不倫報道が相次ぐ芸能界。有名人が激しくバッシングされる姿を、誰もが反面教師にするのかと思いきや、
「配偶者の不貞による離婚相談はまったく減りません。妻による不貞もありますが、圧倒的多いのは夫の不貞です」
とは、弁護士・中里妃沙子先生だ。離婚にかかる労力は“結婚の10倍”ともいわれているが、
「財産分与、養育費、親権……決めることは多数。また夫の不貞は、妻の不貞以上に離婚時の代償は大きいと思いますね」
夫の不貞を知り、怒りのままに、証拠や離婚届けを突き付ける女性も多いというが、
「感情のままに行動してしまうと、不利な条件で離婚してしまったり、“やっぱり別れければよかった”と後悔したり。離婚制度をきちんと勉強したうえで、自分がどうしたいのかをしっかり決めてから行動に移しましょう」
夫が怪しい証拠をつかめ
夫の浮気を疑うなら、まずは証拠集め。夫の秘密の宝庫は、やはりケータイだ。
「夫のスマホのロックを解除できない妻は、ほぼ皆無(笑)。みなさん、暗証番号の予想がつくようで、ロック解除がお上手です」
最近は、夫のスマホにLINEなどの“通知”が表示され、発覚するパターンが多いという。
「メール、写真、LINE、通話履歴など、あらゆるものを写メしましょう」
夫の不貞を理由に離婚する場合、“肉体関係がある”という決定的な証拠が必要。それを確実に押さえるまでは、浮気を疑っていることを悟られないように。
「警戒されたら、それ以上の証拠が取れなくなります。夫を泳がせて、確実な証拠を入手します」
ラブホに出入りする写真は強力な証拠になるが、自分で撮影するには難易度が高い。
「探偵を雇う人も少なくありません。ホテルや相手の家に入るときだけではなく、“出るとき”も撮影を。その滞在時間が関係性を決定づけるからです」
探偵の費用は7時間で10万円くらいだという。
「長時間になるほど費用はかかるので、証拠不十分なまま調査を切り上げてしまう人もいますが、自分の未来のために節約はせず、頑張って」
1.身なりを気にするように
古びた下着を平気ではいていたのに、新調する。髪型や服装の趣味が変わる。無精ひげや鼻毛などのグルーミングも念入りにするように
2.出張、休日に出勤が増える
週末の出張、休日出勤、残業、接待ゴルフ、会食などが増える。“仕事”を理由に帰宅が遅くなったり、家を空けることが多くなる
3.携帯を肌身離さず
トイレに行くときはもちろん、入浴時にスマホを風呂場まで持っていくように。入念な男性は枕の下に置いて寝ることも。逆にバレバレ
4.スマホにロック
スワイプだけで使えていたスマホにパスワードを設定したり、指紋認証にしたり。LINEにパスワードを設定することも
5.妻を拒否
背を向けて寝たり、寝室を別にするなど。テレビを見ている横に座る、肩に手をかけるなどのさりげないボディタッチも避けるように
1.ラブホに2人で出入りする写真
不貞は、肉体関係があることがポイント。ゆえに、ラブホは決定的。入るときだけの写真だけだと「思い直して帰った」と言い訳されるので、出るところも押さえたい。ビジネスホテル、高級ホテル、ひとり暮らしの彼女の家などに出入りする写真は、「仕事の相談をしていた」などと逃げられるので、証拠としては弱くなる
2.性行為を決定づけるメール
たとえ1日に何十回とLINEのやりとりがあっても、ただの会話だけではNG。「昨日のエッチは最高だった」「またエッチしたいね」など、誰が見ても行為に及んでいるという会話でないと証拠にはならない。中には裸や性交中の写メなどを送り合っていることも
3.行動記録
毎日の帰宅時間、出張の日程などをチェック。行動記録から怪しい曜日や時間帯がわかれば、あえてそのタイミングに実家に帰るなど、妻から罠を仕掛けられる。また日時を絞り込めれば探偵もつけやすい
4.領収書やレシート
レストランの2人分の領収書、バッグや指輪などプレゼントらしきもののレシートは決定的な証拠ではないが、それでも必ずコピーや撮影をしておくこと。ラブホのポイントカードも頻繁に利用があれば有力な証拠に
弁護士の元へGo
夫の不貞を証明する証拠が集まったら、まずは弁護士のところへ。プロと一緒に今後の作戦を立てよう。
「離婚の意思が固まっている場合、有利に運べるようお力添えします。離婚しない場合でも、慰謝料請求など、不貞を働かれた気持ちの落ち着けどころを一緒に見つけることができると思います」
とはいえ、知り合いに弁護士はいないし……。弁護士はどうやって探せばいい?
