先月、小泉進次郎環境相(38)&滝川クリステル(42)夫妻に長男・道之助ちゃんが誕生。それに伴い、小泉環境相は、長男誕生後3か月の間に合わせて2週間程度の育児休業(以下、育休)を取得している。日本の男性閣僚の育休取得は初のこと。これに対し“大臣の責任を最優先すべきでは?”“里帰り出産なんだから、役に立たないのでは?”など疑問や批判の声も。
小泉環境相は閣議や国会には出席しつつ、テレビ会議を活用して在宅勤務を行うなどして、母子と過ごす時間を確保。そして、
「取ってよかったと思います。お風呂、おむつ替え、ミルクづくりといったことを担当している。育児休業には“休む”という言葉が入っていますが、全然休みなんかじゃないですね。子どもを育てる大仕事をやっている」
とコメント。男性の育児・家事参画の支援活動を行っているNPO法人ファザーリング・ジャパンの理事・塚越学さんはこう話す。
「男性の育休は、まだまだ取りづらい雰囲気があります。だからこそ、男性の現職大臣の育休取得には、非常に大きな意味があるんです」
実は、日本の父親の育児休業制度は金銭面でとても恵まれており、ユニセフの評価では世界1位レベル。
「なのに、日本の男性の育休取得率は6%程度。例えばノルウェーの男性は80%前後、ドイツの男性は30%以上ですから、諸外国よりも圧倒的に低い。問題は、制度よりも“空気感”。大臣という立場にある男性が育休を取得することは、そんな世の中の昭和的意識をアップデートさせる効果があると思います」(塚越さん、以下同)
女性の育休はさておき、男性に限った育休となると、よく知らない人も多いはず。知りさえすれば、モヤッとした気持ちを抱かずにすむ!?
Q:育休って誰でも取れるの?
1歳未満の子どもを養育し、会社や事業所などに雇われている労働者であれば、男女を問わず育休を取ることができる。
有期契約で働く場合も1年以上、雇用されているなどの一定要件を満たせば取得できる。パートの場合も、期間に定めのない労働契約であればOK。公務員は取得できるが、自営業や日雇い労働者、フリーで働く人に育休はない。
Q:育休を取れる期間は?
基本的には、子どもが満1歳になるまでの間に、夫婦それぞれ1回ずつ。取得期間は、自分で決められるが、
「夫の場合は妻、そして会社の上司や人事部などと相談して、期間やタイミングを決める人が多いです」
ただし“週に1回育休を取るスタイルを3か月続ける”などのような細切れでの取得は認められていない。
また、夫婦の両方が育休を取った場合は、
「『パパ・ママ育休プラス』という特典があり、子どもが1歳2か月になるまで育休を取ることができます」
子どもが1歳を迎えても、保育園が見つからないなど一定の条件を満たす場合は、1歳6か月まで延長できる(再延長は2歳まで)。
また女性の場合は、出産予定日前の6週間は産前休業、出産後の8週間は産後休業となるため、
「妻が育休を取れるのは、産後休業終了後から。一方、夫は出産予定日から育休を取れます」
ちなみに、これらは法律が定めている最低ライン。
「“子どもが満3歳になるまで”など、法律を上回る制度を定めている企業もあります。自分の職場の制度を確認してみてください」
Q:夫は2回取れるって本当?
本当。育休は、通常1回しか取れないが、男性には特例がある。
「妻の産後8週間以内に夫が育休を1回取っていれば、子どもが1歳になるまでの間にもう1回、育休を取ることができます」
塚越さんも、第2子が生まれたときに、この制度を利用したという。
「1回目は出産直後に。妻にとって心身ともに大変な時期ですから。そして2回目は、専業主婦だった妻が働き始めるというので、その就職活動の時期に。私が子どもを見ている間に、妻は面接用のスーツを買いに行ったり、エントリーシートを書いたりすることができました」
Q:妻が専業主婦なら夫は育休を取らなくてもいい?
「共働きだろうが専業主婦だろうが、妻の産後ケアは必要。出産による肉体的疲労だけの話ではありません」
左のグラフのとおり、妊婦の女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)は、出産に向けて通常の約100倍といわれるほど急増する。そして、出産直後にはほぼゼロへと急降下。
「ホルモンバランスが崩れ、精神的に不安定に。ひどい場合は、“産後うつ”になります」
産後うつになる人は約1割。重症ケースでは、自ら命を絶ってしまうことも……。
「心身不安定のピークは産後2週間ですが、緩やかに2~3か月続きます」
特に1か月健診で“母子ともに健康”のお墨つきをもらうと、実家のサポートがサーッと引くケースが多い。安心した妻が家事育児をひとりで頑張りすぎて、心身のバランスを崩すことも少なくない。
「ゆえに、夫は少なくとも産後2週間に育休を。できれば産後8週間は夫がそばにいて妻のサポートに専念してほしい。それが難しい場合でも、産後3か月までは定時で帰る、常に夫婦で連絡がとれるようにしておくなどが必要。くれぐれも出産後3か月間を甘くみないでもらいたいです」
Q:里帰り出産だから夫が育休を取る必要なし?
