根本的な治療薬がいまだ開発されていない認知症に、予防・改善する最新の治療法があるという。
アメリカのブレデセン博士が開発した治療プログラム『リコード法』だ。
「認知症の中でも最も多いのがアルツハイマー型。脳内にアミロイドβというタンパク質(老廃物)がたまり、神経細胞が死滅することで発症すると考えられ、薬剤の開発が行われていましたが、うまくいっていません。
そこでリコード法では“そもそもなぜアミロイドβが溜まるのか?”という原因に着目。それをできるだけ取り除いていくという、より根本的な解決を目指す治療法です」
と解説するのは、リコード法認定医の今野裕之さん。
「アミロイドβは、脳にダメージを与える炎症や毒素などへの防御反応で作られてしまいます。脅威となる要因をひとつずつ改善することで、アミロイドβの蓄積を防ぐのです」
生活習慣を変えるだけで認知症の予防・改善に!
脳にダメージを与えるリスク要因はいくつかあるが、
「まずは体内の炎症です。炎症を引き起こす可能性のある食品は、マーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸や、小麦粉に含まれるグルテンなどです。歯周病は、脳に近い場所で炎症を起こすので脅威」
さらに要注意なのが、糖分のとりすぎだ。
「余った糖はタンパク質と結びついて身体に悪さをする物質に変化。また、血糖値が上がるとインスリンが分泌されますが、それが過剰に出るとアミロイドβの分解ができなくなり、たまってしまいます」
他にも毒素の侵入や、脳の栄養不足でアミロイドβが作られやすくなるという。
「ストレス、運動・睡眠不足もリスク要因に。こうした生活習慣を改善することが予防につながります」
リコード法に基づくボケ要因は大きく分けて3つ
1.炎症反応
体内で炎症を起こす原因となるのは、トランス脂肪酸を含む食べ物、過剰な糖分。副鼻腔炎、虫歯や歯周病、過剰な活性酸素など
2.毒素の侵入・デトックス機能の弱化
空気中の有害物質やカビ、食品に含まれる水銀や鉛などの体内への侵入。これらの排出を促す腸や肝臓の機能低下もリスク要因に
3.脳に必要な栄養の欠乏
栄養が足りないと脳の健康を維持できない。必要な栄養はビタミンDや亜鉛など。運動で増えるBDNFの不足も脳のダメージに
認知症の名医がボケない行動・ボケる行動をジャッジ!
ここでは、リコード法に基づいて、ボケを遠ざける行動を〇×で紹介。いますぐ脳にダメージを与える習慣を改めるべし!
《朝》
○起きたらすぐに緑茶でうがい
睡眠中に増えた口腔内の菌をうがいで排出。「緑茶に含まれるカテキンには抗菌とアミロイドβ蓄積の予防効果があり、水よりベター」
△毎日、8時間以上の睡眠をとる
睡眠中に細胞の修復が行われる。7〜8時間は確保を。「ただし寝すぎると眠りが浅くなる。深い睡眠時にアミロイドβが排出されます」
△歯磨きは利き手で行う
「両手を交互に使って行うのがおすすめ。利き手ではない手も使うことで、より広範囲に脳を刺激。磨き残しを減らせるメリットも」
+aでボケ防止
毎日、日記をつけて思い出す力を鍛える
「脳も筋肉と同じで使わないと衰えます」。日記は手軽にできる脳トレ。日づけの感覚や思い出す力が鍛えられる
○朝シャワーは熱めの温度で浴びる
朝、熱めのシャワーを浴びると自律神経の交感神経を刺激する。「体内時計のリズムを整えることができ、夜の熟睡につながります」
《昼》
×スリッパをはいて過ごす
「足の裏を刺激すると脳の広い範囲が活性化します。スリッパよりも裸足のほうが直接、床に触れるので効果的」。靴下をはくのはOK。