「最近は弁護士事務所のホームページも充実しています。 初回30分は相談無料のところも多いので、何人かの弁護士と会ってみて、信頼できる人を見つけてください」
【離婚しない場合】
夫への気持ちは冷めていても、離婚後の生活費の不安はどうしてもよぎる。専業主婦や夫の扶養控除の枠内で働いている人は、なおさらだ。
「夫が(相手に)本気ではなく“浮気”の場合は、大抵、不貞の証拠を見せると、離婚を回避しようと謝ってきます」
謝罪を受け入れ、再構築を決めたなら、以後、ネチネチと夫を責めないこと。
「夫はもちろんですが、被害者である妻も相当の努力が必要です」
または離婚はせず、別居しながら婚姻費用(養育費+生活費)をもらい続けるという道もある。
「妻が持つ“夫の不貞の証拠”を最大限に活用できるでしょう。ただし、一度別居すると、結果的に離婚に至るケースが多いので、判断は慎重に」
問題なのは夫の浮気が、浮気ではなく“本気”の場合。昔は不貞をしている側(夫)からの離婚請求は100%認められなかったが、昭和60年ごろから判例が変わった。
「『有責配偶者からの離婚請求』といいます。別居を長期(7年程度)し、離婚後に妻が経済的に苦しい状況にならないなら、不貞をした夫からの離婚請求でも、裁判所は認めるというものです」
ただし、子どもが20歳を過ぎるまでは、その離婚請求を拒否できる(例外あり)。
Q:離婚は踏みとどまったけど、慰謝料は請求したい!
A:離婚をしなくても、請求できる。夫にけじめをつけさせるという意味合いを持たせられる。ただし、離婚を選択した場合より、金額は低くなる傾向が。「離婚を迷っている場合は、相手女性に慰謝料を請求し、夫の反応を見てもいいと思います。夫が本気なのか浮気なのか、やり直すか離婚へ進むかを考える材料になるでしょう」
勝手に離婚届を出されないよう「不受理申請書」を出そう
市区町村役場の戸籍係は、夫婦双方が離婚の意思を持っているかを判断する権限がない。たとえ、一方が勝手に出した離婚届であっても、記入に不備さえなければ受理されてしまう。離婚をしないと決めたなら、念のため『不受理申請書』を市区町村役場に提出しておくといい。申請料は無料で、取り下げを申し出るまで有効。
離婚前にやるべきことって?
【離婚する場合】
「スムーズな離婚には、準備が必要です」
離婚を決意したら、まずは生活資金を貯めたり、就職先や住まいを探し始めよう。とはいえ、すぐに夫に離婚を切り出す必要はない。
「共有財産はもちろん、夫名義の資産の確認もしっかりしておきましょう。離婚時の財産分与は、原則2分の1ずつ分けることが法律で定められています(結婚前の個人の財産、遺産などは除く)。金融機関、証券会社、生命保険会社などからの郵便物などもチェックしておくといいですね」
最近はネットバンキングの利用が増え、郵便物での確認はしづらい場合は、
「夫のケータイに入っている銀行や家計簿のアプリを見ればわかります」
浮気の証拠集めのついでに、中身を見ておくと◎
また自分が離婚を望んでいても、夫が不倫相手と結婚する気満々の場合は、夫から“離婚したい”と言い出して来るまで待つという秘策も。
「この場合、夫が望んでいるのは離婚届です。離婚届と引き換えに、金銭的条件を高く釣り上げることもできます」
もらえるものは、たっぷりもらったらうえで、新生活の扉を開けよう。
(1)自分が自由になるお金を作る
慰謝料がもらえるとしても、弁護士費用、探偵費用などのほか、引っ越し費用、敷金・礼金、当面の生活費など、先立つものがまず必要
(2)共有財産を洗い出す
源泉徴収票や給料明細、預金通帳で夫の収入や財産を把握。コピーもしくは写メを。持ち家がある場合、ローンの残高や売却した場合の価格も調べておく
(3)離婚後の住居のめどを立てる
財産分与で持ち家をもらえるのか、引っ越しが必要か? 実家に身を寄せられるのか? 賃貸住宅や公営住宅などの検討など
(4)就職先を探し始める
慰謝料や養育費だけで暮らしていくのは難しい。ハローワーク、母子家庭等就職・自立支援センターなどの利用を
(5)離婚後の生活費の試算
家賃や食費などの生活費や学費など。ひとり親家庭で免除されるものや、支給される児童扶養手当や住宅手当など、自治体に確認を
◎離婚には3種類ある
離婚には大きくわけて〝協議離婚〟〝調停離婚〟〝裁判離婚〟の3つがある。
協議離婚は、法律が認める離婚原因がなくても、夫婦双方が離婚に合意していればOK。離婚届を提出して受理されれば、離婚が成立する。
夫婦間の話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所で『夫婦関係調整調停(離婚)』を申し立てる。裁判官である家事審判官と2名の調停委員で構成される調停委員会が、当事者それぞれから事情を聴く(夫婦が同席しない)。
調停がまとまらない場合は、裁判。お互いに譲らず最高裁まで争うと3~5年かかることも。裁判で認められなければ、離婚はできない。
1.慰謝料
有名人の離婚時に“慰謝料何億円”などと報じられるが、