里帰り出産で、妻の実家のサポートが受けられる場合、夫の出る幕はないと思いがちだが、
「義父母に手伝ってもらえるのはありがたいことですが、子育ては夫婦2人で一緒にスタートを切るのが理想なんです。妻だって1人目は子育ての素人。その素人の状態を夫婦2人で経験すれば、同じように子育てできるようになるのに……」
里帰り出産は、いわば妻の泊まり込み研修のようなものだという。
「1か月後あたりに、子育てスキルをぐっと上げた妻が家に帰ると、ド素人の夫が待っているわけです。夫が育児に手を出すと、イライラが止まらない。そして口出し、手出し、ダメ出し。夫は育児参画をあきらめ、夫婦ともに“育児は妻がやるもの”という構図ができあがる。ワンオペまっしぐらです」
これによってイクメンの卵がどれほど失われてきたか、と塚越さんは嘆く。
「脳科学的には、母性は女性に生まれつき備わっているものではなく、一定期間の子育て経験によって芽生えるもの。同じ経験をすれば男性にも芽生えます。里帰り出産によって夫婦の育児スキルに格差ができた場合でも、妻は夫の育児をやさしく見守り、やらせてみる。そうやって、夫も“子育て脳”に切り替われば、その後もずっと積極的に育児に関わるようになりますよ」
育休中の収入はどうなる?
育休中は給料をもらえないが、育児休業給付金が支給される。
「その出どころは雇用保険。会社が支給するわけじゃないんです」
育児休業給付金は、育休開始から180日間は月額賃金の67%(上限は月額30万4314円)、それ以降は50%(上限は月額22万7100円)。さらに、育休中は社会保険料(厚生年金保険料+健康保険料)が免除される。
「つまり、180日間は手取り収入の約8割が確保されるので、夫婦で半年ずつ育休を取ると給付金はいちばん多くもらえます」
ただし、上限基準となっている賃金月額45万円を大きく超える月収を得ている人は、ぐんと減ることに。
「現在、政府は月額賃金の80%まで給付金を引き上げ、育休取得前とほぼ同額の手取りを受け取れるようにする案を検討しています」
Q:夫のほうが収入が多い。妻だけ育休でいいのでは?
収入格差があろうとも、夫の育休取得を塚越さんはすすめる。産後ケアの必要性や夫婦で育児をスタートさせる重要性は先述のとおりだが、
「ワンオペ育児が当たり前になってしまうと、妻の職場復帰や再就職へのハードルはぐっと上がります」
妻としては、自分以外の育児の担い手がいれば、子を育てながら働きやすくなる。
「例えば、わが家の場合、妻は第1子出産時は専業主婦でしたが、私が育休を取ったことで就活と保活ができました。第2子、第3子のときも私が育休を取ったことで、妻は派遣社員から直接雇用の契約社員へ、さらには正社員へとステップアップできました」
Q:出世や昇給に響くのでは?
“夫が育休を取ったことで出世に響いた”“昇給が遅れた”なんてことがあったら困るんですが……! ゆえに、育休取得を申し出ることなく、産後に有給休暇を取る“隠れ育休”で乗り切る男性も少なくないという。
「ただ、ファザーリング・ジャパンで実際に育休を取った男性にアンケートを取ってみると、上司からの“評価が下がった”と感じた人は約8%。9割もの人が変わらない、もしくは上がったと答えているんです。
私も初めて育休を取ろうと決めたとき、職場でフルボッコにあう覚悟までしましたが、実際は“あの心配は何だったんだ?”と思うくらい、多くの人が賛成してくれました。育休を終え、職場復帰したのちには管理職にもなりました。実は夫側の心のハードルがいちばん高いんです」
Q:ウチの会社は育休制度がないみたい
「会社に制度があってもなくても、育休は“育児・介護休業法”という法律のもと、保障されています」
社員が育休を取りたいと申し出た場合、会社は繁忙期だろうと人手不足だろうと、たとえ経営困難な状況であろうと拒むことはできないのだ。
Q:職場で男性が育休を取った前例がなかったら?
