イラスト/上田惣子

 収入は増えないし、出費はかさむ一方……。でも、お金に困ったら、頼れる制度があるんです。給付金制度や優遇制度、助成金など、知らないあなたは大損してますよ!

申請のタイミングも非常に重要

「日本にはお得な制度がたくさんあるのに、活用していない人が多いように感じます」

 というのは、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの井戸美枝さん。

「いくらもらえる条件にあてはまっていても、届け出や申請をしないと、お金はもらえません」

 知らないことで、実は大損しているという人も少なくないという。

 おすすめなのは、各省庁や自治体のホームページや自治体が発行する小冊子をこまめにチェックしておくこと。そして該当する制度があったらすぐに申請を。特に住宅関連の場合は、工事の前に申請が必要となることが多いという。

「バリアフリーなどの介護のためのリフォームは、要介護・要支援と認定された本人が、実際に住んでいないと介護保険からの助成は受けられません。私も親のためにリフォームを考えましたが、施設に入所していたので補助を得られなかった経験が。申請と工事のタイミングも重要です」

 また自治体の助成金は予算が限られているので先着順や抽選になることもある。『これ!』という制度を見つけたら、自治体窓口などへ早めに相談するのが肝心だ。

【給付金申請の流れ】

(1)申請書をもらう
 市区町村の窓口や保健所、ハローワークなどの申請窓口で入手できるほか、自治体のホームページからダウンロードできるものもある。

(2)必要書類を用意する
 申請書とともにもらえる手引書に記載されている書類をそろえる。領収書など原本でなくてもよい場合は、できるだけコピーを用意して。

(3)記入する
 申請書に必要事項を記入する。記入漏れや押印忘れがないようにチェックを。

(4)申請
 書類を郵送、または申請窓口に持参して提出。記入間違いがないか不安な場合は、窓口でチェックしてもらうとよい。

(5)審査・受領
審査に通れば、指定の口座に振り込まれる。住宅工事は事前申請のことが多いので、審査の通知の知らせを受けてから、正式契約、着工するのがベスト。

住まいの「もらえるお金」

 家賃補助や住宅購入補助など、住まいに関するもらえるお金をご紹介。100万円超えの補助もあるので、もれなく活用を。

《ハローワーク経由の就職&引っ越し》
最大約37万円 ※移動距離による

 ハローワークで再就職したり、公共職業訓練などを受講するために、引っ越しが必要と判断されたらこちら。本人と家族の移動交通費(鉄道や船、飛行機、車)として距離に応じて9万3000円~28万2000円の移転料と、着後手当7万6000円〜9万5000円(いずれも単身者は半額)がハローワークから給付される。

届け出先:管轄のハローワーク

《千代田区に住む親の近くに引っ越し》
最大374.4万円

 東京都千代田区に親が住んでいたら検討したいのが、千代田区の『次世代育成住宅助成』だ。賃貸でもローンでも、区内に住む親世帯の近くに住み替えると、最長8年間にわたる助成が! 新婚世帯と子育て世帯(子の年齢は18歳まで)が対象で、4人家族の場合、初年度6万円/月、そこから1年ごとに減額されて8年目は1・8万円/月となり、合計で374・4万円にもなる。

届け出先:東京都千代田区役所

《子育て世帯が新宿区へ転居》
最大94万円

 東京都新宿区へ引っ越すなら、新宿区の『次世代育成転居助成』。区外から転入する子育て世帯が、所得などの要件を満たせば、転居前後の家賃の差額を、月額で最高3万5000円×最長2年間、引っ越し代の最大10万円が助成される。

届け出先:東京都新宿区役所

《全国どこでもマイホーム購入時》
最大50万円

 所得が基準以下の人なら、全国のどこでも、住むための家を購入したら助成を受けられる『すまい給付金』。返済期間5年以上の住宅ローンか、50歳以上で現金での住宅取得者が対象。床面積50平方メートル以上が条件。2021年12月までに引き渡される物件が対象となる。住宅ローン控除との併用も可能だ。

届け出先:全国の住宅関連企業内の『すまい給付金申請窓口』

《家族向け物件の家賃が安くなる》
最長20年間

「中堅所得ファミリー層に向けて、良質な住宅を供給すること」を目的に作られたのが『特定優良賃貸住宅』制度。国の基準によって作られた質のよい賃貸住宅に、家賃補助つきで、相場よりも割安で住むことができる。専有面積50平方メートル以上の広めの物件や、2LDK、3LDKのファミリータイプが多い。

