「緊急事態宣言によって、東日本大震災の原発事故後の福島のような事態が起こらないか心配しています。社会の仕組みは非常に複雑です。普段の仕組みを壊すことで、予想もしなかったところに副作用が出ることがありますから」
と医師でNPO法人『医療ガバナンス研究所』の上(かみ)昌広理事長は懸念を隠さない。
まずやるべきは検査態勢を整えること
新型コロナウイルスの感染防止策が後手後手に回っている安倍晋三首相は、「緊急事態宣言」を発令できるよう新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案成立を見据える。
3月14日施行で調整中。特定の地域で感染が広がった場合、首相が緊急事態宣言をすれば、都道府県知事は住民に不要不急の外出の自粛を求めたり、学校や体育館・劇場・映画館などの使用制限を指示できるようになる。
医薬品や食品の売り渡し要請や保管命令もでき、従わないと30万円以下の罰則を科せられることも。国民の権利や自由が制限される“劇薬”といっていい。
前出の上理事長は「目に見えない恐怖はパニックを引き起こしやすい」と話す。
「パニックになったとき真っ先に気にするのは子どもの健康。子連れの女性が避難するようになると、女性に支えられている職場は機能不全に陥りかねません。
病院は圧倒的な数の女性看護師に支えられており、薬剤師も女性が多い。原発事故直後からチームで福島に入って診療を続けてきましたが、医師も看護師も避難して人出不足でした」(上理事長)
全国一斉休校要請により、子どもを持つ働く母親はすでに追い詰められている。小学生が1か月以上も「家で留守番」に耐えられるはずがない。
「福島を落ち着かせたのは緊急事態宣言ではありません。希望者ひとりひとりに内部被ばく検査を実施し、放射能に汚染されていないと自分で確認できたからです。同じ目に見えない新型コロナでも、まずやるべきは検査態勢を整えることではないでしょうか」
と前出・上理事長。
休日は自宅にこもる人も少なくないようだが、いっさい外出しない生活を続けられる人は限定的だ。出かけても感染リスクの低い場所はどこなのか、どのように立ち回ればいいのか──。
感染症専門医で東京都の『KARADA内科クリニック』の佐藤昭裕院長は「飛沫(ひまつ)感染を防ぐには感染者との位置関係と距離が大事」と説明する。無自覚・無症状の感染者がいることも想定されるため、少しでもリスクを減らすには周囲全体に気を配らなければならない。
「向き合った状態では1・5~2メートル離れるのが望ましい。お互いに手をのばしたとき触れる距離は危険です。咳(せき)やくしゃみのほか、しゃべるときも唾液が飛沫になって前方に飛んでおり、ウイルスを含んだしぶきはやがて下に向かいます。
例えば電車で座っているとき、前に立っている人がマスクをせず、こっちを向いてしゃべっていれば感染リスクは高くなります」(佐藤院長)
つまり、座るよりも立っているほうが安全といえる。電車の乗車時に限らず、外出先などでは、この位置関係と距離を保つようにしたい。
手洗いに15秒はかけて
では、どのような状況だと危ないのか。
東北大学病院・感染管理室の徳田浩一室長は、
「比較的狭い空間で、空調も十分ではなく、人が集まるところは避けたほうがいい」
と話す。
「屋内であっても、広々とした場所に少人数しかいないのであれば、そんなにリスクはないと思います。逆に狭い場所で話をしたり、盛り上がって声を上げたり、騒いだりするのはリスクになりうる。換気がされているかどうかも大事です」(徳田室長)
厚労省の専門家会議が注意するカラオケボックスやクラブ、クラスター(集団感染)が発生したライブハウスなどは避けたほうがいい。
では、乳幼児を含めて子どもを連れて出かけるとき、どういった場所ならば安心できるのだろうか。
広島県の『女医によるファミリークリニック』の竹中美恵子院長(小児科)は、
「換気の必要がない公園は安全だとは思います。しかし、人が密集すれば飛沫が飛んでいることも十分に考えられますし、公園には遊具などの手すりがあります。
それらを直接舐(な)めることもあるでしょうし、触れた手を舐めることもあるので、遊具に触ったあとはしっかり手洗いやうがいをすることが大切です」
と、母親が目配りしたいポイントを指摘する。人が触ったものを触ることがリスクにつながるというわけ。
前出の徳田室長は、
「手洗いには15秒はかけてほしい。意外と長いんですが、特に指先と指の間を意識してよく洗うようにすればクリアできるはずです」
とアドバイスする。
次のページでは医師への取材をもとに、『行っていい場所・ダメな場所』を20種類のスポットにわけ、危険レベル別に紹介している。一覧表は写真ページにも掲載した。こちらを参考に、長い春休みを過ごしてほしい。
新型コロナウイルスの脅威に立ち向かう!
