世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
おぎやはぎ・小木博明

第5回 小木博明

 好き勝手なことを言ってカネをもらう。コメンテーターという仕事はラクでいいな、というような意見をネットで見ることがありますが、本当にそうでしょうか?

 お仕事ですから、どんな出来事も「興味がない」ではすまされませんし、ほかのコメンテーターと同じことしか言えないのであればギャラ泥棒でしょう。ありふれた意見より、ある程度、過激なことを言ったほうが議論は盛り上がりますが、特定の人や団体の名誉を棄損するような発言は絶対にNGです。コメンテーター同士での上下関係もあるでしょう。

 このようにコメンテーターは決して簡単な仕事ではないでしょう。特に気をつけなければいけないのは、コメント次第で「この人は、本当はこういう人なんだ」と自分の評価を下げてしまうことだと思うのです。

「杏さん、もう少し耐えてほしかったな」と発言し炎上

 コメンテーターをやることによって、自分の評価を下げているのではないかと私が思っているのは、『バイキング』(フジテレビ系)で水曜レギュラーを務めるお笑い芸人・おぎやはぎの小木博明です。

 具体例をあげてみましょう。今年1月に『週刊文春』が報じた俳優・東出昌大の不倫。現在、東出は妻子と別居中だそうですが、妻である女優・杏は2月18日に文化庁主催のイベントに出席しました。杏はイベント終了時、取材陣に向かって「この場に関係ないことで大変恐縮なんですけど、ひと言だけ」と前置きしたうえで、「いろんなことでお騒がせしていまして、いろいろな方にご迷惑をおかけしていまして、大変申し訳ございません」「今後のことにつきましては、ゆっくり考えさせていただきたいので、小さな子どもたちがおります。どうかそっとしておいてください」とコメント。結果、東出より先に公の前で謝罪することとなったのでした。

 2月19日放送の『バイキング』でさっそく、この話題を取り上げましたが、コラムニストの山田美保子氏は「常に聡明で冷静で気さくな杏さん」、エッセイストの南美希子氏は「おきれいだし、実力もあるし、こんなに素敵な奥様がいらっしゃるのに、オトコってバカですね」と述べるなど、女性陣は杏を高く評価しています。

 しかし、男性陣は違うようです。司会の坂上忍は「これをやられちゃったら、東出くんはつらい」、元『週刊文春』記者の中村竜太郎氏は「東出さんは立場がない」と、“杏の対応がよすぎて、オトコは気詰まり”とでも言いたげな発言を展開します。さらに、小木は「東出くんももちろん謝罪したいんでしょうけど、オトナの事情でできなかったと思うんです」と予想したうえで、「杏さん、もう少し耐えてほしかったな、男側の勝手な意見ですけど」と述べたのでした。

「耐えてほしかった」理由を詳しく話さなかったので推測するしかないのですが、上述した男性陣のコメントから考えると、「杏が先に謝罪してしまうと、よけいに東出が叩かれてダメージが大きい。だから、東出のタイミングに任せて、謝罪させてほしかった」と考えたのかもしれません。もしそうなのであれば、「いやいや、いまさら何をしてもヤバいイメージから脱却できませんからご心配なく」と言いたいところです。世間でも東出を擁護したかのように感じられる小木の発言はヤバいとみなされ、大炎上したのでした。

 小木は同番組で、杏・東出夫妻の今後を「別れる」と予測しています。「二人がやりなおすために、東出の立場を悪くするようなことはしないほうがいい」と言うのであれば、「杏さん、もう少し耐えてほしかったな」という意見は、好き嫌いは別にして、筋は通っています。しかし、別れると予想しているのにもかかわらず、東出を追い込むなと思っているのであれば、小木自身が「仮に自分に非があろうとも、頭を下げて妻より“下”の立場になることは我慢できない」という気持ちを持っていて、だからこそ「男側の勝手な意見」として、こんな発言をするのではないでしょうか。

避難所の“ホームレス拒否”に賛同

 下の立場になりたがる人なんていないとは思いますが、小木が特にそういうタイプなのではないかと思うのは、“前科”があるからなのです。

 昨年の秋に日本は大きな台風に見舞われましたが、台東区がホームレス男性の避難所への受け入れを拒否しました。住民票がないというのがその理由でしたが、基本的人権を無視したかのような対応に批判が集まります。この話題を取り上げた『バイキング』で、小木は「避難所に来ている方は(ホームレスの人と一緒になるのは)嫌ですよ」と発言、その理由を「怖いじゃない、だって何されるかわからないし」としています。

 しかし、ホームレスは本当に「怖い」のでしょうか?

 2016年に熊本で大地震が起き、多くの被災者が避難所での生活を強いられましたが、10代の少女の布団にボランティアの少年が布団に入ってきて服を脱がしたなど、避難所での性被害について『西日本新聞』が2018年3月29日に報じています。同様のことは2011年の東日本大震災の避難所でも起きていたそうです。善意を掲げたボランティアの中にも、悪いことをする人はいます。ホームレスが何かするに違いないというのは、偏見でしかないでしょう。

 小木はホームレスを拒否する理由を、もうひとつ挙げています。「避難すると、普通の人は生活のグレードを下げるわけじゃないですか。でも、ホームレスの人は逆に生活がアップグレードするわけではないですか」「ズルくない?」と、人命がかかわった非常事態でさえも、経済的な上下を判断基準にしているようです。

 経済的に上昇するには、仕事を頑張って年収を上げたり、投資をするという手段が思いつくでしょうが、もうひとつクラシックで手堅い手段があります。それは結婚です。資産家の家庭に育った子どもと結婚して、財産を受け継げばいいのです。

 小木といえば、AbemaTVで『おぎやはぎの「ブス」テレビ』の司会を務めるなど、ブスに対する辛口なスタンスがウリのひとつでもありますが、その一方で、妻はブスと公言しています。日本には身内をあえて褒めないという考え方がありますし、芸人が自分の妻を褒めてほのぼのしていたら面白くないからかもしれませんが、小木の妻は歌手・森山良子の娘です。

結婚で経済的に上昇し“強者”になった小木

『女性セブン』(小学館)によると、森山は2017年、都内の一等地に地上2階・地下1階の3億円を超えるという白亜の豪邸を構えたそうですが、これは小木ファミリーと同居するための二世帯住宅。小木も1億円ほどお金を出しているそうです。売れっ子にふさわしい経済力ですが、1億円では都内にここまでの豪邸は構えられないでしょうから、小木は経済的にだいぶトクをしているといえるでしょう。それに加え、小木の場合は、森山家という芸能一家と姻戚関係を結んだため、結婚によって生活レベルも交友関係も「上に行った」とみていいのではないでしょうか。

 それは本人の努力の賜物(たまもの)ですから、他人がとやかく言うことではありません。しかし、コメンテーターをするのなら、そういう“強者”である自分を捨てきれるかどうかがポイントになってくると思うのです。デリカシーのない発言をすることは、小木の特徴ではありますが、それでも越えてはいけない一線があるはずです。経済的に恵まれない人、生命の危機に一瞬でもさらされた人、信頼していた夫に裏切られた妻など、弱い立場に立たされている人に共感しようとする姿勢がないと、それは単なる見下しになってしまうからです。

 自分は弱者とは無関係だ。そう思っているようなコメントを小木が繰り返すなら、人気芸人というよりも“ヤバいオジサン”と見る人が増えていくかもしれません。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」