第1子誕生の際、塚越さんが働く会社の所属部門では、過去に育休を取得した男性社員はいなかったという。
「私は案件ごとに10人くらいの上司がいたんですが、8割は育休に賛成してくれましたね。2割は嫌な顔をしましたけど(笑)。部門初ということは、上司にとっても部下の育休取得は初めて。育休についての正しい情報や夫が取る意義を伝え、さらには育休取得を希望する若手が増える一方である中、“会社にとっての男性育休の意義”もプレゼンしました」
残念ながら、“ファーストペンギン”はやることも、考えなくてはいけないことも格段に多い。
「でも私が育休を取ったら、後輩たちも続きました。だから1人目を出すということはすごく大事。かつて女性は妊娠したら退職し、育休を取って働き続けると白い目で見られた時代もありましたが、今や女性の育休は当たり前。当時の女性たちが頑張ったからです。だから、後輩たちにいいバトンを渡すために、今度は男性が頑張る番なんだと思います」
Q:もしハラスメントにあってしまったら?
育休を申し出たり、取得したことで、クビや左遷など不利な扱いをすることは法律で禁じられている。“男が育休なんてありえない”“あなたの育休のせいで周りは迷惑している”などの言葉も、ハラスメントだ。日本労働組合総連合会の調査によると、育休取得に関してハラスメントを受けた男性は2割弱。
「“ハラスメントを受けなかったよ”と、わざわざSNSにアップする人はいません。ハラスメントを受けた人はSNSでそれを言いやすいうえに、ネガティブな情報は広がります。ゆえに、ハラスメントを受けた男性がまるで8割のように感じられている部分はあると思います」
もし、ハラスメントを受けた場合は、“それ、ハラスメントです。やめてください”とはっきりと意思表示を。そして、職場の人事部門や労働組合などの窓口に相談。さらには、都道府県の労働局雇用環境・均等部などへ相談を。
「ハラスメントの発覚で、その企業の株価も下がるご時世。企業の対応姿勢も変わってきてはいます」
スムーズに育休を取るための策は?
育休を取るにあたって、職場での理解や協力は必要不可欠。ただ、上司や同僚に育休に関する知識がないために理解してもらえないこともあるので、まずは正しい知識を自分自身が身につけよう。
「そして上司に妻の妊娠を報告するときには、育休取得を考えていることも伝えておく。そして、妻がつわりなどで体調がよくないときは定時で帰るなど“自分は働き方を変えないといけない”ことを周りに刷り込んでいく。安定期に入ったら、改めて上司と育休の取り方を相談し、引き継ぎなどを決めていく。早い段階から、外堀を埋めていくのがポイントです」
Q:育休中、夫は何をすべき?
育休を取ったところで、夫が家事も育児もまったく手伝わない……。“取るだけ育休”も問題になっている。
特に第1子の場合は“お風呂に入れるのは夫”など役割をあえて決めずに、夫も妻と一緒にすべての育児、家事をやってみるべきだという。
「新生児育児は、仕事とは大変さの質が違う。昼夜問わず、数時間ごとに同じことを繰り返さないといけない。当たり前のことなんですが“妻も初めてなんだ”“これはひとりではとうてい無理だ”を体感すると、夫の育児への参画意識は激変します」
ちなみに休日、夫が育児、家事をまったくしない家庭で第2子が生まれた割合は10%。夫が6時間以上する家庭では87%というデータも。
「1人目の育児でトラウマになった母親が、2人目を欲しいと思うわけがない、ということです」
Q:親たちが「自分たちは取らなかった」と主張してくる
姑(しゅうとめ)世代は、男性が育休を取ることに対し、“ぜいたくな身分ね”と眉をひそめたくなるかもしれない。
「昭和のころは、夫が稼ぎ手の役割を担えていれば、親の役割を果たせたという社会通念があり、仕組みもそうなっていました。女性も社会に出て働くよりも、育児に専念したほうがいい制度だったわけです」
しかし、時代は変化。今や夫婦両方が稼いだほうが安心できる世の中に。
「娘・息子夫妻に“夫は仕事さえしてればいい”“子育ては女の仕事”と言いたくなるお姑さんの気持ちは、自分が専業主婦として育児・家事に専念したプライド、そして自分自身がやってきたことを否定されたくない気持ちもあると思います。でも、自分の時代の価値観を押しつけているだけかもしれません」
舅(しゅうと)、そして男性上司もまた同様だ。
「妻の妊娠を知った上司が、“大黒柱としてもっと稼がなきゃな!”と、親切心から仕事量を増やすケースも。でも、育休を取りたいと思っている男性からしてみれば、迷惑でしかない。部下から妻の妊娠報告をされた上司は、“育休はいつ取るの?”と聞いてあげることが大切です。現代社会では、そんな“イクボス”が求められています」
子育て夫婦の親世代は、情報を令和にアップデートする必要がありそう。
(取材・文/鷺島鈴香)
【識者PROFILE】
塚越学さん ◎NPO法人ファザーリング・ジャパン理事。公認会計士として監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)をへて、東レ経営研究所勤務。3児の父親で、それぞれの誕生の際に育休を取得。『さんきゅーパパプロジェクト』ほか多数の男性育休促進事業で活躍中