ここ数年、芸能人が続々とYouTubeに参戦するという大きなムーブメントが起こっている。その渦中で3月末、ついに俳優の佐藤健も参戦するという運びとなり、世の女性が色めきはじめた──。
'20年1月期ドラマ『恋はつづくよどこまでも』で《容姿端麗・頭脳明晰だけど超ドSなドクター》(公式HPより)という、2次元きわまりない役を見事に演じきった彼は、このドラマの最終回翌日に公式チャンネルを開設。すでに登録者数は160万人を突破(4月4日時点)している。100万人突破のスピードはなんと嵐に次ぐ歴代2位だという。
佐藤健といえば、特定の芸能人との熱愛が報じられることは少ないものの、数々の『夜遊び』『合コン』といった報道が相次いで報じられてきた過去がある。そんな彼にまつわる“合コンスクープ”のなかで一番話題になったものといえば何といっても、《前田敦子 深夜の「お姫様抱っこ」 相手は映画『るろうに剣心』のあの人気俳優》(『週刊文春』'12年9月20日号)であろう。
“佐藤健、降臨!!”
テキーラで泥酔した前田敦子を家まで送り届けようとした際に撮られた「スカートがずり下がったあっちゃんを抱きかかえるタケル」の写真が衝撃的すぎて、ネットで画像がコラージュされまくる“お祭り状態”となった。あっちゃんを抱えながらゴミ収集車のほうに向かっていく合成写真だったり、ジャン=フランソワ・ミレーの名画『落穂拾い』の中に“トーンの加工に何時間時間かけたんだよ”というくらいのクオリティーで登場させられたり……といった具合だ。
このときの『文春』の記事によると、前田敦子を送り届けたあとの午前5時、友人に電話をかけ、《撮られた。記事になる。せめて『優しく介抱してあげてた』みたいな記事になればいいけど》と報告したという。この発言からみてとれるのは佐藤健が“自分の見られ方をとても気にする”人間だということではないか。
ネットで“お姫様抱っこ”を壊滅的にイジられてから8年。前出の主演ドラマ『恋つづ』は王道ラブコメにも関わらず最終回は自身最高の15.4%の視聴率を記録したのだが、背景にSNSを駆使した“露出”が大きく寄与していたとみられている。
まず、'16年に開設していたLINE公式アカウントを前述のドラマ『恋つづ』の宣伝に使い、ドラマを盛り上げながらも、
「撮影もうすぐおわるー」
「ごはんいってくる」(の後に千鳥ノブがグラスを持った写真を添付)
といった、“彼氏感がすごい”文面で話題をさらった。プロモーション攻勢はそれにとどまらず、『SUGAR』というアプリにも参戦。インストールするとオフモードの佐藤健が画面にあらわれ、任意で選ばれた1人が「実際に生電話できる」というもの。まさに“佐藤健、降臨!!”なわけだ。
しかも、《アプリに課金すると生電話に当選しやすくなる》といったシステムまで存在しているようで、もはや“いくら貢ごうとも決して会うことはできないホスト”状態。配信は生放送なので見逃すわけにもいかず、“もはやタケルは生活の一部”に。
そのような圧倒的プロモーション期間中にみえてきたのは、佐藤健が「自分の見られ方を気にして、使い分けている」瞬間だった。
自分のYouTubeなのに「なにもわからない」
同ドラマの番宣で朝の情報番組に出演した際、佐藤は「世の女性を悶絶させている」ことについて問われ、「いや〜恥ずかしいですね」としながら、《キスをして“これは治療だ”と詰める》という、現実世界にいたらガチ引きするようなドSドクター芝居に対し、「よく考えるとなにやってるんだろうって思ってやっていました」とおおいに照れてみせた。
しかし、『SUGAR』の生放送では一転。ヒロインの上白石萌音と部屋のなかで顔を寄せ合って会話するシーン内で、“彼女の後頭部に手を回し、結んであった髪をほどく”というアドリブを入れたと告白。「台本にはないんだけど、芝居してて、ほどきたくなったんでやりました」と自ら進んで語り、ファンを“キュン死”させた。不特定多数がみているテレビとファンだけがみているアプリとでは、全く違う一面をみせているというのがなんともあざとい。
佐藤健がSNSを駆使してプロモーションを成功させた最大の要因は『公式LINE』や『SUGAR』といった他の芸能人があまり活用していない、つまり“競合の少ない”アプリを駆使していること。そして、これまでツイッターやインスタグラムといった王道のSNSを使ってこなかったという点だろう。おかげで本人のプレミア感を高めることに成功しており、つまるところ、“佐藤健、降臨!!”を感じやすい仕組みづくりができているのである。
そんな株価急上昇銘柄である佐藤健が、「闇営業の宮迫博之」「パワハラのTKO木下」ら芸能界の魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめくYouTubeの世界に颯爽と登場したわけだ。
最新動画は、事務所の後輩である神木隆之介らと“ノープランでドライブ”をするという企画。オープニングで佐藤健は芸能人オーラ満点のグラサンをかけながら、
「ある人に呼び出されまして待っているわけですけれども……本当に(企画について)なにも聞いてないですね」
とぼやく。テロップには《とある人の持ち込み企画の為何もわからず》の文言。この“とある人”というのが神木くんなわけだが、自分でチャンネルを開設しておいていきなり「何もわからない」ってどういうこっちゃねん──。
いや、でもこの登場の仕方こそが、“佐藤健、降臨!!”イズムの真骨頂ではないだろうか。とことんファン心理をくすぐる“あざとさ”がここにもちりばめられている。どこまでが計算なのか、あなおそろしや。
〈皿乃まる美・コラムニスト〉