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 警察の対応をあざ笑うかのように、ますます巧妙さを増している特殊詐欺。総被害額は年間350億円以上だが、ダマされたことにすら気づいていないケースも。詐欺・悪徳商法対策の第一人者に聞いた“引っかからない”手段とは──。

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 警察や金融機関による「振り込まないで」という呼びかけがあるにもかかわらず、一向に減らない『振り込め詐欺』。架空請求や還付金なども含めた特殊詐欺による被害総額はなんと年間約364億円にものぼる(警視庁統計・平成30年度)。しかも、これは警察に届けられた数字であり、実際の被害総額はさらに高いという。

「被害者の多くは、『知られたら恥ずかしい』『早く忘れてしまいたい』といった心理が働きます。10万円、20万円など比較的被害額が少ないと、その事実を隠して泣き寝入りするケースもあるんです」

 そう話すのは、社会心理学者で、詐欺・悪徳商法対策の第一人者である西田公昭さん。振り込め詐欺のニュースを耳にしても“なぜ息子の声がわからないの?”と首をかしげ“私は大丈夫”と思っている人は多いだろう。だが、その過信が危ない!

「例えば、誰かから電話がかかってきて“この人は詐欺師?”なんて疑わないですよね。彼らは最初、感じがよくていい人の仮面をかぶって近づいてきます。ときには警察や社会保険事務所の者ですと名乗ってきたりもする。それを見破ることは非常に難しい。

“まさか、あんないい人が”と被害に遭ってから驚く人も多い。ですので、ひとり暮らしの高齢者に限らず、しっかりした人でも、今までダマされた経験のない人でも、誰でも被害者になりうるのです

 それほど現在の詐欺の手口は巧妙になり、進化している。引っかからないためには、まずはその手口を知っておいてほしい。

登場人物2人でより巧妙に 【新オレオレ詐欺】

 振り込め詐欺の中でもっとも多いのが、オレオレ詐欺。息子になりきって「オレオレ」という単純な手法から進化した新バージョンが横行している。一例を紹介しよう。

 見知らぬ着信音からの電話に出ると「母さん、オレだけど」と。たたみかけるように「カバンを電車に忘れて、同僚に電話を借りてかけている。もし鉄道会社から忘れ物の電話がかかってきたら聞いておいて」と慌てた様子。しばらくすると「●●駅の落とし物係です。本人確認のため住所と電話番号、勤務先を」と聞かれ、母は息子の個人情報を伝える。

 10分後に息子から電話があり、カバンが見つかったことを息子に告げる。ところが、カバンを受け取った息子から再び連絡が入り、

「カバンの中から小切手が盗み取られていた! 今日じゅうに振り込まなきゃいけないお金なんだ! 母さん、300万円貸して!」

 と窮状を訴える。さらに

「いま仕事を抜けられないから同僚に取りにいってもらう」とも。母は息子を助けたい一心で、同僚と名乗る男にお金を渡してしまう。

「“息子が小切手を盗まれた! どうしよう……”と母親は不安になって、冷静な判断ができなくなります。不安や恐怖をあおるのは、犯人側の常套(じょうとう)手段なんです」(西田さん、以下同)

 息子の声ではないとバレないように、最初に“今日さ、なんだか風邪ひいて声がヘンなんだ”と言い訳するケースもあるという。

「オレオレ詐欺がなくならないのは、犯人側がこれまでの失敗から学び“こうツッコまれたら、こう説明する”と手口を常に進化させているからです」

 グループで組織的に行われ、電話をかけてくる『かけ子』、お金を受け取る『受け子』、見張り役など役割が細分化されているのも近年の傾向だ。

「首謀者は海外を拠点にし、逮捕されるのは受け子など末端ばかり。だから、この詐欺はなくならないんです」

“その日に契約”は怪しい… 【悪徳リフォーム】

「最近増えているのが、地震や水害など自然災害の不安につけ込んだリフォーム詐欺。最初は“無料で家の耐震性を診断します”と親切を装って家の中を点検。その結果、“次に大きな地震がきたら、持ちこたえられないですね”などと危機感をあおり、リフォーム工事を契約させるというものです」

