東京・品川駅でのマスク率はほぼ100%。春が過ぎて夏になってもこの風景は続く?

「COVID-19」はいよいよ世界的流行期に入った。国内は「なんとか持ちこたえている」状態というが、あくまで検査を受けられた人に限った話で―。

「平熱でくしゃみも咳も出なかったが、身体の節々が少し痛かった。でも、この有事に、この程度の異変で病院に行っていいものかどうか逡巡しているうちに症状がおさまってしまった」

 と都内の自営業男性(50代)は打ち明ける。

「なんとか持ちこたえている」はホント?

 新型コロナウイルスの猛威が止まらない。WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は3月11日、スイス・ジュネーブの本部で開いた会見で「パンデミック(世界的大流行)といえる」と認めた。

 過去2週間で中国以外の感染者数は約13倍まで膨れあがり、感染者が確認された国・地域も126に。14日時点で中国を含む世界の感染者は13万人以上、死亡者は5000人を超えた。

 一方、国内の感染者は14日時点で1400人(うちクルーズ船697人、チャーター機帰国者11人)を突破。死亡者は28人(うちクルーズ船7人)となっている。

 加藤勝信厚労相は諸外国と比べ「なんとか持ちこたえている」(9日)と評したが、本当に抑え込めているのか。

 冒頭の自営業男性のように、感染を判定するPCR検査を受けていないため、『風邪』『インフルエンザ』『新型コロナ』の区別がつかないまま行動している人はいる。

 もし、それがコロナだった場合でも、数字には反映されていない。

 関西福祉大学の勝田吉彰教授(渡航医学)は、

「公表されている国内の感染者とほぼ同数の“隠れた新型コロナ感染者”がいるのではないか」

 と推測する。

「PCR検査の実績数を分母に置いたとき、陽性になった人の割合はおおよそ10%程度。10人に1人です。現在検査を受けている人はかなり自覚症状がある人なので、症状のない人も検査できるようになれば陽性患者の占める割合こそ下がりますが、確実に実数は増えます」(勝田教授)

 こうした“隠れコロナ”がみな仕事も外出もせず、家族を含め人とのかかわりを絶って生活すれば感染を広げることはまずないだろう。

 しかし、冒頭の自営業男性は「マスクをして電車にもバスにも乗った。仕事を休んだら収入がなくなってしまうので」とバツが悪そうに話す。

無症状のまま感染拡大のおそれ

国立感染症研究所が撮影した新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真

 医師でNPO法人『医療ガバナンス研究所』の上昌広理事長は、PCR検査の対象を感染の疑いがある重症者や濃厚接触者などに絞り込んでいることについて、「世界中で日本だけ特異な状況」と指摘したうえで次のように語る。

「病院に検査希望者が殺到して機能しなくなるのが心配ならば、病院で検査しなければいいだけのこと。陽性反応が出た軽症者まで病院に来られては困るのであれば、“軽症者は来ないでください”と言えばいい。検査できない理由を探すのではなく、できるように知恵を絞るべきです」

 “隠れコロナ”には大きく4パターンあると考えられる。

 (1)無症状で感染に気づいていない
 (2)疑わしい症状があるが検査していない
 (3)仕事を休めないなどの理由から感染疑いを隠している
 (4)検査でたまたま陽性反応が出なかった

 ─というもの。検査態勢を充実させれば「(2)」は減らすことができるはずだ。

 上理事長は、こうした隠れ感染者の実数を読むには、感染者を続出させた横浜港の大型クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』のデータが参考になるという。

「クルーズ船のケースは、実験ではないけれども完全にコントロールされた“きれいなデータ”です。PCR検査で陽性と出た人の約半数に症状がありませんでした。クルーズ船の乗客には高齢者が多く、若年層よりも症状が出やすいと考えられる。

