西野亮廣 撮影/伊藤和幸

 芸人、絵本作家、そして実業家──。奇想天外な発想で注目を集め、あらゆるジャンルでその存在感を発揮する西野亮廣(39)。'80年代に“伝説のクソゲー”と呼ばれたゲームの舞台化『たけしの挑戦状 ビヨンド』で主演を務める予定だったが、新型コロナウイルスの影響で全公演が中止に。しかし、今回の“挑戦”には、ひとりのエンターテイナーとして特別な思いがあった──。

“この企画、怖いな”って思いました(笑)

 “常識があぶない。

 そう書かれたパッケージで発売された、ビートたけし監修のゲーム『たけしの挑戦状』。無理難題の謎解きが続き、攻略本なしではクリアできないため、発売当時はクレームが殺到。“伝説のクソゲー”と呼ばれ、社会現象を巻き起こした。

 そして34年がたった今年、なんとゲームが舞台化されることになった。しかし、猛威をふるう新型コロナウイルスの影響で公演はすべて中止になってしまう。

 主演は、お笑い芸人でありながら、絵本作家でもあり、会員数4万人を超える国内最大のオンラインサロンのオーナーなど、さまざまな活動で注目を集める西野亮廣が務める予定で“舞台初主演”という、本人にとって新しい挑戦だった──。

最初お話を聞いたときは“この企画、怖いな”って思いました(笑)。 “伝説のクソゲー”と呼ばれているゲームの舞台化って、なんか危ない匂いしかしなくて、怖いじゃないですか。けど、“危ない匂いしかしない”と思ってやらないという判断をしたとして、僕がいない状態でその舞台がめちゃくちゃ面白いものになったとしたら、心から後悔するだろうなと思ったんです。それなら、ちゃんと“やります”って手を挙げて、一生懸命やるほうがいいなと思って

 ゲームの舞台化というだけでも想像ができないけれど、どんな内容になる予定だったのか?

芸人もだいぶ前にやめましたし(笑)

「最初の顔合わせのときに“こんな感じです”って脚本・演出の上田誠さんから、イラスト入りの設計図のような紙を見せられたんですけど、全然読み取れなくて(笑)。とりあえず稽古初日の段階では、何をするのかまったく把握できませんでした(笑)。

 でも今回は、基本的に上田さんにお任せする形をとって、とにかく僕自身は“言われたことを一生懸命やる”ということを決めていました。もう本当にびっくりするくらいイエスマンになるっていう(笑)。上田さんもそうですけど共演者のみなさんが本当に面白い方たちばっかりなんで、“これはどう転んでも面白くなるんだろうな”って感じていましたね」

西野亮廣撮影/伊藤和幸

『たけしの挑戦状』は、所帯持ちのサラリーマンである主人公が妻子と別れ、職を辞めて財宝を探しにいく冒険ストーリー。劇中で西野演じる主人公のアズマは、突如現れたそのゲームに、ゲームの主人公さながら没頭することとなる。もし、自分だったらその“決断”をするのか聞いてみると、

「僕はファミコンのゲームのために、職を捨てることはないかな。でも僕は結構職を捨てがちなんですよ(笑)。だいたいできるようになったお仕事は、どれかしら1年に1回はやめるようにしています。芸人もだいぶ前にやめましたし(笑)。

 何かにハマったとして、それがルーティン化してしまったらやめるようにはしています。それで言うと“やめる”ことは得意かもしれません

 “できるようになったらやめる”というのがモットー。アズマと西野には、いくつか重なる部分も。

「僕は25歳くらいのときに“テレビのひな壇に出るのをやめる”と言って、収入の99パーセントくらいを失って、次に“絵本作家になる”とか言い出したんですけど、絵なんて描いたこともない、やったこともない、どうしよう、っていう。まさに“無理ゲー”に突入しているわけですよね(笑)。でも“どうしよう”とか“死ぬじゃん、このままだと”っていう状況に飛び込むのはむちゃくちゃ好きかもしれません

 つい最近も“無理ゲー”に突入した出来事があった。

死んだなと思うような“挑戦”

「仕事は基本むちゃくちゃです。いま美術館を作っている最中なんですけど、誰がどう言ったか覚えていないんですが“美術館って3億円くらいあればつくれるんじゃない?”って思ってたんです。でもスタートして、ちゃんと見積を取ってみたら15億円が必要で(笑)。

 それでも計画は止まらず、何とかするしかないって最中なんですけど、こういう“死んだな”っていうことは多々ありますよ」

 絶体絶命な状況にもかかわらず、終始ワクワクした表情で語る西野。そんな彼が、いま最も“挑戦”したいことが、この舞台だった。

「ここ数年、誰のお伺いも立てず、僕が本当にやりたいことだけをずっとやってきたんですけど“それだけしかやらないっていうのもな……”って思い始めたんです。自分が創造したものしか世に出ないというのも、アプローチの幅が狭まる気がして。

 “西野亮廣”の能力って、本当に僕自身がいちばん使いこなせているかどうかってわからないじゃないですか。誰かの手によって、僕が知らない何かすごい部分がニョキッと伸びるかもしれない。もう1度、誰かが作ったものに本気で乗っかりたいな、と思っていたときに、ちょうど今回の舞台のお話をいただいたので、一生懸命やろうって決めてたんです! いま暗いニュースが続いているので、明るい話題を提供できればと」

 残念ながら公演は叶わなかったものの、舞台は“中止”で終わらない──。公式ホームページにて、脚本・演出の上田誠氏による舞台プロットや、キャストによるゲームプレー動画、稽古中の裏話ラジオトークなどの蔵出しコンテンツを随時更新。4月19日にはスペシャル配信番組『まことの挑戦状』を、西野の家から配信する予定だ。

 あなたも こんな 舞台の 企画にまじになっちゃってみない?

『たけしの挑戦状』をプレーしてみて……

「時間があるときに、自宅にファミコン本体を持ち込んで実際にプレーしてみて、結構進めました。途中、シューティングゲームをするところがあるんですけど、そこが非常に難しくて、稽古の休憩時間にそのステージをみんなでやってるんです。

 僕は事前に家でプレーして予習して、“ここはこうやったほうが……”という攻略法を編み出したんですけど、今日の稽古の最初にみなさんにそれを披露したら、非常に反応がよくて。みなさんが“すごい!”ってめちゃくちゃ言ってくださるんで思わずうれしくなっちゃって、“やっぱ褒められるっていいな”って思いました(笑)。本当ゲームができただけで、すごい褒めてくださるんですよ!」

ファミコンをプレイする西野亮廣 撮影/伊藤和幸
西野亮廣(にしの・あきひろ)1980年7月3日生まれ。兵庫県出身。お笑いコンビ・キングコングのツッコミ担当。日本国内最大のオンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』オーナーであり、会員数は4万3000人を突破。現在クラウドファンディングプロジェクト「映画『えんとつ町のプペル』を全国の子供達にプレゼントしたい」を立ち上げ、映画を贈りたい人と映画のプレゼントを受け取ってくれる『子供コミュニティー』のマッチングを行っている。
https://silkhat.yoshimoto.co.jp/projects/1189(4月26日23:59プロジェクト終了予定)