夜の銀座繁華街

 3月30日、東京都の小池百合子知事は、新型コロナウイルスの感染拡大についての記者会見を開いた。

「感染経路が不明な症例のうち夜間から早朝にかけて営業しているバー、そしてナイトクラブ、酒場など、接客を伴います飲食業の場で感染したと疑われる事例が多発している、そのことが明らかになったとのご報告でございました」

 小池都知事が指摘する夜のお店は、“3つの密”――換気の悪い密閉空間、多くの人が密集する場所、近距離での密接した会話――が、濃厚な形で重なるとして、「都民のみなさま方にはこうした場への出入りを控えていただくようにお願いしたい」と自粛を要請した。

 彼女の会見を受けて、都内の繁華街では臨時休業するお店が続出。特に多いのが、日本一の大人の夜の街、銀座だ。

現在、4月12日までの予定でお店は閉めています。銀座はお客さまもお店もアンテナが高いので、2月末からホステスに出勤調整をかけての営業を続けていましたが、今回の都知事の発言により事実上、銀座のクラブは閉めざるをえなくなりました。今後の情勢により再開の時期も変わると言われております」(銀座のクラブママ)

営業しないと潰れてしまうので……

 店を閉めてしまうと生活していくことができない。渋谷でバーを経営する男性は、

当面、営業を自粛するので、公庫や区が行っているコロナ対策の融資を受け、賃料や給料の支払いに回します。また不動産会社やカラオケなどのリース会社に、料金をいくらか免除してもらえないか駆けあっています。それでも回らない場合は店舗の売却も視野にいれています……

 小池都知事による要請は、あくまで“営業の自粛”であり、休業命令ではない。そのため3つの密への対策を取りながら、営業を続ける店も少なくない。

「現段階ではカラオケなどの騒音がない場合は、入口を開けた状態にして常に換気のいい状態を心がけています。お客様同士の対策は取れていませんが、従業員側の対策として注文以外の接触はほぼ行わないように心がけています。報道による危機感から、4月1日から入店時にアルコール消毒もお願いするようにしています。

 現状では店を閉めること自体が生活に支障をきたすため、通常通り営業せざるをえないので個人でできる対策を従事しながら続けていく方針です」(六本木のバー店主)

一応開けていますが、今後どうしていくかは検討中ですね。売り上げは、普段に比べて7割から8割は減っています。対策としては、換気扇はもちろんベランダの扉は常に開けて換気をよくしています。入口の扉も30分に1回は必ず開けて空気の入れ替えをしています。またカウンターのみの営業にして、さらに席数を減らしてお客様の間隔をしっかり取るようにしています。

 従業員の給料については、満額は出せませんが一部補償はします。国のトップがダメなら、店のトップがしっかりしないと潰れてしまいますから。各従業員は今まで本当に頑張ってくれていたので、絶対にクビにしたくない!」(新宿二丁目のゲイバー店主)

 世帯ごとに2枚のマスクを配布する政策が批判を浴びている。営業自粛を呼びかけられても店を開けることへの賛否はあるだろうが、このつらい状況のなか、行政よりも夜の街の住人のほうが、より考えしかも迅速に対応しているような気もする。

 銀座や六本木に並ぶ繁華街の歌舞伎町。この街の“3つの密”といえば、キャバクラだ。4月中旬まで休業という店もあるが、営業を継続する店も多い。

「うちのお店はすべてのお客さまにアルコール消毒、また従業員全員の体温測定もしています。営業しないという対策がいちばんなのかもしれませんが、それだと潰れてしまうので……。ただ昨日はお客さまは2組だけでした」(歌舞伎町のキャバクラ店長)

キャバ嬢だけでなく、仲のいいボーイも引き連れて

 閑古鳥の店舗がある一方で、歌舞伎町ほどの繁華街になれば人通り自体はまだまだあり、「ここやってるじゃん!」と新規の客が集まる店もある。

「やっぱりコロナなんて関係ないと思って飲んでる人も多いですよ。アルコール消毒もしてくれなかったり。“コロナで客少ないだろうから来たよ!(笑)”とか言う人もいるし。出勤している私が言える立場じゃないけど、笑えないよって。うちの店は窓もないし、入口を多少開けたところで換気できる環境じゃない。そんななかで隣に座って接客して、手を握られたり、酔っ払った状態で歌って、唾も飛んできてる。お店は営業を続けていますが、私は今は出勤してないです。やっぱり怖いので……」(歌舞伎町のキャバクラ勤務の女性)

国外では休業した飲食店への保証策が出されているが、日本は現状、明確な保証はない。このような状況を受けて“商売替え”を始める女性たちもいる。

「友達はお店がガラガラで、小池都知事の会見でもっと少なくなるだろうから、コロナがなくなるまで風俗で働くって言っていました。風俗はキャバクラと違って、うがいや消毒を強制的にお願いできるから、むしろ安全なんじゃないかって。とはいえ、消毒したとしても濃厚接触すぎると私は思いますが……」(同・キャバクラ勤務の女性)

 そしてキャバクラ嬢としての誇りなのか、キャバクラ的な営業を個人で続ける人も……。

自分のお店が閉まっていて稼げないから、常連さんに個人的に連絡して、空いている飲食店で飲み食いしてお金をもらっている子もいます。常連さんも普段より安くお気に入りの子と飲めてうれしいんでしょうね。

 なかには女の子だけじゃなく、仲のいいボーイまで引き連れて飲みに行くなんて人もいますからね。こんな時期に団体で……」(同・キャバクラ勤務の女性)

 このような行為が感染拡大につながる恐れがあると語るのは、繁華街事情に詳しいジャーナリストの渋井哲也氏だ。

「キャバクラなどの接客を伴う飲食店には、勤務の前後にお客と食事や買い物をする “同伴”や “アフター”といったサービスがありますから、店以外で会うことは自然です。しかしこの時期、毎日のように“3つの密”を満たすような場所に不用意に出入りしていれば、感染するリスクは高いでしょう」 

 また、店以外での接触は感染経路が不明確になる恐れもはらんでいる。

「お店自体が休業してしまったら、店側は女性たちのプライベートの動きを把握しきれませんからね。今回の自粛要請で給料が減ってしまったキャバ嬢が生活のために個人の営業を続けることで、知らない間にウイルスの感染源になっている可能性は十分にあると思います」(渋井氏)

 ただでさえ、感染経路の特定が難しいといわれる夜の街。コロナウイルスの魔の手から逃れるためには、24時間おとなしく自宅にいるしかないのかもしれない……。