20周年イヤーだった昨年は、クールで、スタイリッシュで、セクシー。やりたいことを追求し、パフォーマンスはド派手に、迷いなく。新たな魅力をファン以外にも存分に見せつけ、多くの人の“氷川きよし像”が上書きされた。
次なるシングルはロックか、はたまた洋楽カバーか……。予想は華麗に裏切られた。デビュー21年目の新曲は『母』。唯一無二の存在へ愛と感謝を歌うこの曲が、無条件に泣けるのだ。
デビュー5年目、最愛の母が倒れていた
「デビュー曲の『箱根八里の半次郎』もやっぱり母親が出てくるんですよね。“おっ母(かあ)すまねぇ 顔さえ出せぬ 積る不孝は倍返し”。親不孝をしたぶん、いつか倍の孝行をしたいという決意が22歳の自分の中にはありました。
そして、この曲を歌うときには、いつも“母を幸せにするんだ”“実現させるんだ”と思っていました。みなさんのおかげで20年も歌わせてもらって、ようやく20年間の思いを、この『母』に完結させられたような気がしています」
まさに、きよしくんの原点であり、20年越しのアンサーソングでもある。
「デビュー5年目だったかな。母が病気で倒れたことがありました。幸い、父がそばにいたので救急車を呼び、即手術できて。元気になってくれたから、今、こうして離れていても安心して歌うことができていますが、母が当たり前のように生きているわけじゃないことを、そのとき痛感しました」
「母だけはどんな自分でも肯定してくれる」
“だから母さん 生きていてください 永遠(とこしえ)に”。『母』にはそんな歌詞が出てくるが、きよしくんの母親の感想は“よか歌やね”のひと言だったという。
「母はあんまり表現豊かなほうじゃないから(笑)。派手でも、出たがりでもないんですよね。性格? 似てますよ。年を重ねるほど、顔も似てきますね。
父はどちらかというと型にはめたいタイプで、“男は台所に立つな!!”的世代の人だけど、母は“楽しくやってるのがいちばんよ”というタイプですね」
ゆえに、小さいころからのびのびやらせてもらえたと振り返る。
「改めて、去年いろいろと挑戦した中で、母は“ありのままですごい素敵よ”と喜んでくれています。
仕事柄、全員に好かれるのは難しいこと。何をやっても、喜びと批判の声があがります。それはしかたのないことです。でも母だけは、どんなときも、どんな自分でも肯定してくれる。絶対的味方でいてくれることが、自分自身にものすごい力をくれます」
批判を恐れず、次のステップに進もうと思えるのは、わかってほしい人がわかってくれているから――。
「20年間歩んできたことへの信頼や実績。氷川きよしの歴史を知っている方も多いと思います。過去を大切にしながら、21年目はゼロからのスタートで。
誰しも、もう過去の自分には戻れないわけですから。今をどう生きて、未来をどうしていくか。自分の中でしっかりとした確信を持って生きていきたいと思っています」