行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回は、交際中の男性の元妻から嫌がらせを受けたトラブル事例を紹介します。(前編)

※写真はイメージ

 3人に1人は別れる“大離婚時代”がやってきました。2018年、58万件の結婚件数に対し、離婚は20万件(厚生労働省の人口動態統計)。離婚件数は2016年、2017年もほぼ変わらないので、単純計算で毎年のように離婚経験者が40万人ずつ増えている状況です。このように考えると目の前にいる魅力的な異性が「たまたまバツイチ」だったとしても不思議ではありません。

 ところで、元妻にとって「元夫の彼女」は必ずしも喜ばしい存在ではありません。特に未練を抱えつつ、元夫の都合で離婚せざるをえなかった場合はなおさらです。そのため、元夫、元妻、そして元夫の彼女との間で、おかしな三角関係が形成されるのですが、「あんただけ幸せになって許せない!」と元妻が復讐の鬼と化すケースも存在します。夫婦はすでに離婚しているのだから、元夫と付き合っても何の問題もないはずですが、思わぬ形でトラブルに巻き込まれることもあるのです。元妻からの嫌がらせに悩まされているのは今回の相談者・平良(たいら)薫さん。

<登場人物、属性(すべて仮名)>
平良薫(39歳。幹介の彼女)会社員 ☆相談者
比嘉幹介(46歳。恵の元夫)会社員
新垣恵(44歳。幹介の元妻)無職
新垣洋介(16歳。幹介と恵の長男)フリーター

元妻から「主人と別れなさいよ!」とLINEの嵐

「あんたのせいで私“たち”の人生はめちゃくちゃなのよ! 自分がうちの家庭を壊したってわかっているの? とにかく主人と別れなさいよ! 話はそれからよ!!」

 これは薫さんに届いたLINEのメッセージです。薫さんは現在、比嘉幹介氏と交際しているのですが、LINEを送ったのは幹介氏の元妻・新垣恵。彼は6か月前に離婚が成立したのですが、元妻はまるで薫さんが「不倫相手」だと言わんばかり。夫婦は本当に薫さんのせいで離婚したのでしょうか?

 もともと薫さんと幹介氏は同じ会社の同僚。新卒入社の彼と中途採用の薫さんは同じチームで働くことが多かったそう。彼が妻や息子、家庭の愚痴や不平・不満をこぼすのですが、薫さんが聞き役に回ることで精神的に支えてきたと言います。とはいえ当時、幹介さんはまだ既婚者。「そろそろ離婚できそうだ」と聞かされていたものの、薫さんは身の程をわきまえ、一線を越えるのは躊躇(ちゅうちょ)していました。食事や買い物、映画に付き合うだけで、肉体関係に発展したのは離婚後のことでした。

 薫さんのLINEに「megu」と名乗る人物から友達追加の通知があったのですが、薫さんは「昔の友達かな?」と安易に承諾したところ、先のような罵詈雑言(ばりぞうごん)の雨嵐が昼夜問わず、送られてきたのです。当時、薫さんは彼から「妻とは円満に終わったよ」と離婚を報告されていました。

 具体的な離婚の条件は、親権は元妻が持ち、幹介氏は息子さんが成人する月まで養育費を毎月8万円支払う、学資保険の契約者は彼から妻へ変更、自宅の売却益は妻が受け取り、転居にかかる費用は彼が負担するという内容。慰謝料は含まれていなかったので、薫さんは離婚の件が自分に飛び火することがないと安堵(あんど)しており、今回のLINEは青天の霹靂(へきれき)でした。

裸のツーショット写真を元妻が発見

 なぜ、元妻は薫さんが「不倫相手」だと決めつけたのでしょうか?

 夫婦の自宅を売却するまで離婚から6か月かかったのですが、その間、夫婦は同居したまま。しかし、抑えつけてきた愛情が離婚後、一気に解放されたのか、薫さんと幹介氏は会うたびに身体を重ねていました。ある日、彼がスマホを取り出し、薫さんの肩を抱き、冗談半分に自撮りをしたことがあったそう。二人が上半身裸で寄り添う写真でしたが、薫さんは、その写真は彼が削除しただろうと思っていました。

 ところが実際には削除しておらず、彼がスマホで撮影した写真は自宅のパソコンに同期する設定をしていたので、オンラインストレージのフォルダにスマホの写真が保存されていました。彼がパソコンをログオフせずに出かけたところ、あろうことか元妻がこっそりとパソコンを操作し、上記のフォルダを発見したのです。