“大幅な値引きをします”と、すぐに見積もりを出して契約させるパターンや、口約束を交わして後日、高額な請求書を送りつけてきて“半額だけでも”と振り込みさせるケースなどがあるという。これらは実際には工事は行われず、現金をダマしとる詐欺なのだ。

 一方、工事は行うものの、ずさんな施工で高額なリフォーム代を請求する、必要ないところまで修理して費用を吊り上げるといった悪徳リフォームもある。

 甚大な被害をもたらす自然災害に便乗して儲けようとする、悪質極まりない詐欺だが、

「そもそも詐欺師というのは、人の弱みや不安につけ込んでくるんです。そして、表面上は親切な態度で仕掛けてくる──。だから、みなさんダマされていることに気づきにくいのです。リフォーム業者が“その日に契約”と言ってきたら、怪しいと思ってください

ハガキが届く旧式が横行 【架空請求詐欺】

 オレオレ詐欺に次いで多い振り込め詐欺が、“架空請求”。よくあるパターンが、インターネットの有料サイトやサービスの利用料など、架空の請求をメールなどで送ってくるというもの。“サイトの料金が未納です。このまま支払わないと裁判になります”といった脅し文句で、不安をあおってくる。

「最近、横行しているのがハガキで架空請求を送ってくる古典的な手口ですね」

 法務省などを名乗って“あなたが利用している契約会社から民事訴訟を起こされました。連絡がない場合は給料などの差し押さえを執行します”などといった文面で、記された電話番号へと誘導する。

 そこに電話してしまうと、訴訟の取り下げ費用などと称して料金を請求される。

「10年以上前に流行した手口。ですが、近年減ってきて、人々が忘れて注意しなくなったから、また復活したのかもしれません。架空請求詐欺の怖いところは、1回払ってしまうと“延滞料が発生しました”“この利用料も未払いです”と次から次へと請求されることです。詐欺の『カモ』として個人情報が出回り、別の詐欺グループから架空請求が届くこともあります

言葉巧みにダマされる 【占い詐欺】

 女性がダマされやすい詐欺として西田さんが警告するのが、占い詐欺。インターネットやチラシなど占い広告は山のように届く。その中に詐欺師が潜んでいるというのだ。サイトをクリックしてメールで相談、電話をかける、あるいは直接会って占ってもらう。入り口はいろいろあるが……。

「40代、50代以上の女性の悩みといえば、“老後のお金”“身体”“子どもや孫”“孤独”の4つ。悪徳占い師はそこにつけ込んできます」

 例えば「肺に影があります」などと不安をあおり、アドバイスをする。次に「息子さんが…」と新たな不安材料を示し、際限なく続いていく。「みなさん、占い師の前では無防備にしゃべってしまう。 つまり個人情報を漏らしていることになる」

 それをもとに占い師は話すので“この人の鑑定は当たる!”と思い込んでしまうという。

「こうなると抜けられなくなり、初回の鑑定料は数千円でも、回を重ねると何十万、何百万円と累積金額は膨大に。しかも、ダマされていることに気づいてすらいない人もいます」

オイシイ話には気をつけて 【メール詐欺】

 送信者を詐称した電子メールを送りつけてきて、クレジットカード番号やアカウント情報など重要な個人情報を盗み出す、メール詐欺。別名“フィッシング詐欺”とも呼ばれている。

「以前は銀行やカード会社を装うケースが多かったのですが、近年は大手のネットショッピング会社を偽ってメールを送ってくる詐欺が多発しています。スマホで気軽にネットショッピングする人が増えたからでしょう」

