「中国産の玉ねぎは品切れになったところ。にんにく、しょうがはまだ納入業者に在庫があるみたい。国産に比べて単価が安く、焼き肉店などの飲食業者も購入していくんですよ。高値の商品ばかりになってお客さんが来なくなったら困るから、入荷が止まらないか心配だよね」
と話すのは、東京・墨田区の『スーパーイズミ』の五味衛社長。商売を始めて40年、「なるべく安く提供したい」との思いで奮闘してきた。
国産野菜の奪い合いに
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中国で、工場再開が延期されるなど足踏みが続く。多くの日本企業の現地工場もストップしたまま。国内ではマスクに限らず、中国製品がいつ消えてしまうか心配する消費者が少なくない。
現況が続けば、どのような商品がなくなるのか─。経済、流通、中国事情にそれぞれ詳しい専門家に尋ねた。
経済アナリストの森永卓郎さんは飲食業者らが買う「業務用野菜」を挙げる。
「外食産業が使っている野菜って、かなりの部分を中国産が占めているんです。いまその入荷が滞っていて、冷凍の在庫がなくなると国産野菜の奪い合いが始まります。メニューにある商品を出さないわけにはいきませんから。当然、値段は高くなるし、スーパーの惣菜や弁当にもかなり使われているはず。業者は戦々恐々としているでしょう」
と森永さん。
実際、ある業務用野菜の卸売会社は《今後しばらくは中国野菜の輸入に影響が出ることは確実》とホームページで告知し、国産玉ねぎやにんじんなどの引き合いが強まるとの見方を示している。
業者の先には消費者がいる。リーズナブルな価格の飲食チェーン店などで中国産は重宝されており、「国産やオーガニックにこだわる人でなければ相当食べていると思う」(森永さん)というから、私たちの食生活に直結する問題だ。
割り箸やビニール傘も
食品以外ではどうか。
流通アナリストの渡辺広明さんは意外な商品を口にする。
「いま足りなくなりつつあるのは割りばしです。スーパーやコンビニなど弁当を販売する小売店は心配でしょう。割りばしやつまようじは、ほぼ中国製で、困ったことに代替品となりうる安価なプラスチック製のはしも多くは中国で生産しています」(渡辺さん)
仮に弁当から野菜が消えても肉やご飯は食べられるが、割りばしがなくなると“マイばし”が必要になってくる。
ほかにも……。
「ビニール傘が店頭から消える可能性があります。割りばしと同様に中国への依存度が高く、使い捨て感覚で購入されることも多い。便利かもしれませんが、こうした“ぜいたく品”は海外ではあまり見かけません。中国国内の混乱が続く中、日本のためだけに生産再開を急ぐ優先順位は低いかもしれませんね」
と渡辺さんは指摘する。
中国製品が市場を席巻する中、次に何がなくなりそうか見当をつけるのは難しい。
「100円ショップを毎日覗いていれば、この先、何が足りなくなりそうか動向がわかるのではないでしょうか。中国製の商品が売り場を占める割合は高く、入手困難になるおそれがあります。何でも100円で手に入ったこれまでとは状況が変わるかもしれない」(渡辺さん)
さらに、渡辺さんは、見落としがちなものとして「商品を包装するフィルムなどのパッケージ」を挙げる。なければ商品として成立せず、国内で代替品は作れるもののコストは高くなりそうだという。
必要なぶんだけ買って
中国情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は、「いまやありとあらゆるものがメイド・イン・チャイナ。問題ないものはないくらい」として次のように話す。
「まず、ペットボトルやプラスチック製品は影響を受けるでしょう。感染の広がり方によっても変わりますが、加工食品や冷凍食品、自動車にいたるまで、加工の一部や部品を含めほぼ中国がかかわっています。工場が稼働しても労働者が戻らないと商品は動かないので、1か月後ぐらいが深刻なのではないか」
富坂教授によると、2002~'03年ごろ対中依存が顕著になってから初めての危機。「中国では極端に感染を怖がる労働者も多い」(富坂教授)というから先は読みにくい。
前出の森永さんは「ほかにも衣料、玩具は中国製が多い。時計、デジタルカメラ、スマホも組み立ては中国が目立つ」と付け加えた。
また、マスクの欠品が解消しない中、前出の渡辺さんは「衛生関連商品では消毒液のノズルも心配」とピックアップしたうえで、こう話す。
「詰め替えできる消毒液を持っていたら容器は大切にしましょう。心がけてほしいのは何であれ過剰に買わないこと。花粉症の人が困るのに、必要以上にマスクを買うのはいただけません。買い占めるのではなく、他者に思いやりを持って必要な分だけ買いましょう。消毒液がなければ、ハンドソープや石けんでもいいわけですから」(渡辺さん)
どんなときもモラルと冷静さは失わないように。