多くの人が加入している生命保険。月々数万円と高額な支払いをしている人も少なくないはず。
病気が少なければ支払い損!
「みなさん社会保険料(年金保険料や健康保険料、介護保険料[40歳以上])を支払っているのに、それを有効活用することを考えず、民間の生命保険にばかり注目しがち。生命保険はあくまでも公的保障の補助輪と考えるべきです」と経済ジャーナリストの荻原博子さん。
生命保険には2つの保障しかない。死亡保障と通院(入院)保障。そして、この2つは毎月掛け捨てとなる。
「みんなからお金を集め、死亡した人と病気になった人に支払われる……いわば“不幸クジ”のようなもの。はずれた人にはお金は返ってきません」(荻原さん、以下同)
生命保険の年間払込保険料
男性 平均23万4000円
女性 平均16万8000円
2人あわせると年間で40万円以上に!
収入が増えない中、多額の保険は家計に大打撃となる。
※生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(令和元年度)より
病気ひとつしない人にとっては払い損。長寿社会となった今、老後資金を削る行為ともとれるのだ。
「まずは死亡時や病気のときに、いくら必要になるか試算してみましょう。そして公的保障で足りない部分だけを生命保険で補うべきです」
社会保障の上手な使い方
年金保険料や健康保険料、介護保険料などの社会保険は、年収500万円(40歳以上)の会社員なら年間約70万円以上を支払っているはず。しかも会社も同額を支払う(労使折半)ので、合計で年間約140万円! せっかく多額を納めているのだから、イザというときは公的保障をフル活用すべし!
■健康保険
「病気になったら多額のお金が必要になる……と不安になりがちですが、日本ではみなさんが想像するほどお金がかかりません」
例えば、入院して月に100万円の医療費がかかったとすると、自己負担は3割の月30万円。けれど普通の収入(年収約370万円~約770万円)の人なら、“高額療養費制度”を利用することで、21万円が支給され、実際の支払いは約9万円に。さらに70歳を越えた高齢者(年収約156万円~約370万円)なら5万7600円!
「加えて世帯合算も可能です。例えば夫婦ともに75歳以上なら、“後期高齢者医療制度”にも加入していることになるので、どんなに高い治療をしても、公的保障での治療なら2人あわせて月5万7600円ですむんです」
不安の種である老後の医療費は、夫婦で200万円程度あれば足りることが多いのではないだろうか。
また気になるのが先進医療。公的保障ではその医療費は保険給付の対象外だが、実際のところ、がん患者の9割以上は健康保険で治療をし、克服している人が多い。
「先進医療とは、優れた高度な治療というより、新しくて評価が定まっていない治療。評価が定まれば、以前は対象外だった、がん特効薬の“オプジーボ”や手術ロボット“ダヴィンチ”などと同様に、健康保険の対象になることもあります」
そして病気で働けなくなったとしても、会社員や公務員なら、“傷病手当”として給料の3分の2が最長1年半支給されるのだ。
■公的年金
国民年金や厚生年金などは、老後資金となるほかに、年金加入者が亡くなったときに、残された家族に支給される“遺族年金”というものがある。
夫がサラリーマンや公務員で、妻は専業主婦で幼い子どもがいる場合、夫が他界したら、子どもが18歳になるまで、月々15万円前後が支払われる(自営業者の場合は約10万円)。
加えて専業主婦の妻が他界した場合でも、幼い子どもがいれば、遺族年金が支払われる。残された夫はそのお金でベビーシッターを雇うことができるのだ。
「生命保険の死亡保障を考える際、遺族年金の支給額も頭に入れておくと、過度な保険に入らずにすみます」
またケガや身体的・精神的な障害を負った人は、“障害基礎年金”の対象者と認められれば、“障害年金”が支給される。障害基礎年金1級に認定され、子どもが2人いる場合だと、障害が解消されるまで月約12万円が支給されるのだ。うつ病などの精神障害も対象となっている。
■介護保険
将来を考えるうえで最大の不安ともいえるのが介護費用。相当な金額がかかると思われがちだが、実際に介護の経験がある人に質問すると、1人500万円ほどという回答も。
「65歳以上になり、介護の必要が出てきた場合、費用は基本的には1割負担、年収160万円以上の人で2~3割負担となります」
支給額は介護のレベルが高くなるにしたがって上がる。寝たきりの要介護5の場合、月約36万円のサービスが1割負担なら3万6000円ですむことに。2割負担なら7万2130円となるが、“高額介護サービス費制度”というものもあり、これを利用すれば、高収入の人でも月額の上限は4万4400円。
さらに、世帯内で1年間にかかった医療費と介護費を軽減する“高額介護合算療養費制度”も見逃せない。
例えば、自分の医療費が年間48万円、扶養している母の介護サービス費が年間44万円、合わせて92万円かかった場合、自己負担は67万円となり、自治体に申請すれば25万円が戻ってくる。75歳以上の家庭だと、さらに負担上限額が低くなるのだ。
自分に合う生命保険の見つけ方
生命保険とは、死亡する(病気になる)確率が同じようなグループで、宝くじならぬ不幸クジを購入するようなもの。よって同じ保険金をもらう場合、クジに当たりやすい高齢者のほうが、保険料も高くなるという仕組みだ。
また同じような保障内容でも保険会社によって保険料が違うのは、保険の販売などにかかる経費が、単純に会社によって違うから。死亡時に同じ金額が支払われるという2つの保険があったとしたら、月々の保険料が安いほうを選ぶべき。
国内のすべての保険会社は“生命保険契約者保護機構”に加入しているので、会社が破綻しても、加入者の保険契約は守られる。掛け捨ての保険に関して、会社の規模は信頼性に一切関係ないのだ。
ここで注意したいのは貯蓄型の保険。2020年現在の予定利率は0・3%程度と低いため、今30年で契約したら、世の中の金利が上昇しても運用利回りは低いまま。逆に、過去の利回りがよいタイミングで貯蓄型保険に入った人は、解約をせずに運用を。
1.保障額を計算する
死亡した場合、遺族年金が残された家族の生活費となってくれるが、子どもがいたらその教育資金が足りなくなる可能性が。「子ども1人につき、1000万円くらいを生命保険で確保しておくと、より安心かもしれません。入院(通院)保障は、日本の医療費はかなり安いので、心配な人はお守りがわりに少し……という程度でいいのでは」
2.保険会社を選ぶ
必要な「保障額」が決まったら、「掛け捨て」で買うのがおすすめ。インターネットなどで保険料を比較して、いちばん安い保険会社で購入を。
3.生命保険を購入する
この際に注意したいのは保険のセールスに相談しないこと!「あれもこれもつけたほうがいいと、さまざまな保障のついた保険料の高い生命保険になりがちだからです」
取材・文/樫野早苗
荻原博子さん ◎経済ジャーナリスト。経済の仕組みを生活に根ざして解説する。