腸内細菌は、人間の健康にいい働きをする善玉菌、悪い働きする悪玉菌、そして状況によって善玉か悪玉の味方をする日和見(ひよりみ)菌がいる。この菌たちが日々、私たちの腸の中で縄張り争いをし、その様子は“腸内フローラ(花畑)”と呼ばれている。
ヨーグルト内の菌は腸内に定着しない
腸活とは、身体によい腸内フローラにすること。つまり、悪玉菌を増やさないこと。そのためには、やっぱりヨーグルトで善玉菌をお腹に入れればいいのでは?
大妻女子大学の青江誠一郎先生主導の研究グループ「発酵性食物繊維コンソーシアム」が行った「腸活に関する調査」によると、一般の方が実践している腸活方法の1位はヨーグルトで、4割以上を占める。
「ヨーグルトに含まれる善玉菌が、生きて腸に届けば、健康にいい働きをしてくれるのは間違いありません」
と青江先生。しかし、ヨーグルト由来の菌は、腸に長い期間はとどまることができず、通過してしまうという。
「ヨーグルトをいくら食べても、そこに含まれる菌は、自分の腸内には定着してくれません。だからといって、ヨーグルトを食べなくなってしまったら、腸内にはいなくなってしまうのです」(青江先生、以下同)
同調査では、実践している腸活の効果が薄いと6割が感じているという結果が出ている。この2つの調査から、ヨーグルトだけでは腸活の効果は薄いと読み取れる。
食物繊維は、善玉菌を増やすためのエサ
腸内細菌は未知の部分が多く近年、活発に研究が行われている分野だ。腸内にはさまざまな腸内細菌が生息し、そのバランスは人それぞれ違っている。
「腸内細菌は、生まれたときにお母さんの産道からもらいます。腸に定着する常在菌は、そのときに決まってしまうため、もともと善玉菌、悪玉菌それぞれの種類が多い人、少ない人がいます」
ヨーグルトで一時的に善玉菌が増えても、食べ続けなければ意味がない。腸活の決め手は、自分の腸に常在する善玉菌を増やすことなのだ。
善玉菌の種類がもともと少ない人でも、食物繊維をきちんととっていれば、善玉菌は増えてくれるという。
「善玉菌を増やすには、善玉菌のエサとなる食物繊維を、しっかりととることです。エサがあれば、常在する善玉菌は増えていきます」
食物繊維が少ない食生活を行っていると、あとあと大変なことになる。
「米国スタンフォード大学の研究によると、食物繊維が少ない食事をしている女性は、自分だけでなく、その子どもも腸内環境が悪くなり、孫の代になると腸活をしても取り返しがつかないほど悪玉菌だらけの腸になると報告しています。自分の先の代まで悪い腸内細菌が受け継がれてしまうので早いうちに、腸活を始めたほうがいいと思います」
同調査では、食物繊維が腸活に重要だと理解はしているものの、その働きについての理解は限定的という結果も。
「食物繊維というと、便の量を増して便秘に効果があると思っている方が多いようです。もちろん、そのような効果もありますが、最も大切なのは腸内発酵です。
これまで食物繊維というと水溶性、不溶性と言われていましたが、最近は発酵力が高いか、低いかが重視されています」
腸内発酵のメカニズムは、次のページで詳しく説明するが、簡単にいうと腸内細菌がエサを食べること。身体に有益なエサとなるのが、発酵性食物繊維で、腸活改善にもなることなのだ。
「2000年ごろから発酵性食物繊維の研究が盛んになり、具体的にどのような食物に入っているかが、わかってきました。食物繊維というと、こんにゃくや野菜に多く入っているというイメージがありますが、それらは発酵力がないか、低発酵のものがほとんど。腸活のための食物繊維を選ぶ基準は、高発酵かどうかです」
主な発酵性食物繊維食品は写真ページの一覧表に示したが、キウイフルーツには発酵性食物繊維が多いことが、海外の研究で明らかにされ話題となった。最近では、穀類などに含まれる食物繊維アラビノキシランに高い発酵力があると注目されている。
「なぜ発酵性食物繊維がいいかというと、発酵による産生物が健康に役立つことがわかってきたからです」
次ページで、腸内発酵と産生物についてのメカニズムと働きを説明しよう。
腸内発酵とは身体にいい物質
発酵性食物繊維がなぜ、すぐれた腸活になるのか、それを説明する前に、まずは発酵について知っておこう。
発酵とは細菌のような微生物が、有機物をエサにして分解し、生きるためのエネルギーを得ること。そして、その発酵作用によって、代謝物質がつくられるのだ。
「発酵というと“腐る”というイメージを待つ人がいますが、発酵と腐敗は全く違います。両方とも細菌が有機物を分解することですが、発酵は人間の身体にいい物質をつくること、腐敗は身体に害のある物質をつくりだすことです」(青江先生、以下同)