届け出先:各自治体

《住宅の塀を生け垣に》
最大30万円
 ※品川区の場合

 道路に面するブロック塀を生け垣にする、壁面を植物で覆う、花壇を作るなどの緑化のための経費の一部を助成。すでにあるコンクリート塀を壊す費用まで助成してくれる市区町村もある。地球温暖化防止、ヒートアイランド現象の緩和など、人に優しい環境づくりを目指してつくられた。

届け出先:市区町村

《空き家を取り壊すとき》
最大150万円

 年々深刻化する空き家問題に対処するため、国は2014年に空き家等対策の推進に関する特別措置法を制定した。空き家を取り壊す場合、取り壊し費用の一部を自治体が負担してくれる。東京都杉並区の場合、取り壊し工事費の80%、150万円を限度に助成してくれる。

届け出先:市区町村

《空き巣被害などの防犯対策》
最大1万円

 防犯性の高い玄関錠の取りつけや、窓の防犯ガラス交換、センサーつきライトやアラームの取りつけなどを対象に、東京都港区で『住まいの防犯対策助成事業』を実施している。空き巣被害を防ぐために、費用の半分(上限1万円)を助成。賃貸住宅も所有者の了解を得れば申請可能。

届け出先:東京都港区

《地震対策としての診断&改修工事》
最大100万円
 ※大阪市の場合

 地震大国、日本。ところが耐震基準に満たない物件は数多く存在し、耐震診断には10万~20万円程度、補強工事は設計や工事で数百万円が必要といわれている。全国の自治体では、地震被害を軽減するために耐震診断や改修工事費用の助成を実施中。事前申請が必須となる。

介護の「もらえるお金」

 先の見えない介護は、日々の出費を極力抑えたいもの。日用品から、リフォーム、介護費など制度をもれなく活用して。

《介護のためのリフォーム》
最大20万円

 手すりの設置や滑りにくい床材、段差解消など要介護・要支援と認定された人が自宅をバリアフリー工事する場合、介護保険を使うことで1割負担でOKに。本人が入院などで不在の場合は対象外。支給限度基準額は1人につき20万円まで。介護状態区分が3段階以上上昇したときは再度利用できる。

届け出先:自治体の介護保険窓口

《介護費用をサポート》
プラス8万8068円

 介護保険に含まれない出費について、各自治体でサポートしてくれることも多い。配食サービスや紙おむつ支給、家事支援、タクシー券などがあるので、市区町村に相談を。愛知県高浜市では、要介護者の介護サービスの支給限度額に上乗せ支給があり、要介護4の場合、国基準が月3万806円なのに対し、3万8145円が限度額。年間で8万8068円も多くサービスが受けられる。

届け出先:市区町村、愛知県高浜市

《徘徊等に備えた見守りサービス》
利用料無料

 東京都立川市では、慢性疾患のあるひとり暮らしの高齢者世帯に、緊急通報システムを無料で設置してくれる。認知症の高齢者などで、徘徊行動が見られる人を介護している家庭に、被介護者の発見に役立つGPS端末をレンタルしてくれるのは神奈川県茅ヶ崎市。月の利用料は550円。

届け出先:東京都立川市、神奈川県茅ヶ崎市

《介護サービスの支払いがかさんだら》
限度額を超えた金額

 高額療養費制度の介護版といえるもの。世帯内に住民税を課税されている人がいる場合は、世帯で1か月当たりの介護負担上限は4万4400円で、これを超えた分を、介護保険窓口に申請することで、還付を受けることができる。

届け出先:市区町村の介護保険窓口

子ども関係で「もらえるお金」

 子育てに必要なあれこれのほか、勉強にともなう授業料など、子育てには多くの費用がかかる。見逃せない制度をまとめた。

《私立高校の授業料を支援》
最大20万円

 公立高校の授業料は実質、無償化されているが、私立高校に通う場合は、「私立高等学校等授業料軽減助成金」といった自治体が支援する助成制度がある。所得の高低差で助成金が変わるが、大阪府では年収590万円以内だと、授業料は無償。

