「大腸がんで死なないためには、なんといっても検診を受けることです。内視鏡検査で早期発見をすれば、死亡率はぐっと下がります」と、消化器内科医で京都府立医科大学准教授の内藤裕二先生。
次に重要なのは、腸内環境を乱す習慣を見直して、効果的な腸活を行うこと。
「近年、研究がすすみ、食物繊維の摂取量が多いと大腸がんだけでなく、全病気の死亡率も下がることがわかってきました」(内藤先生)
効果的な腸活は、やっぱりヨーグルト? 食物繊維研究の第一人者、大妻女子大学教授の青江誠一郎先生は、
「ヨーグルトも役立ちますが、それだけをとっていればいいということではありません。ヨーグルトでいくらいい菌を入れても、お腹の中には定着しません。本来お腹の中にいる善玉菌を増やして、活動してもらうことがいちばんです」
善玉菌を増やすために食物繊維を効果的に摂取する方法を教えてもらいましょう!
胃がんを抜いて死亡原因1位に
女性の大腸がんの死亡数は、年々増え続けていて、国立がん研究センターの2019年がん統計予測では2万5000人を超えるという数字が発表されている。2005年までは胃がんが1位だったが、'06年に大腸がんが抜いて1位となり、その後は上昇を続けている。
「胃がんは男女ともに減少傾向にあります。胃がんの主な原因はピロリ菌の感染で、感染率が年々減少し除菌治療が進んでいることが理由です」(内藤先生、以下同)
一方、大腸がんは男女ともに上昇傾向にある。そもそも、なぜ小腸ではなく大腸なの? まずは、腸の構造を知ることから始めよう。
食べたものは胃で分解され、栄養を吸収する小腸へ進む。小腸は十二指腸、空腸、回腸という3つの器官からなり、その長さは6~7mもある。大腸は小腸から送られた食物残渣(ざんさ)から水分を吸収し糞便をつくるのが役目。その長さは盲腸、結腸、直腸を合わせて約1・5m。
「腸のがんのほとんどは大腸がんです。十二指腸がんなど、小腸にもがんはありますが、大腸の10分の1にも満たないほどです。小腸にがんが少ないのは、大腸に比べて(消化吸収の)流れが速いのと、悪い菌がいないせいだと考えています」
米国で大腸がんの死亡が減ったワケ
日本では大腸がんが増え続けているが、米国では減少傾向にあるという。日本の和食は健康食で、米国の食事はジャンクフードが多いようなイメージだが、米国のほうが少ないのはなぜか。その理由は、内視鏡検査の実施率の高さ。日本で主流の検便より、効果的だという。
「州によって異なりますが、5~10年ごとの内視鏡検査が法律で義務づけられています。この法律が施行されてから、大腸がんによる死亡が激減したのです。内視鏡で早期に大腸がんを発見し病巣を切除すれば、生存率がぐっと上がることがわかっています」
検査の期間は5~10年ごとで十分だとか。
「毎年検査を受けたがる人もいますが、大腸がんを発病した人でも2~3年ごとで十分です。それよりも多くの人に検査を受けてほしいと思っています。内視鏡検査に抵抗がある人は、CT画像からAIを使った大腸解析ソフトで、内視鏡検査に近い画像が得られるコロノグラフィー検査(保険適用外)というのもあります。
大腸がんリスクのスコア表で4点以上の方は、迷わず内視鏡検査を受けてください」
食物繊維は大腸がんを抑制
食生活の改善も欠かせない。
「大腸がんの原因となる腸内細菌もわかってきて近年、続々と研究結果が報告されています」
大腸がんの原因となる腸内細菌とは、硫化水素、アンモニアなど発がんにかかわる物質を出す、いわゆる悪玉菌。
悪玉菌が好む食品は、肉や高脂肪食といわれているが、
「米国の研究で、硫化水素を出すビオフィラ属は、加工肉と一部のダイエット飲料を多く摂取する人に多いと報告されています」
反対に大腸がんを抑制する食生活もわかっている。
「食物繊維を多くとるほど大腸がんの再発が少ないという研究結果が報告されています」
食物繊維が大腸がんを予防するという疫学研究は難しく、再発の抑制から読み取るしかないそうだ。また、
「大腸がんだけでなく、食物繊維が多い食生活を行っている人は、すべての病気の死亡率が低いということもわかっています」
米などの穀物が腸活のキーに
「昔の日本人は、食物繊維が豊富な食生活でした。しかし、食の欧米化が進み、食物繊維の摂取量が減り、腸内細菌叢が悪くなり大腸がんが増えたことは明らかです」
食物繊維の摂取量は、1955年と比較すると約3割減少。なかでも穀物による食物繊維は約7割も減少している。
「日本人ほど、劇的に食生活が変わった民族はいないと思います。日本古来の食事が実は、大腸がんの予防に役立っていたのです。日本人の遺伝子は、和食を食べることで健康が保たれるようになっています。あと数千年、数万年たてば日本人の遺伝子も変わるかもしれませんが、今を生きる私たちには和食が身体に合っているのです」
「日本人の食事摂取基準」(厚労省)では、食物繊維1日あたりの摂取目標量は、18歳〜64歳の男性21g以上、女性18g以上。だが実際の摂取量は、男性平均14・6g、女性平均14・3gと足りていない。
「欧米では成人の1日の目安量が24g以上です。日本で欧米並みの基準に届かないのは、食生活の実態から、高い目標をかかげても実現できないため、現実的な目標量にしているということもあります」
食物繊維のなかでも不足しているのが穀物。ダイエットの“敵”糖質のイメージもあるが、腸活のキーとなる存在として注目されている。
「精白されていない米や麦など穀物に含まれる食物繊維が、善玉菌を増やす働きをすることがわかっています」
食物繊維の新常識が、腸内環境をパワーアップし、効果的な腸活につながっていく。
(取材・文/山崎ますみ)
青江誠一郎先生 ◎大妻女子大学家政学部食物学科教授。日本食物繊維学会理事長。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞。
内藤裕二先生 ◎京都府立医科大学消化器内科学教室准教授。同附属病院内視鏡・超音波診療部部長。消化器病学の専門家として最先端の研究を行う傍ら、臨床の場で30年以上にわたり5万人以上を診察した経験がある。長寿腸内菌として知られるようになった「酪酸菌」研究の第一人者。