開くと、そこには夫と女性が「夫の部屋」に入り、3時間が経過し、女性ひとりが部屋から出てくる写真が──理恵さんの予感は的中したのです。そこで理恵さんは夫に対して調査書を突きつけ、「これってどういうこと?」と問い詰めたのです。
ここで1つ目のポイント、「妻との不仲が理由か」が関係します。もし、理恵さん夫婦が不仲だったら、どうでしょうか。夫が不倫の事実を認めた結果、信頼を損ね、夫婦の関係が今以上に悪化して家庭に居場所がなくなると困るので、夫はなんとしても隠し通そうとするでしょう。そして居心地が悪い家庭に嫌気がさして不倫相手へ現実逃避をしたという経緯があれば、夫は理恵さんに対して後ろめたいので、バレたときに動揺の色を見せるはずです。
しかし、理恵さんが夫のスマホを見るまで夫婦関係はいたって良好でした。そのため、夫は理恵さんに対して罪悪感を抱く素振りも見せず、こう言い放ったのです。
「お前のことも彼女のことも好きなんだ。俺は結婚しても恋愛したいタイプ。彼女のことだって特別なことではないんだ」と。
もし、夫が不器用でひとりの女性に100%の気持ちをかける性分なら、不倫相手への愛情を増やせば妻への愛情が減るので、掛け持ちは無理です。さらに、仕事をしながら家庭と不倫を両立させるには時間を捻出(ねんしゅつ)しなければなりませんが、段取りが下手だと「二兎(にと)を追うものは一兎をも得ず」になりかねません。いつも時間に追われてイライラし、周りに当たり散らすような夫なら、ますます不倫相手だけに傾斜していくでしょう。
しかし、夫はマメで器用なので複数の女性を難なく愛せるタイプ。医師という激務の傍ら、時間を作り、妻だけでなく不倫相手を愛するスゴ腕の持ち主。バレても悪びれる様子はなかったようです。
妻である理恵さんを差し置いて、彼女と懇ろになったのは完全な裏切りです。それでも理恵さんが夫を憎み切れなかったのは、不倫相手と同じか、それ以上に愛されていた実感があったからです。
妻子の存在を隠したり、不倫相手をかばう素ぶりはなかった
2つ目のポイントは「妻子の存在を隠したか」です。夫は理恵さんと長男の写真をスマホの待ち受けに設定していました。もし、夫が不倫相手と会うときに待ち受け画面を変更したり、結婚指輪をはずしたり、自分には妻子がいることを隠したり……不倫の隠蔽を繰り返していたら、理恵さんをないがしろにしている証拠です。しかし、夫は「そんなことをするわけがないだろ!」と否定したそうです。
3つ目のポイントは「不倫相手をかばうか」です。「妻の存在」に尻込みする不倫相手に対して、夫が「何かあっても俺が守るから」と約束したり、「奥さんと私、どっちが大事?」と聞かれたとき、「お前だよ」と口説いていたら理恵さんのショックは大きいでしょう。しかし、夫は「どっちのほうが大事かって? 順序がつけられないよ」と見栄を張らなかった模様。
4つ目のポイントは「不倫相手に離婚すると言っていたか」です。もちろん、理恵さん夫婦の間で離婚の話が出たことは一度もありません。それなのに夫は「今、話をしているところ。そろそろ離婚できそうだよ」とウソを並べていたら、不倫相手の存在は妻を上回るので、理恵さんは怒り心頭だったでしょう。しかし、「妻と離婚するつもりはないよ。それでもいいならついてきてよ」と毅然(きぜん)とした態度をとったとのこと。
つまり、不倫相手は夫が既婚だと知りながら誘いに応じ、慰謝料を請求される危険があるのに身体を許し、略奪できる見込みがないのに関係を続けたのです。そんなかわいそうな彼女に対する理恵さんの感情は、怒りから憐(あわ)れみに変わっていったそうです。本来、理恵さんは不倫相手に慰謝料を請求することができる立場ですが、請求する気もうせてしまったそう。
修羅場の“乗り越え方”を知っているかも重要
5つ目のポイントは「不倫相手にプレゼントを渡したか」です。もし、夫が仕事で活躍せず、家庭で孤立し、不倫相手以外に自分の居場所がないのなら、高価なプレゼントをあげたり、高級ホテルのスイートルームを予約したりして、金にモノを言わせ、不倫相手をつなぎとめたでしょう。夫婦の貯金が不倫のデート代に流用されたら、理恵さんも頭にくるはずです。