 一般社会では若い人も多いし、無症状のまま感染を広げるおそれがある。何らかの自覚症状がある人ですら全員が検査できていないわけですから、公表されている感染者の倍にあたる3000人規模ではおさまらないのではないか。背景には1万人から数万人の“見えない感染者”がいてもおかしくない

 感染が広がる中、企業や従業員もまた戦々恐々としている。大手広告代理店は感染者が出たことを理由に本社従業員5000人の原則在宅勤務を決断。ほかにも、感染者が出た商業施設や飲食店、スポーツジムなどが一時休業して全館消毒するなど対応に追われた。

 経済ジャーナリストの荻原博子さんは、

「感染者が出ても認めたくない企業もあるでしょう。中小・零細企業の従業員は“私はコロナかもしれない”と会社に言いにくいはず。業種にもよりますが、大手と違って自転車操業の企業も少なくないし、もし2週間も休業するようなことになれば倒産も現実味を帯びますから」

 と説明する。

「自粛要請」の成果は19日に発表

 それでなくとも、安倍政権による一斉休校・外出自粛要請などで消費活動はどんよりと停滞中。感染疑いがあっても“見て見ぬフリ”をしたくなる土壌は整っている。

 せめて、善意の“隠れコロナ”を減らせないか。

 感染症専門医で東京都の『KARADA内科クリニック』の佐藤昭裕院長は、

「まったく症状のない感染者が感染を自覚する方法はありません」と首を振る。

「医師はそもそも症状が出ている人を診るんです。症状がない人を診るのは健康診断ぐらい。本当は陽性なのにいっさい症状の出ない人は、しばらくそのままにしていただけで治癒してしまうことも多いと思います」(佐藤院長)

 これまでにわかっている症状は、37・5度以上の発熱やのどの痛み、咳、たんなど。風邪やインフルエンザと似た症状のため、「自分でも他人でも症状で見分けるのは無理」(佐藤院長)という。

東京のスーパー「サミット」東中野店では、従業員に感染者が出て臨時休業となった

 政府の対策専門会議の見解によると、発熱や呼吸器症状(呼吸困難など)が1週間前後、持続したり、強いだるさを訴えるケースも多い。

 もし、風邪をひいたのかなと思ってドラッグストアで購入した風邪薬を飲んだらどうなるのだろうか。

 前出の佐藤院長は、

「軽い症状が出ている陽性患者の場合、風邪薬などは効果があると思います。薬はあくまで対症療法であって、解熱や咳や鼻水を抑えることで症状を和らげ、治るのを待つものですが、そういう一定の効果はあるはずです」

 と指摘。つまり、“隠れコロナ”がどう動き回ろうと、風邪薬で治ってしまうこともあるわけだ。

 安倍首相の唐突な「自粛要請」の成果は19日に発表されるが、受診できていない感染者がいる限り、すんなり感染がおさまるとは考えにくい。

 前出の上理事長は、

「韓国のドライブスルー方式をまねて検査を増やせばいい。心配な人は、市街地に設けられたドライブスルー施設に車で行き、乗ったまま検査を受けられるようにする。医師の指示がない場合は自費となります。合理的だし、不安を抱えたまま生活するよりもいいと思いませんか」

 と提案する。

 電車内でくしゃみの音が聞こえるたび、周囲がピリつく状況はいつ終わるのか。

「終息は、発生者がゼロになって、再発がないという状況になってから、さらに何週間か経てみなければわかりません。国内の感染者が減っていったとしても、これだけ渡航者が多いのですから周辺諸国でも減っていかないことには、なかなか終わらないと思いますよ」(前出の勝田教授)

 夏になっても感染は続き、早くも年を越えるとの見方も出ているなか、息苦しい長期戦が続く……。


【識者PROFILE】
◎KARADA内科クリニック 佐藤昭裕院長 
東京都品川区西五反田1-2-8 FUNDES五反田10階
電話……03-3495-0192

◎ナビタスクリニック新宿 内科・上昌広医師 
東京都新宿区新宿4-1-6 NEWoMan7階
電話……03-5361-8383