人間の腸の中で発酵が起こることが腸内発酵。
「善玉菌は食物繊維をエサにして発酵し、身体にいい物質、乳酸や酪酸、酢酸、プロピオン酸などをつくります」
ヨーグルトで知られる乳酸菌は、発酵によって乳酸を出すので、乳酸菌というのだ。
「一方、悪玉菌は腐敗を起こして、身体に害のある物質、硫化水素やアンモニア、クレゾールなど発がん性がある身体へ悪影響を及ぼす物質をつくります」
では、悪玉菌のエサは何か。
「動物性食品です。食物繊維が少なく、動物性食品が多い人は大腸がんのリスクが高いことがわかっています」
近年、発酵でつくられる代謝産物の働きが注目されている。
特に話題となっているのが“酪酸(らくさん)”。酪酸を産生する善玉菌を酪酸菌といい、最近の腸活は、酪酸菌を増やすことが大切だといわれている。
前出の内藤先生によると、
「酪酸は大腸の粘膜の上皮細胞のエネルギーとなり、腸を活発に動かしてくれます。実は、大腸の上皮細胞のエネルギーのほとんどは酪酸だといわれています。さらに、上皮細胞が活発に動くことで酸素を消費し、酸素が嫌いな酪酸菌が増え、悪玉菌の繁殖を防ぎます」
そして、
「酪酸菌は腸内を弱酸性にして、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌がすみやすい環境をつくります。善玉菌どうしが助け合っているのです」
また、青江先生は、
「酪酸菌を含む短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)が腸内に多い母親から生まれた子どもは、メタボにならない、という研究結果があります」
《酪酸の働き》
●善玉菌がすみやすい環境をつくる
●水分吸収の促進
●腸の動きをよくする
●がん化細胞の増殖抑制
●便秘の改善
●アレルギーの抑制
●潰瘍性大腸炎の抑制
●肥満の予防
最新研究でわかった酪酸菌で健康長寿
京都府立医科大学と弘前大学が共同で行った研究によると、発酵性食物繊維を多く摂取する伝統的な食事をしている地域の人には酪酸菌が多いことを報告している。この研究をリードした、京都府立医科大学の内藤裕二先生は、
「京都市と京丹後市に住む、65歳以上のそれぞれ51人の腸内細菌を調べました。すると、京丹後市のほうが酪酸菌の分類であるファーミキューテス門が10%も多いことがわかりました。さらに、京丹後市の腸内細菌のトップ4は、すべて酪酸菌でした」
京丹後市は、玄米や海藻類、ジャガイモやサツマイモなど昔ながらの食事をしている人が多いという。食物繊維が豊富で酪酸菌を増やしやすい環境がお腹の中に整っているのだ。さらに、
「京丹後市は長寿の地域で、人口10万当たりの100歳以上の人数が全国平均の約2・8倍です。大腸がんの罹患(りかん)率も京都市に比べて低いことがわかっています」
腸活&健康長寿には、酪酸が産生されやすい食物繊維をとることがカギに。
「大腸の奥まで届き、ゆっくり発酵する食物繊維をとることが、酪酸を増やすことにつながります。酪酸菌は酸素が嫌いなので、主に大腸の奥のほうで活動しています。
小麦ブラン(小麦ふすま)に含まれるアラビノキシランは、網のようなものに入っていて、大腸の奥のほうで網が壊れて、酪酸菌のエサになります。発酵が行われる場所も考えて食物繊維をとることが最も有効な腸活だと思います」(青江先生、以下同)
発酵しない食物繊維もある?
「野菜に含まれるセルロースという食物繊維は、植物の細胞壁に包まれているため、ほとんど発酵しません。
レタスなどの生野菜をたくさん食べるより、穀類でとったほうが腸活には適しています。朝食に発酵性食物繊維が入ったシリアルなどをとると、腸に刺激を与えて体内時計がリセットされるという利点もあります。発酵性食物繊維を積極的にとる生活を2週間続けると、腸内フローラが変わってきます」
今日から発酵性食物繊維を摂取して、腸活を実感できるものに変えていこう!
(取材・文/山崎ますみ)
青江誠一郎先生 ◎大妻女子大学家政学部食物学科教授。日本食物繊維学会理事長。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究で同学会賞を受賞。
内藤裕二先生 ◎京都府立医科大学消化器内科学教室准教授。同附属病院内視鏡・超音波診療部部長。消化器病学の専門家として最先端の研究を行う傍ら、臨床の場で30年以上にわたり5万人以上を診察した経験がある。長寿腸内菌として知られるようになった「酪酸菌」研究の第一人者。