新型コロナウイルスの拡大にともなう自粛要請が続き、業界によっては営業停止や雇用の縮小が広がるなかで働き口はおろか、経済難に陥り家賃が払えず、住居まで失いかけて途方に暮れる人たちがいる。さまざまな事情から家を借りず、ネットカフェを中心に生活していた人たちも、行き場をなくして窮地に立たされている。コロナ不況が今後も続けば、このような人がさらに増えることが予測される。お金に困ったとき、仕事がなくなったときに受けられる支援には、どのようなものがあるだろうか──。(取材・文/たかまつなな)
生活保護は恥ずかしくない。当然の権利だ
お笑いジャーナリストとして「お笑いを通して、社会問題を身近にとらえてもらうこと」を目標に活動をしている私にピンチが訪れる。新型コロナウイルスの影響で、講演や各種イベントが軒並み中止になり、取締役を務める会社の収益が5分の1になった。赤字額は数百万円にのぼる。2か月くらいなら持ち堪えられるかもしれないが、ワクチンが開発され事態が収束するまで、仮に1年かかるとしたら、もう倒産するか、お金を借りられたとしても、返せるかわからない数千万円もの借金を抱えることになりそうだ。
スタッフへの給料が払えなくなるのは時間の問題だ。しかし、周囲の芸人仲間の状況はもっと厳しい。お笑いライブは全て休止、バイトのシフトにも入れない。収入が0円になった人も多くいる。この1か月、私は毎日憂うつだった。先が見えないうえに「景気が悪くなったとき、エンタメ業界はどのくらい世間から必要とされるのか」「今まで通り、お客さんがお金を出してくれるのだろうか」と、倒産や自己破産が頭をよぎる。不安は募るばかりだ。
追い込まれて自ら命を絶ってしまう人の気持ちがすごくわかる気がした。周りの芸人仲間で自殺者が出たり、餓死する人が出るのはなんとしても防ぎたい。そのために何ができるのか、取材を通してわかったことを、伝えたいと思う。
まず、私が声高に言いたいのは「仕事を失った方、なんとか生き続けましょう」ということだ。私たちには、生きる権利が保障されている。憲法25条にある生存権で《すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する》と、しっかり定められているのだ。今まで税金を納めてきた分、生きるために遠慮なく甘えて欲しい。しばらく生きていくために生活保護を受けるのは、当然の権利なのだから。
これから間違いなく、失業者数は増える。そして失業率があがると、自殺者数も増加する。新型コロナで人が亡くなるだけでなく、経済が衰え、自らこの世を去る人が続出する。こんな未来を食い止めなければならない。実際に新型コロナで仕事が減るとか、失業してお金に窮した場合、どんな支援が受けられるのか、どうすべきなのか。路上生活者の支援活動を25年以上続けている『一般社団法人つくろい東京ファンド』の代表理事、及び認定NPO法人『ビッグイシュー基金』共同代表の稲葉剛さんにお話を伺うと、その答えが見えてきた。
コロナで失業、家賃が払えない……どうすればいい?
新型コロナ不況の煽りを受け、フリーランスで働く人の仕事が減ったり、雇い止め、派遣切りなども増えている。休園中のディズニーランドでは、1か月の手取りが5万円にも満たない非正規雇用のキャストもいることが報じられたばかりだ。大小問わず、全国でこのような事態が発生していることは容易に想像がつく。
家賃が払えなくなったら、どうすべきか。稲葉さんいわく「もう無理だと思い、夜逃げするのは絶対にダメ」だそう。払えなくなった時点で部屋を追い出される、と思っている人が多いが、実際は借地借家法に基づく『居住権』(賃借権がなくなった後も事実上、継続して居住できる権利)があるので、1〜2か月程度ならば住み続けることができるという。
『住まいの貧困に取り組むネットワーク』の世話人でもある稲葉さんは、3月28日に『すべての家主、不動産業者、家賃保証会社への緊急アピール』を発表。コロナ危機の影響で家賃滞納が急増しかねない状況をふまえ、全国の大家に「立ち退き要求は行わず、共に政府に公的支援を求めること」を訴えた。
そもそも、家主や不動産業者、家賃保証会社等が法的手続きを踏まずに家賃滞納者を立ち退かせることは違法だが、ひどい場合だと、家主側が荷物を勝手に処分したり、鍵を付け替えて開けられなくする、ということもあるという。これらの行為には民事上のみならず、刑事上の責任も生じるとのこと。
ただ、家主にも生活がある。家賃収入がなければ、生活に困る人もいるだろう。だから稲葉さんは「無理やり追い出しても、家が空き家になるだけで得をしない。入居者が家賃を払えるようになるため、公的な支援の充実を求めましょう」と呼びかけている。「もし家主や不動産業者が家賃の滞納について問い合わせてきたら、この『緊急アピール』をプリントアウトして、渡してみてください」と稲葉さんは語る(緊急アピールの全文は写真ページ参照)。
