“沈黙の臓器”と呼ばれる膵臓のがん。歌舞伎俳優の坂東三津五郎さん(享年59)、元横綱の千代の富士貢さん(享年61)、アップル創業者のスティーブ・ジョブズさん(享年56)らの命を奪ったのも膵臓がんだ。
“甲状腺がんで、よかった”と思ったら──
国立がん研究センターの『19年度がん統計予測』によると、日本の膵臓がん罹患数予測は4万600人で、死亡数予測は3万5700人とかなり多い。男性死亡者数は全がんの4番目、女性は3番目に多い数になる。また、日本における膵臓がんの5年生存率はわずか9%台で、過去40年間1ケタ台を続ける唯一のがんとなっている。
眞島喜幸さんが理事を務めるパンキャンジャパンは、代表的な難治がん、膵臓がんに特化した患者会だ。設立のきっかけは妹の闘病だった。
「妹が膵臓がんとわかったのが今から14年前。最初の症状は微熱でした。また、首の付け根にしこりが見られ、総合病院で診察を受けました」
このシコリからがん細胞が見つかったため、当初は甲状腺がんと診断された。比較的治りやすいがんと聞き、家族の間では“甲状腺がんで、よかった”と話していたが、細胞を詳しく検査すると、甲状腺がんとは細胞の種類が違う。
このため、全身のCT検査を受けたところ、進行した膵臓がん(転移性のステージ4b)と診断される。
当時は今以上に患者やその家族に膵臓がんの情報が手に入らず、専門病院を探すのも困難な状況。“抗がん剤治療以外にも、試せる治療法はすべてやりたい”という彼女の望みどおり、ありとあらゆる治療法を試した。しかし、診断から19か月後、彼女は49歳の若さで亡くなった。
それでも転移性の膵臓がんで彼女のように1年以上生存するのは決して多くなかったのが当時の膵臓がん患者の状況だった。転移性の膵臓がんを根治できる治療が確立していない現状では、何より早期発見・治療が重要だ。
妹の“敵討ち”のための活動でもあります
「膵臓がんの危険因子(喫煙歴、糖尿病、慢性膵炎、家族歴、肥満など)について知ってもらうこと。ハイリスクの方々に、より早期の発見・治療につなげていくことが大切です」(眞島さん、以下同)
実は眞島さんは、妹が膵臓がんと診断された後に膵臓がんの前段階の主膵管拡張、膵のう胞(IPMN)があると診断され、経過観察後に膵臓の全摘出手術を受けて克服している。
「家族に膵臓がんの人がいた場合は、定期的な検査が早期発見につながる。妹は48歳で膵臓がんの診断を受けたので、甥(妹の息子)には少なくともその10年前の38歳までには検査をすすめたいですね」
現在、パンキャンジャパンで眞島さんが特に力を入れているのは、国外ですでに使用が承認されている薬が、国内では承認されていないことや承認の遅れを指す『ドラッグラグ』の解消だ。膵臓がんは非常に見つかりにくく、診断がついたときには進行しているケースが多い。
また、進行も非常に早く“一刻の猶予もない”という患者や家族の切実な思いがある。その患者や家族に欧米で承認された新薬を1日でも早く届けたい、とドラッグラグ解消に取り組んできた眞島さんらの尽力で、膵臓がん治療薬のドラッグラグは6年以上から2年以下に短縮された。だが、
「目標は0年。同時承認です」
と、厚労省への働きかけや定期的な啓蒙活動を続けている。
「妹が亡くなる直前に、米国のPanCANと出会い、日本支部としてパンキャンジャパンを設立したのは、妹を亡くした2か月後。この活動は、私にとってのグリーフケア(大切な人を亡くし、悲しんでいる人に寄り添い手助けをするケア)のひとつだったのかもしれません。また同時に妹の“敵討ち”のための活動でもあります」
妹(当時49歳)を膵臓がんで亡くした2006年に膵臓がんの患者支援団体「パンキャンジャパン」を設立。米国PanCANと連携し、膵臓がん患者と家族の支援活動を行う。自身も膵臓がんを患い、全摘出手術を受けたサバイバーでもある。NPO法人パンキャンジャパンhttps://pancan.jp/