“長寿の町”として有名な、京都府の日本海側にある京丹後地域。そこに住む人たちを調べたところ、いま大注目の“善玉菌”がお腹の中に多くいることがわかったといいます。いったい、どんな善玉菌なのか? 『京丹後長寿コホート研究』において腸内細菌の分析を担当された、京都府立医科大学消化器内科学教室准教授の内藤裕二先生にお話を伺いました。
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私たちの健康を守る新たな味方、『酪酸菌』
私たちが調べた京丹後という地域は、いまでは新しい道路が整備され、京都市から車で2時間ほどあれば行くことができます。ですが、以前は交通の便がとても悪く、コンビニすらも、ほとんどないようなところでした。そのため高齢の方々は自分で畑を耕し、近くの海や山から食料を調達するような暮らしをしていました。
その京丹後が長寿で一躍、有名になったのは、この町に住んでいた故・木村次郎右衛門さんが、“もっとも長く生きた男性”として、ギネス世界記録に認定されたことがきっかけだと思います。
実際、京丹後市は100歳以上の人口が全国平均の約2.7倍もあり、京都市と比べると、大腸がんにかかる人の割合は半分以下です。そこで、京丹後市の病院と共同で、京丹後市と京都市に住む65歳以上の高齢者51人ずつに便を提供してもらい、腸内細菌を比較しました。すると、興味深い結果が。京丹後市の人に多かった上位4つは、『酪酸菌(または酪酸産生菌)』と呼ばれる種類の善玉菌だったのです。
これまでは善玉菌というと、『ビフィズス菌』や『乳酸菌』が取りあげられることが多かったですが、近ごろ注目されているのが、この酪酸菌。
いわゆる善玉菌というのは、私たちが食べたもののうち、消化・吸収されずに腸に届いたものを“エサ”として食べ、健康にいい物質を作り出しています。その物質を「代謝物質」と言ったりしますが、酪酸菌は『酪酸』という代謝物質を作り出す腸内細菌のことです。
酪酸には、腸管の中を無酸素状態にする働きがあります。善玉菌にとっては酸素がない状態のほうが好ましいのですが、実は、私たちの健康によくない悪玉菌は、酸素があっても生きられます。つまり、酪酸は善玉菌が好む環境を作り、悪玉菌を腸に住みつきにくくする働きがあるのです(写真ページのイラスト図解参照)。
また、酪酸は、アレルギーや自己免疫疾患を引き起こす“免疫の暴走”を抑える『制御性T細胞』を増やすことがわかっています。さらに、「糖尿病や肥満の人の腸では酪酸菌が減っている」という海外からの報告もあります。酪酸菌は、私たちの健康に寄与する“新たな善玉菌”と言うことができるでしょう。ちなみに、酪酸を口から摂取しても、大腸に行く前に吸収されてしまうので、大腸の中で酪酸菌に酪酸を作ってもらうことが大事です。
長寿の秘訣は『水溶性食物繊維』にアリ!
では、なぜ京丹後の市民に酪酸菌が多かったのか。京丹後地域における食生活をNHKのテレビ番組『ガッテン!』と共同で調べたところ、京都市の人々と比べて明らかに、ひじきやわかめなどの海藻類をたくさん食べていることがわかりました。また、玄米などの全粒穀物や大豆なども比較的多く食していました。
これらの食材に豊富なのは、『水溶性食物繊維』。実は、水溶性食物繊維が酪酸菌の“エサ”なのです。
加えて、京丹後の方々は油ものの摂取が少ないという特徴も。日本人を対象とした研究で、「高脂肪の摂取は悪玉菌を増やす」という解析結果もあります。
酪酸菌の“エサ”である水溶性食物繊維を積極的に食べることと、油ものを控えた食習慣が、京丹後に住む人々の腸内細菌にプラスの影響を与え、長寿につながっている可能性があるのではないかと考えています。
(隔月刊誌『NHKガッテン!』2020年5-6月号/巻頭特集「腸内細菌パワーが目覚める『賢い食べ方』」より)
【PROFILE】
内藤裕二さん ◎京都府立医科大学消化器内科学教室准教授。日本消化器病学会学会評議員。