借主側に対しては「無理やり追い出されそうになった場合は、細かく記録を残すように。録音したり、張り紙を写真に残したりしましょう」とのことだ。
ただ、3か月を過ぎると、家賃を払わずに住み続けるのは難しい。裁判で合法的に追い出されてしまうので、早めに支援を求めることが必要だという。現在、主な対策として考えられるのは、以下の2つだ。
(1)緊急小口資金の申請
各市町村の社会福祉協議会は、収入が減った世帯に原則10万円を貸与する『緊急小口資金(特例貸付)』の申請を受け付けている。貸付は無利子で保証人も必要なく、返済までの据置期間は最長1年。要介護者や感染者がいる場合、子どもの世話で仕事を休んだ世帯などは、特例で上限が20万円になる。現在、タクシー運転手、飲食店経営者、イベント関係者などが多く相談に来ているという。
(2)住宅確保給付金の利用
離職や失業などによって家賃の支払いが困難になった人は、生活困窮者自立支援法に基づく『住居確保給付金』の活用も考えてみよう。申請し一定の要件を満たせば、再就職までの原則3か月間(最長9か月)、自治体が賃貸住宅の家賃を補助してくれる制度だ。従来、65歳未満までしか支給対象ではなかったが、4月1日支給分から年齢制限などが撤廃された。相談先は、各自治体の生活困窮者自立支援制度の窓口になる。
気になる人はぜひ、各都道府県の社協や厚生労働省のホームページを覗いたり、各自治体の窓口へ相談したりしてみて欲しい。
しかし、この制度には問題がある。申請者は「求職活動をして、正社員を目指す」ことが前提となっているのだ。新型コロナの影響で求職活動自体、困難になっているため、実際の運用は柔軟になっているようだが、この点を強調されるとお笑い芸人や音楽家、役者などは、その職業を辞めて正社員を目指さないといけない、ということになってしまう。
いずれにしても、まずは「住所を死守することが大事だ」と、稲葉さんは訴える。住宅がなくなると、ネットカフェや路上で生活せざるを得ない人が多くなる。しかし、住んでいたアパートから撤去したことが自治体に分かると、住民票を消されてしまうのだという。
「履歴書に記載する住所欄を埋められなくなると、就職活動をする際にかなり不利になるため、やはり失うことは避けるべきです」(稲葉さん)
よって、前述の2つの対策法を使うことができない場合には遠慮することなく、生活保護を検討しよう。
弱者につけ込む“貧困ビジネス”の実態
“貧困ビジネス”。現在26歳の私が、小学生のころからドキュメンタリー番組などで目にしてきた言葉だ。昔からある問題にもかかわらず、今でも根深く残っている。「できる限り住所は死守を」と稲葉さんは言うものの、現在、都内には4千人を超える“ネットカフェ難民”がいるという。家を持たず、ネットカフェに寝泊まりして生活していたものの、緊急事態宣言に基づき休業要請が出たことから、ネットカフェが相次いで店じまいしてしまったため、行き場を失い、ひどく苦労している。
実際、稲葉さんのもとには3月末から「ネットカフェから追い出されてしまった。行くところがない」といった相談が60件以上きている。稲葉さんらはこの現状をふまえ、いち早く行政に働きかけた。
4月3日に東京都に対して要望書を提出したところ、都は4月6日の記者会見で「住まいを失った人への一時住宅として提供するためにホテルなどを借り上げ、12億円の予算を計上した」という旨を発表。現在、2000室の受け入れ体制を整えている。しかし、他県から人が押し寄せることを懸念してか「6か月以上、東京都で生活していたと証明する」ことを強く求めているという。
6か月前のネットカフェの領収書や、献血・治療の証明書などがある方は、新宿にある『TOKYOチャレンジネット・東京都』に足を運んでみるといい。ビジネスホテルを案内してもらえるそうだ。6か月未満の人は、各役所の福祉課に相談に行こう。
だが、なかには民間の無料低額宿泊所に案内されるケースもあるという。生活保護は東京都の場合、1人あたり月に約12〜13万円ほど受けられる。しかし、ひどい場合、施設側が宿泊費・食事代として10万円以上も搾取し、本人には1万円ほどしか渡さない事例もある。食事も貧しく、カップラーメンが1つということや、相部屋を強いられることも。
「狭い部屋に押し込まれ、感染リスクが高くて不安だ」と稲葉さんに相談する人もいるという。“3密”の空間で感染の恐れがあるから、とネットカフェが自粛しているのに、余計に感染の危険性が高まってしまっては本末転倒だ。本人の意思で「安全面が不安だからビジネスホテルにしてください」と申し入れることもできるので、利用する人は注意深く説明を聞いて欲しい。