しかし、夫は病院の外科で活躍しており、理恵さんは第二子懐妊中で家庭内も充実しています。公私ともに順調なのに不倫相手にすがりつく必要はありません。実際のところ、外科医である夫は院内で憧れの的なので、不倫相手に振られても、また別の女性を口説けばいいので、夫の心には余裕があるのです。そのため、不倫相手にプレゼントを渡しておらず、むしろ彼女からもらう一方。件(くだん)の学会で2人が利用したのは病院が用意したシティホテルなので、理恵さんはそれほど腹が立たなかったようです。
6つ目のポイントは「修羅場の切り抜け方を知っているか」です。もし夫の周りに不倫や離婚の経験者がいなければ、夫婦の修羅場をどのように乗り切っていいのかわからなかったでしょう。しかし、医療関係者(医師、看護師、MRなど)の不倫率や離婚率は高いとも言われているので、夫は同僚などからアドバイスを授かっていたのではないでしょうか。
妻は今の生活を重視し、無条件で夫を許した
このことから理恵さんは夫が不倫相手と駆け落ち──家を出ていき、不倫相手と一緒に暮らし、理恵さんに生活費を入れないという事態には至らないと判断したようです。実際のところ、住宅ローンが月30万円という都内の高級住宅街に住むことができるのも、学費が月20万円のインターナショナルスクールに長男を通わせることができるのも、夫の存在があってこそです。
夫の遊びを許さず、不倫をきっかけに離婚し、今の生活を手放すわけにはいきません。夫の女遊びは金銭面を保証してもらうための“必要悪”だと割り切ることにし、途中まで言いかかった離婚の「り」の字を飲み込んだのです。
不倫を容認する条件として違約金(再度不倫をしたら〇〇〇万円支払う、など)付きの誓約書にサインさせたり、帰宅したらスマホのロックを解除したり、小遣い制(妻が家計を管理し、妻が夫へ小遣いを渡す)に変更したりせず、理恵さんがほぼ無条件ですませたのは、それよりも今の生活のほうが大事だからです。このような条件をつけたら、夫婦関係が悪化し、夫は息苦しさを覚え、家を飛び出してしまうかもしれません。これでは本末転倒です。
妻が離婚を決断するのは「不信感」が積み重なった場合
ここまで理恵さんの苦しい胸の内を紹介してきました。
不倫でできた溝を完全に埋めて、夫婦の関係を原状回復するのは難しく、特に妊娠中の場合は、離婚に至るケースが圧倒的多数です。「子どもが小さい」「両親に反対された」「経済的に不安」「気持ちの整理がつかない」など別の理由で思いとどまるケースも存在しますが、全体の10%以下という印象です。
夫の不倫に対して妻は嫌悪感を抱きますが、嫌悪感だけで離婚を決断するわけではありません。なぜなら、何年、あるいは何十年もかけて築いた信頼関係は、嫌悪感だけでご破算になるほど柔(やわ)ではないからです。それでも妻が離婚を決断するのは「不信感」が積み重なった場合です。
例えば、夫が「相談に乗ってもらっていただけ」「仕事上の付き合いだけ」「1対1で会ったことはない」「一線を越えていない」「もう連絡をとらない」などの言い訳をしたとします。しかし、実際に夫が仕事以外の用件で女性と会っているのなら、単なる相談相手ではありません。しかも、女性の家やホテル、車内などで2人きりで過ごしていたら、夫が並べ立てた言い訳は真っ赤なウソだったとわかります。
夫婦の間に起こる問題は不倫だけではありません。問題が起こるたびに妻は夫に対して「ウソをついているのでは」「隠し事があるのでは」「約束を守ってくれるだろうか」などと疑わざるをえませんが、これでは夫婦関係を修復するどころか、亀裂は広がるばかりで、どんどん悪化していきます。
つまり、不倫はあくまで「きっかけ」にすぎず、離婚が決定的になる原因は「ウソ」です。バレるようなウソをつくか、下手なウソをつくくらいなら白状するか……それが離婚するか否かの境目になることもあるのです。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/