2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が4月1日より施行スタート。賃貸借契約が見直され、あいまいだった部分にもきちんと線引きが! ポイントをおさえれば、敷金は全額取り戻せます!
民法改正によって何がお得に!?
大がかりな改正としては、実に120年ぶりとなる民法改正。
「不動産賃貸に関する改正のポイントのひとつは、敷金と原状回復のガイドラインが明文化されたことです。また、緊急の必要性がある場合などに設備を借主側が修繕できると認められたこと、賃貸している物件の一部が壊れてしまった場合の賃料減額がルール化されたこと、そして、個人の保証人の極度額が設定されたことにも注目です」
と、不動産や賃貸問題に詳しい、ALL About賃貸・部屋探しガイドの加藤哲哉さん。
例えば、原状回復についてこれまでとそれぞれの負担の範囲が変わるなどといった変更はなく、貸借人の修繕の権利についても改正前からの考え方が踏襲されている。
「実は、以前から常識的な契約をしてきたならば、改正後もこれまでとさほど変わりはないという印象です」
とはいえ、原状回復における不当請求などのトラブルがなくならない現状の中、借りる側にとってのメリットは大きい。これまであいまいにしか記されていなかったことが明文化されたことで、“借りた人に戻るべきお金がきちんと取り戻せる”可能性がぐんと増えたのだ。
「法で定められ、認知も広まることで、今後、トラブルはぐっと減ると思います」
1.敷金と原状回復ガイドラインの明文化
2.貸借人の修繕の権利
3.貸室設備の一部減失による賃料減額
4.個人保証における極度額の設定
次のページからは、4つのポイントそれぞれについて詳しく説明!
1.敷金と原状回復ガイドラインの明文化
退去時のトラブル減少&敷金は基本、全額返還!
退去時にいくら返ってくるのか気になる敷金は、民法改正によって定義づけがなされ、担保という位置づけに。敷金は賃貸契約終了時に“基本、全額返却してもらえるもの”と考えられる。ただし、家賃の滞納などの債務不履行があれば敷金から弁済する必要があるほか、原状回復費用として差し引かれる場合も。
「30〜40年ぐらい前は需要と供給のバランスが大きく崩れていて、大家さんが“貸してやっている”という状況。そのため、“退去費用は入居者が全部負担する”“新品に戻して返す”ということがけっこうありました」
そうした昔の感覚のまま現在に至っているケースなどもあり、原状回復に関するトラブルは非常に多かったという。そこで、平成10年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(平成16年に改訂、平成23年8月再改訂)が取りまとめられることに。今回の民法改正では、そのガイドラインが明文化され、法的効力を持つこととなった。
「民法改正以前から、管理会社などはそのガイドラインにのっとっているところが多く、トラブルも徐々に減ってはきていました。ですが、大家さんが直接、自分で管理している場合など、ガイドラインを把握していないことがあったのも事実。今後は、よりフェアな契約ができるようになるでしょう」
【通常損耗・経年劣化については負担の義務はなし!】
《貸借人が請求されない修繕》
□家具の設置による床のへこみ
□冷蔵庫の後部壁面の黒ずみ
□ポスター掲示等のための画鋲の穴
□日照などによるクロスの変色
《貸借人が請求される修繕》
□タバコなどのヤニ・におい
□ペットによる傷・におい
□風呂の水アカ・カビなど
□戸建て住宅庭の生い茂った雑草
賃貸契約をするときに注意したいのが、「特約」の存在。“特約の必要性があり、暴利的でない”などいくつか特約締結の要件はあるものの、ハウスクリーニングやクロスの張り替え費用など、通常は賃借人が負担しないですむことも「特約」で定めて契約してしまえば賃借人に負担させることが可能。退去時に“見落としていた”と焦らないよう、契約時にきちんと確認することが大切!
2.貸借人の修繕の権利
入居者が設備を直し、費用を請求することが可能に
台風で雨漏り、老朽化でトイレから水漏れの場合、前提としては貸借人が勝手に賃貸物に手を加えてはいけないのだが、それでは不便が生じることも。そこで、民法改正にて、(1)賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか、または賃貸人がその旨を知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、または(2)急迫の事情があるときには賃借人が目的物を修繕することができ、その費用を賃貸人に請求することができると明文化された。
しかし、相当の期間内とは何日なのか、急迫の事情とはどんなことかなどが法律で具体的に定められているわけではないため、注意が必要。
「急いでいたからと勝手に修繕をしてあとから貸主に請求をしても、“急迫の事情に当てはまらない”と認められない可能性もあります。修繕の必要が生じたら、まずは必ず貸主に連絡するようにしましょう。その後、きちんと交渉し、確認することが肝心です」
今は記録的な大雨や台風、地震など、日本各地で自然災害が増加傾向にある。被害というほどではないが、例えば「大雨が続いたあとに天井のすみにシミを見つけた」、「地震のあとで壁に小さなヒビを見つけた」など、何か気づいたことがあれば、その時点で大家さんや管理会社に連絡するといいだろう。退去時のトラブルを防ぐことにもつながるので、修繕の必要を感じていない場合にも面倒がらず、“リアルタイムで異変を伝える”ことが得策だ。
3.貸室設備の一部減失による賃料減額
設備に不具合などがあれば家賃が日割りで戻ってくる!
備え付けのエアコンが壊れて使えなくなったなど、物件の一部に不具合などが生じた場合、それが貸借人の過失によるものでなければ、賃料から相当分を返してもらうことが可能である。
民法改正では「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用および収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」(改正民法第611条)とされ、これまで“賃料の減額を請求できる”から“当然減額”と厳格化された。
ただし、具体的な金額などが定められているわけではないので、減額を求める際にも実際には話し合いが必要となる。
「いくら減額できるかの目安は、(公財)日本賃貸住宅管理協会の『賃貸設備等の不具合による賃料減額ガイドライン』を参考にするとよいでしょう」
減額の目安については、写真ページの一覧表も参考にして欲しい。
4.個人保証における極度額の設定
保証人より賃貸保証会社を使う人が増えていく
改正によって、契約書の条項に連帯保証人が負う最大負担額=極度額の明記が必要に。極度額が定められていなければ、その保証は無効となる。ただし、具体的な金額が法律で定められておらず、あまりに高額な場合は無効となる可能性はあるが、上限に制限はない。
「貸主からすれば極度額は最大にするほうがいいですよね。今までは“まあ、いいか”と連帯保証人になっていた人も、具体的な金額を知ることで不安になり、断ることが増えると考えられます」
ちなみに、極度額を決めるひとつの目安となるのが、裁判の判例。判決で認容された連帯保証人の負担額に関する国土交通省の資料によれば、平均値で家賃13・2か月分、最大値で家賃33か月分の負担額となっている。
また注目したいのは、対象が個人保証に限られているという点。いわゆる保証会社による保証では、極度額を定める必要がないのだ。
「今後は、家賃保証会社(債務保証会社)の利用が必須という賃貸契約が増えていくでしょう。家賃保証会社を利用する場合、その分の費用がかかります。賃貸保証料は初回の契約時で賃料の0・5か月分〜1か月分というのがだいたいの目安です」
(構成・文/長谷川英子)
【PROFILE】
加藤哲哉さん ◎ALL About賃貸・部屋探しガイド。不動産会社や不動産オーナーに対して、多数のセミナー実績がある。リクルート、レンターズを経て現在All About 賃貸・部屋探しガイドやLIFULL HOME'Sのエグゼクティブ・アドバイザーを務めている。