稲葉さんらがこの実態に対し、4月16日、厚生労働省などに改善を求めたところ、翌17日には厚生労働省が各自治体に向けて次のような事務連絡を出した。《新たに居住が不安定な方の居所の提供、紹介等が必要となった場合には、やむを得ない場合を除き、個室の利用を促すこと、また、当該者の健康状態等に応じて衛生管理体制が整った居所を案内する等の配慮をお願いしたい》。これで今後は改善される見込みだとのこと。
このように悪徳な貧困ビジネスが横行していることは、役所も把握しているものの、公的な宿泊所を作るとなると住民に対して説明会を開かねばならない。そこで反対運動が起きるなどして、どうしても難しく「ひどい現状であることは理解しつつも、ほかに方法がない」と思っているケースも多いそうだ。20年前から問題視され、今年度に大きく見直されたのにもかかわらず、稲葉さんらが訴えてきた“完全個室化”は叶わなかった。
“明日は我が身”と実感する人が増えているなかで
「ここ何年も基本的な生存権を訴えてきたものの、無視され続けたのに“新型コロナの感染リスクが高い状況下で、貧困層を中心に蔓延(まんえん)すると、社会基盤を維持できないから”という理由で、行政の制度がどんどん変わってきている。嬉しい反面、なんだか虚しさも感じる」
と言う稲葉さん。私もさまざまな分野を取材してきたなかで、今回の霞ヶ関や永田町のスピード感には驚いている。セキュリティの問題や、wi-fi環境が整っていないという理由であれだけ困難だとされてきた学校のIT化が急速に進んだり、医師会が反対し、遅々として進まなかったオンライン診療が発展したり。新型コロナをきっかけに、社会が急速に変化を遂げている。
自己責任論が強く、生活保護へのバッシングが絶えない日本社会において「明日、自分が失業するかも」「いつお金がなくなるかわからない」と実感する人が増えた昨今。それでも生きていける社会が素敵だと思えたり、生活保護に対しての当事者意識をこれほど持てたりする時代は、なかなかなかっただろう。全国の学校へ出張授業に行き、「政治に関心を持とう」と啓蒙している私は、税金の使われ方や、ルール作り、社会のセーフティネットのあり方などについて、今こそみんなで議論したい。
(取材・文/たかまつなな)
※この記事は、私たかまつなな個人の発信です。所属する組織・勤務先とは一切関係ありません。問い合わせは、下記アドレスまでお願いします(infotaka7@gmail.com)。
【PROFILE】
稲葉剛さん ◎一般社団法人『つくろい東京ファンド』代表理事。『住まいの貧困に取り組むネットワーク』世話人。『生活保護問題対策全国会議』幹事。 '69年広島県生まれ。'94年より路上生活者の支援活動に関わり、'01年『自立生活サポートセンター・もやい』を設立。幅広い生活困窮者への相談・支援活動を展開し'14年まで理事長を務める。同年につくろい東京ファンドを設立し、空き家を活用した低所得者への住宅支援事業に取り組む。著書に『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために』(エディマン/新宿書房)、『生活保護から考える』(岩波新書)、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)等。
【INFORMATION】
本件については、Youtube『たかまつななチャンネル』内の動画『コロナ禍でも生き延びる方法』でも話しています。
リンクURL→https://youtu.be/OXXOHJYQh80
・消費者ホットライン(全国共通188) https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/
・全国借地借家人組合連合会 http://www.zensyakuren.jp/kakuchi/kakuchi.html
・住まいの貧困に取り組むネットワーク メール:sumainohinkon@gmail.com
・全国追い出し屋対策会議 http://sikikinmondai.life.coocan.jp/oidasiya/zenkokugaigi.htm
《緊急小口資金に関して》
・都道府県・指定都市社会福祉協議会のホームページ(リンク集) https://www.shakyo.or.jp/network/kenshakyo/index.html
《生活困窮者自立支援制度に関して》
・厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html
・新型コロナウイルスに関連した生活困窮者自立支援法に基づく住居確保給付金の活用について https://www.mhlw.go.jp/content/000605807.pdf