一般的に「介護」というと、介護される人に献身的に向き合い、相手のことを十二分に思いやって、その人が生きやすいように手となり足となること……と、思ってしまいます。
心を尽くして介護したい……。でも「それでは、自分自身を壊してしまう!」と、警鐘を鳴らす人がいました。「いつしか疲れ果てて、心が折れてしまう家族もいるんです」。そう言うのは、40年にわたって認知症患者やその家族に寄り添い続けてきた、医師の杉山孝博さんと、認知症になった祖父母と7年もの同居経験がある、介護ジャーナリストでマンガ家の青山ゆずこさんです。
実はこの2人、認知症の介護についての対談やイベントを行う間柄。
「介護をおもしろくとらえて、自分なりに乗り越えている人がいるんですよ。それをマンガにしてね」
そんな2人の出会いを踏まえ、まずは杉山さんのお話からお伝えしましょう。
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認知症をオープンに!
助けを呼ぶことは恥ではない
「信頼できる人に、心の内を話してみてください。ラクになっていいんですよ」(杉山さん・以下、同氏のコメント)
認知症によるたび重なるトラブル、仕事と介護を両立させる困難さなど、家族の悩みは尽きず、介護疲れに陥ってしまうことも多々あります。私は、そんな人たちのために、『上手な介護の12か条』をまとめています。
●上手な介護の12か条●
第1条 知は力なり! よく知ろう
第2条 割り切り上手は、介護上手
第3条 演技を楽しもう
第4条 過去にこだわらないで、現在を認めよう
第5条 気負いは、負け
第6条 囲うより開けるが勝ち
第7条 仲間をみつけて、心軽く
第8条 ほっとひと息、気は軽く
第9条 借りる手は、多いほどラク
第10条 ペースは合わせるもの
第11条 相手の立場でものを考えよう
第12条 自分の健康管理にも気をつけて
認知症を知ることや受け流すこともすすめていますが、介護に疲れたら、第6、7、9条のように、「人の助けを借りる」ことが重要です。
例えば、第6条「囲うより開けるが勝ち」。これは、「親戚や地域の人にも“家族が認知症であること”をオープンにしよう」という意味です。認知症は決して「恥」ではありません。近所の方から「誰もが行く道ですから」「お互いさまです」と声をかけられて、心が休まったという話も聞きます。
また、第7条にあるように、同じ境遇の友人と話をして悩みを共有するのも有効です。各自治体の認知症相談窓口なら、ショートステイ先の情報など、具体的なサービスを紹介してもらえます。
介護を“離れて”楽しむ時間を。
自分自身の人生も大切に
もうひとつ忘れてはいけないポイントは、第8、12条のように、「自分を大切にする」ということ。特に責任感の強い人は、がんばってしまいがちですからね。手抜きをして、ラクをしていいんです。
食事の配送サービスやデイサービスなどを利用して、自分の楽しみのための時間を意識して作ってください。介護を離れてみると、冷静にトラブルの解決策を考える余裕も生まれます。助けを求められる扉が、ひとつならず開かれていることにも気づけるでしょう。
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杉山さんの言葉をそのまま実践してきたのが、青山ゆずこさんです。若干25歳にして、認知症の祖父母と一緒に暮らしながら7年間、2人のお世話をしてきました。
その話を聞くと、本来なら涙なくして語れない内容ですが、「自分が壊れちゃいけない!」と気づいてからは、いかに笑いに変えるか、いかに楽しめるかを考えながら、2人を観察するようになったそうです。
「何もわからなくて、手探りの状態でした。なんの知識もなかったし。でも、“楽しんだもん勝ちだー!”って思うようになって、笑いに変えて。杉山先生などの専門家の人に出会ったのは、2人の介護を終了してからのことですが、“間違っていなかったんだな”って安心しました」
そんな経験から、介護に携わっている人へのアドバイスを、前出のようにマンガにまとめてくださいました。
繰り返しますが、杉山さんと青山さんが口をそろえておっしゃるのは、介護をする側はいい意味で気負いすぎず、何よりもまず「自分を大事に」してほしいということ。『上手な介護の12か条』と青山さんのマンガの内容をヒントに、心身を壊さない、自分らしい介護の仕方を見つけてもらえたら幸いです。
(隔月刊誌『NHKガッテン!』2020年3−4月号/総力29ページ巻頭特集『認知症が“怖くなくなる”予防と介護の新対策』より再構成)
杉山孝博さん
川崎幸クリニック院長。40年にわたり認知症の人やその家族に寄り添う。当事者サイドに立った認知症医療の第一人者。在宅医療支援も重視し、家族や医療関係者を対象にした講演会や講座も精力的に行う
青山ゆずこさん
介護ジャーナリスト、ライター、マンガ家。認知症になった祖父母を同居して介護。その経験を生かして、認知症関係の講演や書籍の執筆なども行う。著書に『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)など。Twitter @yuzubird