カッコいいダンスを踊らせれば右に出る者なし。歌も演技も、幅広いジャンルで魅せてくれるオールラウンド・プレーヤーの中河内雅貴さん。強い眼力のためか、これまで濃いキャラクターを演じることが多かったが、ブロードウェイ・ミュージカル『モダン・ミリー』では久々のさわやか系青年、ジミー役に挑戦する。
クラシカルな作風にワクワクしっぱなし
「久しぶりなんですよ、ハッピーなミュージカルも、まじめな好青年を演じるというのも。でも、実はプライベートの自分にかなり近い役なんです! 周りからも“普段のまんまでイケそうじゃない?”って言ってもらっているんですけど、これが意外とやりづらくて。“普段の自分って一体どんなんだ?”(笑)。自分と向き合うところから稽古を始めました」
1920年代、モダンガールになるという夢を抱いてニューヨークに出てきたミリーと偶然出会うのが、人のよさそうな青年ジミーだ。
「快活な性格とか、一見、女たらしに見えて、実際はいたってまじめで誠実というところが似ているなと自分でも思うんです。いや、本当に(笑)。ミリーを好きになったジミーは猛アタックを開始しますけど、僕も惚れたとなったら自分から行きますしね。この近さが、逆にすごく難しい。
舞台で役を演じるときって普段のままではなく作り込むことが多いんですが、この役はそういう作り込みがいらないような役。これまで苦悩する役や無念にも殺される役など、オラオラ系っぽいものを多く演じてきたから、それに慣れちゃって(笑)。どう演じればいいかわからず、戸惑っています」
きっとなじんだら、とびきり素敵なキャラクターができあがりそう。
「ジミーはある秘密を持っているんですが、それをほのめかすのか、出さないのか。いろいろ悩みますね。彼のいいところは、生まれた環境にとらわれず、自分の生き方がちゃんとできているところ。いつも人を大事にしていますし。それって人間力だと思うんです。
怖いもの知らずの行動に出るのも、自分に自信があるからできることなんじゃないかな。何も考えていなさそうに見えてちゃんと考えているし、野性的なところも持っていて、感覚も鋭い。ギャップ萌えできる人物だと思いますね」
王道でクラシカルなミュージカルはもともと好きな分野だけに、ワクワクしっぱなしなのだとか。
「自分が出ていないところの振りなども楽しみです。ミリー役の朝夏まなとさんは明るく元気で、役にぴったり。ほかのキャストも、演じるキャラクターの個性が強く面白いので、不安要素が自分しかない(笑)。ジミーの歌うナンバーが、ほかの曲に比べてけっこう長いんですよ。“アレ?”っていうほど(笑)。でも、その中にもミリーに対する思いなど素敵な歌詞が書かれていますしメロディーも美しいので、楽しんで歌いたいと思います」
「出会った全作品が僕にとっての転機」
広島県で生まれた中河内さんの運命が大きく変わったのは、15歳のとき。
「母にすすめられて受けたワークショップでダンスと出会い、衝撃を受けました。これしかないと思って。そのときの講師の方がやっているダンススタジオに入るため、単身、長野に引っ越したんです。東京へ出てきたのは20歳のとき。
夢を持って都会に出てきたあのときの僕は、まるで『モダン・ミリー』のミリー(笑)。だからミリーの気持ちはすごくわかります。自分が“やりたい”と言って広島を出たので、“どうしても負けられない”という強い思いに燃えていましたね。今もですけど(笑)」
もしもダンスと出会っていなかったら?
「想像もつかないですね。僕はじっとしていることができない性分なので、座ってデスクワークとかは無理。すぐにソワソワして身体を動かしたくなっちゃって、30分も座っていられないので(笑)。ダンスと出会う前、小さいころの夢は警察官だったんですよ。正義感が強んです」
ダンサーから俳優へと視野を広げ、出会ってきた作品は「どれも欠かせないもの」と振り返る。
「僕の人生って不思議で、全部の作品がターニング・ポイントと言えるんです。初めてのオーディションで受かって、初めて歌とお芝居を披露したミュージカルで、何もできない自分が悔しくて“頑張ろう”という気持ちを強くしたことに始まって。
近年になっても『ジャージー・ボーイズ』のときは実力派ばかりのなかで、自分の苦手とする歌を猛特訓していただき考えがチェンジしましたし。昨年出演した『ヘンリー五世』も、あのカンパニーの中でお芝居できたことで常に刺激を受けてました」
熱血な兄貴分というイメージどおり後輩のことも考えながら中河内さんのストイックな挑戦は止まらない。
「僕は“自分にしかできないことを模索しながら人生を歩まないと損だ”と思うんですよね。自分はこの世界にひとりしかいないから。役者人生、山あり谷ありでいいと思うんですけど後輩たちには山ばかりでなく“こういう人生もあるよ”って谷のところも見せていかなきゃと思っています。
そして今は、吉田鋼太郎さんみたいになりたいと思うようになりまして……。鋼太郎さんはお話をしていても舞台を拝見しても、すごく面白くて深くて、本当に素敵な方だなと思います。人間力がめちゃくちゃ高くて、その根本に技術があるから、説得力が違うんです。いつか僕も、そういう役者になりたいとひそかに思っています」
ミュージカル『モダン・ミリー』
1967年にジュリー・アンドリュース主演で製作されたミュージカル映画を、2000年に舞台化。ブロードウェイらしいクラシカルなソング&ダンスにユーモア、ファッショナブルな衣装も加わって、とびきりハッピーな傑作として大ヒット。トニー賞作品賞ほか5部門を受賞した。問い合わせ先:東宝ナビザーブ 電話03-3201-7777。東京公演は4月7日~26日、シアタークリエで上演。以後、愛知、大阪、大分、佐賀にて全国公演。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/modern_millie/)へ。
取材・文/若林ゆり