容疑者が大事に保管していたサドル。すべての被害品について捜査するのだろうか? 写真/共同通信

私が離婚して実家に戻ってきてから、弟とは18年も同居していましたが、まさか、こんなことをしていたとは、気づきませんでした。被害者には本当に申し訳ないことをしたと思っています。世間のみなさまにも恥ずかしくて顔向けできません」

 そう肩を落とすのは、東大阪市で自転車のサドルを盗んだ疑いで逮捕された須田広昭容疑者の実の兄。

 週刊女性が静岡県沼津市の兄弟が同居していた家を訪れると、苦しい胸の内を語ってくれた。

月に10万円のサドル用倉庫

 広昭容疑者は昨年の11月下旬、東大阪市内でサドル2個を盗んだとして、大阪府警河内警察署が今年2月13日に容疑者の自宅を捜索。

 すると、別のサドル11個も発見され、事情を聞いたところ、自宅から約7キロ離れた貸し倉庫からも5800個ものサドルが見つかった。

「コンテナ式のトランクルームではなく、大きな倉庫内に2、3畳ごとに仕切りのある部屋を6つも借りていました。黒、白、茶色など色ごとに分けて、サドル1個ずつをポリ袋に詰めていたそうです。倉庫代だけで、月に10万円はかかっていたようです」(全国紙社会部記者)

 しかも25年も前から盗みを続け、長距離大型トラックの運転手であった容疑者は、東京、横浜、名古屋、大阪など大都市で犯行を重ねていた。

 単純計算では2日に1個は盗んでいたことになり、サドルに対するかなりの“執着”を感じることができるが……。

「最初は仕事のストレス解消のためにやり始めたが、そのうちに楽しくなってきて、収集がやめられなくなった」

 などと供述しているという。 

 週刊女性は昨年10月、東京・大田区でサドル159個を盗んだ男の事件も報じたが、独特な嗜好があったのだろうか。

「盗品の大半は女性用のママチャリや、電動アシスト自転車のサドルが多いそうです。男性用や、スポーツタイプの自転車のサドルはほとんどないようです。ポリ袋にくるんでいたのも几帳面だったからではなく、そのにおいを保存して嗅ぐためだったのではないかとみられています」(前出・記者)

寂しい思いをした幼少時代の影響か

 冒頭の実兄に心当たりを尋ねると次のように話す。

「女性関係ですか? いや、弟はずっと独身ですが、ほとんど女性に興味は示さない、女っ気のないやつでしたけど。いまでこそ180センチ、83キロと図体はでかいですが、昔からおとなしくて、内向的で、人付き合いが苦手だから、友達もほとんどいない根暗な感じでした。酒も瓶ビール1本程度しか飲まないしタバコも吸わないですから」

 兄の目に映っていた唯一の楽しみは通販だったという。

「青汁、サプリメントや健康飲料、水、冷凍食品を着払いで次々と注文していました。結局、親父が払うんですけど」

 長距離トラックの運転手としてある程度の収入はあったはずだが、長年の倉庫代に消えていたのだろうか─。 

 広昭容疑者の家族は60年近く前に、現在の沼津の家に引っ越してきて、父は会社員、母は専業主婦の家庭で、兄が小学校へ入るころに、容疑者が生まれたという。

半世紀以上前、兄と肩を組む容疑者。どこにでもいる仲よしの兄弟に見えるが(兄提供)

「弟が2、3歳のころ、母が脊髄に腫瘍ができる大病を患い、2年ほど東京などの病院に入院していたことがありました。まだ小さかった弟は山梨の母親の実家に預けられたことがあるんです。そのときに寂しい思いをしたことが、のちの弟の性格に影響したのかもしれません

 兄弟は7歳離れていたので、昔から一緒に遊んだ記憶も、きちんと会話した記憶もないとか。

 容疑者が小学校6年になるころに、兄は家を出て東京の会社に就職。以来、30年近くは別々の生活だったという。

「そのころは盆も正月もほとんど帰省しませんでしたし、弟に土産やおもちゃなどを買ってきたこともなかった」

サドル以外の収集グセ

 その後、容疑者は地元の中学校、私立高校を出たあと、やはり東京の鉄鋼関連会社に就職した。

「結婚する前に、元妻と一緒に、やつの会社の寮を訪ねたことがありましたが、東京で会ったのはそれが最初で最後でした。弟はその会社を1年ほどで辞めて専門学校へ行き、それから配膳関係の仕事をしたんですが、それもすぐに辞めて、以来32歳ぐらいまでは仕事を転々としていた」

 容疑者は実家に戻ってからはトラック運転手になり、サドル泥棒を始めたようだが、職場は次々と変えていた。

 7、8年前に容疑者は両親との同居を嫌がって、近所にアパートを借りて住んでいたが、家賃滞納のため、わずか2年ほどで舞い戻ってきたことも。

「とにかく人付き合いが下手なので、トラック運転手を選んだのは人と接する機会が少ないからだと思います。私が離婚して戻ってきてから18年ほど一緒に生活したのですが、やつは1週間に1、2日ぐらいしか家にいなかったので、ほとんど会話もしなかった。兄弟であっても、兄弟ではない感じだった

須田容疑者の勤務先から送られてきたブルーシートにくるまれた私物を案内する兄

 そんな性格でストレスをためやすいのか、容疑者は家庭内暴力(DV)を起こしたこともあるという。

「普段はおとなしくて優しいんですが、6年前に他界した母も小言を言うタイプだったので、たまにキレて、両親を殴ることもありました。私にもケンカをふっかけてきたこともあった。気が弱いくせに、ちょっかいを出してくるんです。“お前だって離婚してるじゃねーか”とかね。警察を呼んだことも2回あります。そのときは私が本気で殴ったら、それでたちまちシュンとしてしまって、それ以降は刃向かわなくなった。可愛いもんですよ

 ただ、以前から奇妙なクセがあることは気になっていたようだ。

「家で取っている新聞紙と、トラックや宝飾品の月刊誌を、自分の部屋に山のように積んであってね。ろくに読みもしないのに、捨てられないんです。そういう妙な収集グセが、今回の事件につながっているのかも……」

 広昭容疑者の逮捕から1週間ほどして、心労が蓄積したのか、91歳の父親が胃潰瘍からくる重度の貧血のため救急車で病院に搬送。

 兄は連日、そんな父親を見舞いながら、弟の将来を心配している。

「弁済できるものは弁済して、罪を償わせたい。それから、どのくらいの罪になるのか、弟が戻っても、仕事が見つかるのかがいちばん心配です。それでも、兄として精いっぱいサポートしていくつもりです」

 広昭容疑者に、手を差しのべようとする兄と病床の父親の切実な思いは届いているのだろうか─。