「新型コロナに怯えた感染者が、自暴自棄になった可能性があります。群馬県桐生市などではニセ感染者が出現していますが、他人が怖がる心理につけ込む悪質な行為だといえます」
愛知県蒲郡市で陽性にもかかわらず飲食店などを訪問。感染を広げたうえに、亡くなったAさんについてそう語るのは、精神科医で国際医療福祉大学大学院の和田秀樹教授。
わずか2週間後の死に衝撃
50代後半のAさんは、3月4日に、新型コロナウイルスに感染していると知りながら、市内のフィリピンパブなどの飲食店をはしご。
このパブから新たな感染者が出たことで、威力業務妨害の疑いで警察が捜査を始めたところだった。
「病院で自殺したということは絶対にありません。陽性で3月5日に入院されたときは発症していなかった。いつの時点で発症したのかは不明ですが、のちに発症し、重症化して、新型コロナウイルスによる肺炎のために死亡されました」(愛知県の健康対策課感染症グループ)
家族に「ウイルスをばらまいてやる」と告げたまま繁華街に繰り出したAさんの「俺は陽性だ」いう開き直った言動に驚いた人も多かったはず。
それからわずか2週間で亡くなってしまったことでさらに衝撃が走ったが、Aさんは肝臓がんを患っていたことも明らかになった。
今回のウイルスは、免疫力が下がった高齢者が感染しやすく悪化しやすいといわれているが、持病による悪化の可能性はあるのだろうか─。
3月21日現在で、日本国内での新型コロナウイルスでの死亡者数は43人。
各自治体が死亡者情報のすべてを発表しているわけではないが、70~90代の高齢者が多い印象だ。
免疫力がカギ
一方、アメリカ・ニュージャージー州でも、家族の集まりが原因で集団感染が発生。73歳の母親とその子ども3人が亡くなり、いずれも50代だったと報じられている。
「海外では20代の若者が亡くなった例もあるように、若い人でも死亡しています。もともと免疫力の弱まっている人が病気にかかりやすいため、持病がある人が新型コロナに感染しやすいのです」
そう説明するのは、東京・品川区にある感染症が専門の「KARADA内科クリニック」の佐藤昭裕院長。
「Aさんには、がんという免疫力を下げる基礎疾患があったので重篤化して、お若いのに亡くなったのだと思います。
末期がんのような持病がある患者さんは、最終的にその病で亡くなることもありますが、今回のようにウイルスの陽性で重症・重篤化している場合、肺炎が死因になることも少なくありません」(佐藤院長)
がん以外に、新型コロナで死に至る可能性がある疾患について佐藤院長が続ける。
「心不全のような心臓の疾患、高血圧、糖尿病、ぜんそくのような呼吸器に関わる疾患などが危険だといわれています」
Aさんのように肝臓がんを患っていながら飲食店を訪れ、ウイルスをばらまくという行為は論外。
しかし、高齢者でなくとも新型コロナに感染すれば死亡するケースはあるという教訓にはなった事件だった。
【識者PROFILE】
◎KARADA内科クリニック 佐藤昭裕院長
東京都品川区西五反田1-2-8 FUNDES五反田10階
電話……03-3495-0192