『行っていい場所・ダメな場所20』
【行っていい度:○】
◆運動場やスポーツ観戦
「屋外の草野球やドッジボールはそれほどリスクはない」(徳田室長)。人との距離が近いか、接触が当たり前の競技かで危険性は変わる。「線引きは難しいが屋内でプロレスごっこは超濃厚接触」(同)。屋外観戦でも人との距離を
◆映画館
「室内で密閉空間だが、みんなが触れるものはないし、上映中にしゃべる人はいないので意外と安全ではないか」(佐藤院長)。問題は混み具合。「すいていて前後の席が空いているようならば鑑賞してもいいのでは」(同)
◆カフェ、牛丼店
カフェチェーンや牛丼店、立ち食いそばは「横並びで1人利用するケースが多く、目の前に飛沫をかけてくる人がいない席は比較的安全」と佐藤院長。回転率も早く換気されやすいが、カフェ奥の喫煙室は狭い密閉空間なので注意
◆公園や児童遊園
「基本的には大丈夫」と徳田室長。「ただし、大きな公園では手すりやベンチを触ったとき、児童遊園ではブランコや鉄棒を触ったあとは必ず手洗いを」(同)。石けんを持ち歩くか、水道水だけでも丁寧に洗えばウイルスは落ちる
◆登山、キャンプや海辺散策
暖かくなってくるとアウトドアに出かけたくなりがち。徳田室長は「登山、キャンプ、海辺の散策は屋外で混みにくいのでまず大丈夫」としながら、「バーベキューをやるときはトングや食器、タオルは共用しないように」と指摘
【行っていい度:△】
◆コンビニ
百貨店やスーパーに比べて狭いが、客の出入りが多いため換気されやすく滞在時間も短い。佐藤院長は「レジに並ぶときは、せめて“前ならえ”の距離をあけたい。支払いはお金をやりとりせずにすむ電子マネーがいい」と指南
◆ショッピング(スーパー、デパ地下)
スーパーは「値引きタイムが混み合うならば別の時間帯に」と佐藤院長。共用のトングを触って、むき出しの焼き鳥などをパックに入れて買う惣菜類は帰宅後に洗えないためアウト。デパ地下も含め「試食は控えたい時期」(同)
◆図書館や学習塾
「学校が休みになっているため、学習塾や図書館、学童クラブに行っているお子さんが多いようですが、人が集まるところはおすすめできません」と竹中院長。すいている図書館ならば別だが、他人と距離がとりにくければ注意したい
◆美容院
「洗髪してもらうとき顔にかけられる薄いガーゼ1枚では感染はブロックできません」と佐藤院長。耳にかけたゴムが濡れるかもしれないが、マスクをつけたまま洗髪してもらうようにしたい。マスク着用の美容師は増えている
◆ファミレス
「同じテーブルで向き合うのはリスクが高い。しゃべりながら食事しているだけで、目に見えない飛沫が目の前の料理に飛んでいる」(佐藤院長)。それを食べれば飛沫感染。トング共用のサラダバー、ドリンクバーも感染リスクだ
◆遊園地や動物園
感染拡大防止のため、TDLやUSJ、上野動物園は3月15日まで臨時休園を決めた。開園中の小規模遊園地や動物園もある中、徳田室長は「人混みは避ける」ことをポイントに挙げる。屋外であっても混み合うところは避けたい
【行っていい度:×】
◆カラオケボックス
「リスクは高い」と佐藤院長。密閉された狭い部屋で「熱唱してたくさん唾をつけたマイクを使い回し、中には下唇にマイクを当てたスタイルで歌う人もいる」(同)のが危険。複数人が触るリモコンを操作すると、手にウイルスが
◆ゲームセンター
「入れ替わり、立ち替わりゲーム機のレバーやボタンをガチャガチャ触る。その手で口元に触れれば接触感染のリスク。プリクラも危ない」と佐藤院長。ボックス内でしゃべりながら顔を寄せ合い、指先でボタンを触るのは危険
◆ジム
名古屋市でクラスター感染が発生するなど危険視されている。「ジムのマシンはみんなが触るし、触らないと鍛えようがないので接触感染しやすい環境」と佐藤院長。ちなみに感染症は「汗からはうつらない」と言われているそう
◆電車に乗る(バス、タクシー)
「満員電車に毎日乗り、たまのカラオケだけ気にするのは疑問」(上理事長)。換気と周囲のスペース確保のため「頻繁にドアが開く各駅停車に乗り、人がたまるドア付近は避ける」(佐藤院長)。バスやタクシーでは窓を少し開けて
◆パチンコ店
「厚労省の専門家会議では名指しされなかったが、クラスター感染が心配な場所のひとつ」(佐藤院長)。大当たりしないとき遊技台を移動する人は多く、同じハンドルを何人も握る。連続大当たりしたら長時間そこから動けなくなる
◆花見
東京都は花見シーズンの都立公園などでの飲食を伴う宴会の自粛を呼びかけ。散歩しながら花見してほしいというが、「桜の名所は人出が多く、屋外であっても人との距離が近い。ワイワイ騒ぎがちだし危なそう」と徳田室長
◆病院や介護施設
「病院で“もらう”可能性はある」と上理事長。腰痛など別の症状で通院中の人は「主治医に遠隔診療できるか聞き、薬も多めに処方してもらう」(同)。病院も介護施設も重篤化しやすい高齢者が多いのでうつさないように注意!
◆ベーカリー
「トングは個別なので安心。ただ、焼きたてを除けば、ほとんどのパンがむき出しで陳列されているのが気にかかる」(佐藤院長)。ビニール袋に入っている食パンなどは別。ワックスペーパーで個別に包んで陳列し始めた店舗も
◆ホストクラブ
大分市ではラウンジ接客業の女性が感染。佐藤院長は「横並びで座っても、至近距離で向き合って肌が触れたり、盛り上げようとしゃべって飛沫が飛ぶリスクは高い」と指摘。客として行くことも、ホステスとして接客するのも×
【識者PROFILE】
◎KARADA内科クリニック 佐藤昭裕院長
東京都品川区西五反田1-2-8 FUNDES五反田10階
電話……03-3495-0192
◎ナビタスクリニック新宿 内科・上昌広医師
東京都新宿区新宿4-1-6 NEWoMan7階
電話……03-5361-8383