 彼が使っているオンラインストレージ機能では撮影日でタグ付けされるため、件(くだん)の写真を撮影したのが「離婚後」だということは明らかでした。しかし、元妻は彼と薫さんの肉体関係は「離婚前」に始まったに違いないと信じて疑わない様子でした。

 さらに、幹介氏は薫さんからのLINEが届くと、ロック中のスマホ画面に通知が表示されるよう設定をしていたのですが、元妻は頻繁に届く薫さんからのLINEを目の当りにして“写真の女”は薫さんだろうと直感。彼が目を離した隙にスマホロックを解除して薫さんのLINEアカウントを探し出して取得し、メッセージを送りつけてきたのです。

 元妻からのLINEには、こんな内容のものもありました。

「息子には何の罪もないのよ? それなのに……私だけじゃなく、息子も巻き込んでいるって自覚はあるの? もう取り返しがつかないのよ! 人生が台無しだわ!!」

 元妻と幹介氏との間には16歳の息子さんがいるのですが、離婚の時点で、すでに高校を中途退学していました。外でアルバイトをして、家に戻ると自室に引きこもるという日々。

 もとをたどると、幹介氏が離婚を決めたのは元妻の束縛癖が原因でした。彼の財布やスマホ、財布の中のレシートやクレジットカードの明細まで事細かく調べ上げ、「馬鹿」「ボケ」「死ね」と暴言を浴びせてくるので、離婚の直前には家に帰るのも嫌になり、ネットカフェで寝泊まりし、出社するように。そんなふうに両親が常にいがみあっている劣悪な環境下で、息子さんは大学受験や就職といった将来への前向きな気持ちを持つことが難しかったのでしょう。高校の授業がばかばかしくなり、足が遠のくようになったのもしかたありませんが、元妻はそのことも薫さんのせいだと言わんばかりでした。

「写真をバラまいてやる!」元妻が暴走

「とにかく会わないと始まらないわ! 逃げるつもりなの? やましいことがないなら来なさいよ!!」

 元妻は薫さんとの直談判を望んでおり、一方的に「3月13日15時に〇〇駅の××喫茶店に来なさい!」と時間や場所を指定してくるのですが、薫さんは元妻の勢いに身の危険を感じていました。直接会ったら何をされるかわからないので、「平日の昼間は無理です。仕事もあるし、繁忙期なのでご理解ください」と返し、会うか会わないのかを曖昧(あいまい)にしたまま、時間を稼ぎ続けたのです。

 婚姻している夫婦間には貞操義務(配偶者以外の異性と性交渉に及んではならない)が存在します(民法752条)。もし婚姻期間中に、元妻が薫さんに対して幹介さんと別れるようLINEを送っていたなら特に問題ありません。しかし、今回のケースは離婚後で、離婚した元夫婦間に貞操義務は存在しません。だから薫さんは「だったら離婚しなければよかったでしょ? まだ彼のことが好きなんじゃないですか? もう手遅れですよ」と返事をしたのですが、むしろ火に油を注いでしまったようで……。

「それなら、あの写真をバラまいてやるわ! 手始めに会社の部長に送りつけてやろうかしら。何度言っても別れないんだから、覚悟はできているんでしょうね!?」

 前述のとおり、薫さんと彼は同じ会社に勤めていますが、もし、会社の部長が二人の半裸の写真を見たら大変なことになります。元妻はこの写真だけでなく、薫さんのせいで幹介氏が離婚を考え始め、家庭を壊されたということも部長に伝えるでしょう。元妻は会社に幹介氏の処分は求めないかもしれませんが、薫さんへの処分を要求する可能性は高く、最終的に社内で薫さんの居場所がなくなり、自主退職を余儀なくされることも考えられます。

 薫さんからこのことを聞いた幹介氏は、急いでパソコンのデータを消そうとしたのですが、すでに手遅れ。元妻いわくUSBメモリや外付けハードディスク、オンラインストレージ……ありとあらゆる場所にデータをコピーしており、幹介氏と薫さんが元妻の画像の保存先をすべて特定し、データを削除するのは無理な状況でした。絶望する二人に対して、元妻はさらなる追い打ちをかけてきたのです。

(後編に続く)

※後編は3月11日16時30分に公開します。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/