「今、頼りになるのは“食生活”。食べ物、食べ方、食習慣を変えるだけで、免疫力が上がるのでウイルス対策に効果的なんです」
そう話すのは、順天堂大学医学部免疫学の“免疫学の権威”と言われ、現在78歳の奥村康特任教授。
そもそも、免疫とは何なのか? 簡単に言うと、細菌やウイルスなどの病原体から身体を守る仕組みのこと。人間の体内にある免疫細胞は大きく分けると、獲得免疫と自然免疫の2つがあるという。
芸能人やスポーツ選手が感染するのは……
「全体の約7~8割を占める獲得免疫は、いざというときに働く免疫細胞のことで、少々の負荷では活動が鈍ったりしません。重要なのは、最前線でさまざまな病原体と闘っている自然免疫です。この免疫細胞は生活習慣によって大きく変化します」(奥村教授、以下同)
ナチュラルキラー細胞(以下、NK細胞)は、自然免疫のひとつ。
「このNK細胞は体内を常に巡回し、ウイルスやがん細胞を見つけるとやっつけてくれる頼もしい免疫細胞です。いわば、体内の“おまわりさん”。彼らの活動が鈍くなるとウイルスが体内ではびこってしまうんです」
今、猛威をふるっている新型コロナウイルスの場合も、
「感染しても発熱や味覚障害などの症状が出ていない人がいますよね。あれはNK細胞が新型コロナウイルスに打ち勝ったから。NK細胞が強ければ強いほど、重症化しない可能性が高いんです」
だが、NK細胞は知らず知らずのうちに弱まっていることもあるという。
「不規則な生活が原因のひとつです。最近、タレントさんの感染者が増えているのも、朝まで仕事したり、飲み歩いたりするなどの“夜ふかし体質”の人が多いからかもしれません」
長距離トラックやタクシーの運転手も不規則な生活になりやすい職業なので、気をつけたほうがいいという。
「海外遠征に行くスポーツ選手も風邪をひきやすいんですが、それも時差によって生活が不規則になっているから」
ストレスもNK細胞を下げる要因になる。
「元気で若い人でも仕事でストレスを感じていたら、NK細胞はすぐに減少します。メンタルの影響は大きいのです」
コロナの蔓延で、世界じゅうが出口の見えない不安に包まれているが、
「こんな状況下なら、NK細胞が減ってしまうのは当たり前。今、見直すべきは生活習慣、特に、“食生活”で免疫力を上げることなんです」
ストレス解消もとりいれてほしい
即効性があるのは“乳酸菌”をとること。
「ヨーグルト、納豆、みそ、キムチなどの発酵食品。これらの食品は乳酸菌を豊富に含んでいて、たくさんとればNK細胞が活性化することがわかっています」
ヨーグルトなら200ml、納豆なら1パックを目安に毎日、食べるのがポイント。
「朝はヨーグルトを食べるなど食習慣を身につけるのもいいでしょう。一定のリズムを作ると、食生活が安定して免疫力アップにつながります」
きのこ類に含まれるβ-グルカンも、NK細胞を活性化する作用がある。オススメはしいたけで、かさの部分にたっぷり含まれている。
「大量のビタミンCも免疫を上げるので、新鮮な野菜を食べてください。特にブロッコリーがいいでしょう。胃への負担も少ないし、ビタミン量はキャベツの数倍です」
本当は生で食べるのがもっとも効果的だが、
「サッとゆでるくらいなら、少量のビタミンを失う程度ですむのでOKです」
ビタミンCは、サプリで摂取しても生野菜と同様の効果が得られるというが、
「免疫力を下げないためには、バランスのとれた食生活を保つことが大前提。そのためには、いろんな食材を食べることがいいんです」
“昼は魚料理、夜は肉料理”と決めておくなど偏りをなくすことも大事だという。
「極端な例を挙げると、1種類のものを食べ続けていると、早死にするというデータもあります。バラエティーに富んだものを食べることがすべての健康につながる─と、栄養学者はみんな言っていますよ」
ストレス解消の要素も盛り込んでほしい、と奥村教授。
「お酒も少量であれば飲んだほうがNK細胞を活性化します。アルコールは免疫力を鍛えてくれるんです。鍼灸と同じで、少し身体をいじめるとそのリバウンドで強くなって抵抗力が高まります」
食事中、家族との会話を楽しむことも重要だ。
「各地で外出自粛要請が出されていて、みなさん不満がたまっているはず。だからこそ、人の悪口を言い合うのがいちばんいい! ストレス発散に効果的で、免疫力が確実に上がりますから」
家族間による感染の危険性もあるので、ある程度、距離をとりながらうっぷんを晴らしてもらいたい。
気の置けない人と、何も気にせずに笑いながら食事ができる日はいつ訪れるのか。コロナの長いトンネルに、まだ出口は見えない─。