×亜麻仁油で炒め物を作る
抗炎症作用があるオメガ3系脂肪酸を多く含む亜麻仁油は健康にいいと人気だが、「加熱すると酸化して、炎症を引き起こしたり、動脈硬化の原因にもなると言われています」
+aでボケ防止
オリーブオイルなら加熱OK
「加熱料理にはオリーブオイルやココナッツオイル、バターなど熱に強く酸化しにくい油を使いましょう」
○果物はジュースよりまるごと摂取
「皮に含まれる栄養素や、食物繊維も多くとれて血糖値が上がりにくくなります。ただしマンゴーやパパイヤなどの南国のフルーツは血糖値が上がりやすいので要注意」
×おやつに和菓子を食べる
小豆が入ったおまんじゅうは洋菓子よりヘルシーなイメージだが、「油分こそ少ないものの主な原料は砂糖! 血糖値が急上昇します」
×食べたら少し休憩してから運動
「血糖値は食後に上昇し1時間後、ピークになるため小休止はNG。食後すぐ身体を動かすと筋肉が糖を消費し上昇がゆるやかに」。ウォーキングなど軽い運動でOK。
×歯科医に1年以上行っていない
歯周病で炎症を起こしていると細菌が侵入しやすい。「口腔内を清潔に保つため、痛みがなくても3か月に1度は歯科でメンテナンスを」
+aでボケ防止
早歩き→ゆっくり歩きを繰り返すと脳が活性化
「一定のリズムで歩くより、早歩きとゆっくり歩きを交互に行うほうが、脳の栄養BDNFが生産されやすくなる」
×キャッシュレス決済でスムーズに買い物
「スーパーのレジで、おつりの小銭が少なくなるよう計算して端数を出す。この習慣は作業記憶を鍛える脳トレに」。便利になると脳を使わず衰える。
《夜》
×揚げ物をよく食べる
高温調理を行うと、老化の原因物質が作られて、体内で炎症を引き起こす原因に。炒めるのも避けたい。“蒸す”“煮る”“炊く”はOK。
+aでボケ防止
食事はおかずから食べて血糖値の上昇をゆるやかに
「最初に汁物や野菜などで食物繊維をとると血糖値の上昇を抑えられます。次に肉や魚、ご飯など主食は最後に」
△ヘルシーなマグロの刺身が大好き
DHAが豊富なマグロだが、「大型で寿命の長い魚は体内にアミロイドβを作る水銀の含有量が多いので気をつけたい。サバ、イワシなど小さめの魚のほうが安心」
+aでボケ防止
トランス脂肪酸を含む食品は避けよう!
マーガリン、ファストフード、ポテトチップスなどのスナック菓子
「トランス脂肪酸は食品を加工する際に作られる人工的な脂肪酸。体内で炎症を誘発し、心臓病のリスクを高めます」
+αでボケ防止
炎症を抑制するプロポリスを摂取
「ミツバチの巣からとれるプロポリスは体内の炎症や栄養不足に対応する成分として注目」。サプリメントで摂取でき、ブレデセン博士のオススメ。
○布団ではなくベッドで寝ている
有害物質も含まれる空気中のホコリは気づかないうちに床にたまる。布団よりベッドで寝るほうが床から距離があるので体内に毒素が入りにくい。
+aでボケ防止
ホコリを見たらすぐに床掃除を!
「体内への毒素侵入を防ぐために清潔な環境を保つことが大事」。寝ている間に床にホコリが落ちるので朝、掃除の習慣を。
○お風呂掃除はカビとりを徹底的に
「カビはマイコトキシンという毒素を産出します」。高温多湿な風呂はカビには絶好の環境。マメな掃除と換気でカビの繁殖を阻止!
日本ブレインケア認知症予防研究所 所長 今野裕之先生
医学博士、認知症診療医。順天堂大学大学院卒業。病院勤務を経て、老化や認知症に関する臨床研究に従事する。2016年より『ブレインケアクリニック』。
取材/村瀬素子