 まず、本物のサイトにそっくりなサイトに誘導して個人情報を入力させる。

「さらにWEBサービスの本人確認やメンテナンスを理由にアカウント情報を入力させるのが典型的な手口です」

 ファイルが添付されていることもあり、開くとウイルス感染して情報を盗まれてしまう。

「カード情報を盗んで不正利用するケースもありますが、犯人側のいちばんの目的は個人情報を盗み取ることです。今の利益より将来の利益を重視。特に、高齢者を狙った詐欺は、いま50代、60代の人の情報が10年後、高齢になったとき“カモ”として利用できるわけです

もはや詐欺を越えた犯罪 【アポ電強盗】

 オレオレ詐欺がさらに凶暴化したのが、ここ数年、相次いで起こっている“アポ電強盗”。アポ電とはアポイントメント電話の略。

「犯人が親族、役所の職員などを装って、自宅にある現金など資産状況を事前に電話で聞き出すことから、この名がつきました」

 例えば、銀行員を装って電話をかけてきて、

「●●さんの銀行口座が流出している可能性が考えられます。口座が凍結されるおそれが。ご自宅に金庫など現金をおいておける場所はありますか?」

 など、言葉巧みに現金の保管場所や預金情報などを聞き出していく。そして現金や金品のありかを知ったうえで強盗に押し入る。

「詐欺犯の中でも過激な者たちが、お金をダマし取るよりも、直接奪ってしまったほうが手っ取り早いと、犯行に及ぶのでしょう。ただ、犯人側からするとリスクの高い犯罪です。警察に捕まりやすいし、受け子などに比べて罪も重い。それでもアポ電強盗は減る気配がないんです」

 ダマされるだけでなく、命まで危険にさらされてしまうのが、アポ電強盗の恐ろしさだ──。

 ソンしたくない気持ちをあおる 【還付金・年金詐欺】

 市区役所、社会保険事務所、年金事務所などの職員を装い“医療費の還付がある”“年金の未払いがある”という電話がかかってくるのが始まりだという。

「トクをしたいという人間の欲求をついてくるんです」

 お金がもらえるといううれしさで気が緩んだところへ、「期限は今日まで。すぐに手続きしてください」と焦らせ、携帯電話を持ってATMに行くよう誘導する。そして操作方法を指示し、本人の口座から犯人の口座に現金を振り込ませてダマし取る。最近は、携帯電話で話しながらATMで操作することを禁止する銀行が増えているため、ショッピングモールや無人のATMを指定するケースが多いという。

「“銀行のATMではダメですか?”と聞くと、“これは特別な手続きだから”と説得される。人の心理として、わからないことは専門家の言うことを聞く傾向があります。つまり還付金のことやATMの操作がよくわからないので、専門家である社会保険事務所の人=犯人の言うことに従ってしまう」

お金の話が出たら、すべて怪しいと思え!

 こうした詐欺から身を守るには、どうすればいいのか?

「常に身構えていることは難しいので、相手からお金の話が出たら“怪しいぞ”とモードを切り替えましょう。相手の言葉にのせられないように注意し、個人情報を口にしないこと」

“今すぐ”“本日じゅうに”の言葉が出たら怪しさ100%と思ってよし!

「“家族に相談します”“確認します”と電話を切って冷静になりましょう」

 相手が市役所の職員を名乗ったら、名前を聞いて1度、電話を切ってかけ直す。本当の市役所に電話すれば、すぐに詐欺なのは判明する。

 では、支払い請求が送りつけられてきたら?

「家族のほか、最寄りの消費生活センターや警察に相談を。とにかくひとりで解決しようとせず他力に頼ることが大事です」

 それでも、詐欺の被害に遭ってしまったら、

「詐欺グループの間で情報が出回っている可能性がかなり高いです。最低限、電話番号やアカウントのパスワードなどを変えてください」

 犯人が捕まって被害者にお金が分配されることもあるが、首謀者が検挙されない──。

「それでも犯人の逮捕につながれば被害拡大を防ぐことになるので、警察に被害届は必ず出してください」

(取材/村瀬素子)