届け出先:市区町村

《チャイルドシートが半額に》
2万円
 ※石川県能美郡川北町の場合

 6歳未満の乳幼児をもつ保護者が対象。補助内容は自治体によって大きく異なるが、おおむね購入金額の半額から数千円を助成してくれる。助成金以外にチャイルドシートの貸し出し支援を行っている市区町村も。購入前の事前申請が必要。

届け出先:市区町村

《子育て支援パスポート》
割引やサービスが全国で

 対象となる家庭は、未就学児~18歳未満、妊婦を含むなど、自治体によって条件が異なるが、協賛店や施設で「子育て支援パスポート」のカードを提示すると割引やサービスが受けられる。

届け出先:自治体により異なる、ダウンロード可能な都道府県も

※サービスは全国で展開されている。利用できる協賛店舗は、このロゴマークのステッカーが貼られていることが多いので目印に。日常生活のほか、旅行や帰省の際にも利用できる。

スキルアップに関する「もらえるお金」

 仕事をステップアップさせたいと考えている人はこちら。資格や特殊技能など、強みを身につけるチャンス!

『TOEICなど資格取得や勉強』
最大168万円

 働く人のスキルアップを支援するのが『一般教育訓練給付金』。国が指定した教育訓練を受講すれば、上限10万円が支給。対象講座はTOEICやインテリアコーディネーター、医療事務、CGクリエイター、普通免許など多岐にわたっているのが魅力。さらに高度な専門職を目指すなら『専門実践教育訓練給付金』で、MBAや美容師など、最大で168万円の支給がある。

届け出先:管轄の公共職業安定所

《伝統工芸の習得を助成》
最大180万円

 金沢市では『金沢の技と芸の人づくり奨励金』制度があり、金沢漆器や九谷焼など、伝統工芸産業の技術習得を目指す人に助成金が支払われる。工房に欠員が出たときのみに募集があり、月額約5万円が3年間を限度に支払われる。富山県では建築板金や造園などの『ものづくり職人確保育成事業」があり、育成する側に助成金が支給される。

届け出先:金沢市、富山県

死亡に関する「もらえるお金」

 残された家族の生活費や葬儀費用……亡くなってから想定される出費も、給付金などでカバーを。

《会社員や自営業の夫の死亡時》
最大、年間78万100円
 (子ども1人と配偶者の場合)

 国民年金に加入していた夫が亡くなり、18歳未満の子どもがいる妻には『遺族基礎年金』が支給される。子どもが18歳以上または子どもなしの場合、厚生年金加入の夫が亡くなったら妻は遺族基礎年金に加えて『遺族厚生年金』が支給。夫が国民年金加入者だった場合は、遺族基礎年金はなく『寡婦年金』が妻が60~65歳の間支給。

届け出先:年金事務所

《葬儀費用や埋葬料死後の出費対策に》
最大32万円

 会社員などの健康保険の被保険者やその家族が亡くなった場合、一律5万円の埋葬料が給付される。その他火葬料補助のある自治体もあり、千葉県成田市・八街市・富里市の住民が、故人や喪主の場合は火葬料が無料になることも。国民健康保険加入者が亡くなった場合には、市区町村によって額は異なるが、葬祭費として1万~7万円が支給される。

届け出先:市区町村

その他

 ほかにも見逃せない意外なサポートをピックアップ。知っていることでイザというときしっかり活用できるはず。

《失業時の家賃を給付》
最大、家賃9か月分

 失業が原因で家賃が払えず退去を迫られている場合、『失業時の居住確保給付金』として自治体で家賃を支給。失業してから2年以内で、65歳未満であることが条件。給付金の支給期間は原則3か月だが、条件によっては最長9か月まで給付延長を受けることも可能だ。

《愛犬や愛猫の去勢・不妊手術》
最大7000円
(飼い猫の不妊手術)

 東京都渋谷区では、飼い猫のみの助成で、不妊手術は7000円、去勢手術は5000円、茨城県水戸市では、飼い犬の不妊手術に4000円、去勢手術に3000円が。人気の給付金なので、募集が短期間の場合も。ちなみに福岡県春日市では、飼い主のいない猫の不妊手術に2万5000円、去勢手術に1万5000円を補助している。

​(取材・文/樫野早苗 )
※各制度は2020年3月30日現在のもの。それぞれ、募集年度によって金額や条件が変わる場合もあるので、詳しくは各組織のホームページで確認を。


井戸美枝さん ◎社会保険労務士 ファイナンシャル プランナー。経済エッセイスト。厚生労働省社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など著書多数。