「ほとんどは財産分与を含めた金額。純粋な慰謝料ではありません。慰謝料は、相手の不法行為で被る損害賠償のうち、精神的損害に対する賠償金です」
慰謝料は婚姻期間に比例し、熟年離婚でも200万~300万円。結婚して数年の場合は50万円程度だそう。
夫が不倫をした場合、夫と相手の女性と両方に不貞慰謝料の請求が可能だが、
「ただし法律上は、(夫と浮気相手の)2人による不貞というひとつの案件に対しての損害賠償請求権。ゆえに、慰謝料200万円の場合なら、(1)夫のみに請求 (2)不貞相手のみに請求 (3)2人に対して要求(夫に100万円、不貞相手に100万円など)の3つの選択肢があり、不貞をされた妻は慰謝料を請求する相手を指定できます」
慰謝料は、まず当事者同士で話し合い、合意ができなければ地方裁判所や家庭裁判所を通じて請求する。
A:夫の不貞相手から慰謝料を取るには、不貞相手が“夫が結婚していると知ったうえで、肉体関係を持っていた”ことが必須条件。もし夫が“独身”と偽っていた場合は請求できない。また、不貞相手も結婚していた場合、不貞相手の夫が自分の夫に慰謝料を請求する場合も。
2.財産分与
「財産分与の対象は、夫婦2人が婚姻期間中に築いた財産。離婚する場合は、原則として半分ずつわけます」
夫名義のマンションや不動産であっても、財産分与の対象に。一方、独身時代の預貯金や自分の両親や親族からの相続や贈与は対象外。
プラスの財産だけでなく、ローンなどマイナスの財産も半分ずつ(ただし、ギャンブルなどの借金を除く)。
「調停や裁判で財産分与の話になった際、相手が正直に申告せず、隠していた場合は取り損ねてしまいます。ゆえに、離婚前には夫名義の財産を確認しておきましょう」
夫の財産が把握できない場合、裁判所を介して銀行口座を探す『調査嘱託』という方法も。ただし、すべての金融機関の支店が対象ではなく、ありそうなところをピックアップして調査するため万能ではないとか。
「妻のほうが、夫よりも年収が高い場合は注意。裁判になれば、財産分与も年金分割も半々に。夫の不貞が原因の離婚なのに、妻のほうが損をしてしまいます」
稼ぎのある女性は、“財産分与はお互いの名義のものはお互いで”と、あえて相手の財布に手を突っ込まないほうが得策かも。
3.親権・面会交流権
夫の不貞が原因で離婚をする場合、親権は妻になることが圧倒的。
「今までは、たとえ妻が不貞行為をしても、育児放棄していない限り、妻が親権を取れました。しかし、最近はイクメンが増え、父親側が親権を主張してくるケースが増えています。判例も、ここ3年ぐらいで変化してきています」
離婚した夫と子どもとの面会については、
「いつ、どこで、どのように、どれくらいの時間会うのか。付き添い、お泊り、子どもの引き渡しはどうするかなど、具体的に決めておくといいでしょう」
最初は月1回程度、ファミレスや公園などで、日中に数時間だけ会うケースが多い。
4.養育費
離婚後、妻が子どもを引き取ったとしても、夫には子どもの扶養義務があるため、養育費を払わなくてはならない。
「養育費の金額は、算定表によって決められます。ここでは、“子1人(0~14歳)の表”のみを掲載しますが、子の人数や年齢が異なる別バージョンも、裁判所のホームページに掲載されているので、見てみてください」
昨年12月、約20年ぶりに算定表が改定されている。
「ほとんどのケースで増額となっています。高校無償化により15歳以上の場合は、養育費が下がる可能性がなくもありませんが、ごく限られたケースだと思います」
養育費は、一括での受け取りを希望する人も多い。しかし、客観的事情の変更により増額・減額請求ができる権利なので、裁判所は原則として月払いを考えている。
「子どもが病気になったり、私立高校に進学するなどの場合、受け取る側の妻から増額の交渉もできます。逆に、支払う側の元夫が失業したり、病気やケガで入院したりした場合は、減額交渉を受けることも。いったん一括で受け取ったあとでも、さらに請求できることもあります」
双方が合意できなければ、調停に。
A:再婚したら、子どもには新しい父親と仲良くなってほしい。できれば元夫とはもう会わせたくない! その気持ちは理解できるが、残念ながら、子どもとの面会を拒否することは基本的にはできない。子ども自身が父親への拒絶感が強い場合でも、写真や手紙などの“間接交流”を調停では勧められる。もちろん、子どもに暴力をふるうなど悪影響がある場合は、交流の制限ができる。
Q:養育費の支払いが滞ったら?
A:まずは電話や郵便で催促、さらには内容証明郵便を送る。それでも支払われない場合は家庭裁判所に申し出て、支払いの勧告をしてもらう。履行命令に応じない場合、10万円の罰金が科せられるが、法的強制力はない。しかし、平成16年の民事執行法改正で、相手の預貯金や不動産などを差し押さえる“強制執行”ができるように。給料の差し押さえも2分の1まで可能となった。
Q:再婚しました。養育費はもうもらえない?
A:たとえ妻が再婚しても、養育費はもらい続けることができる。しかし、再婚相手と子が養子縁組をすると、支払われなくなることも。また養子縁組をしていなくとも、再婚相手に経済的余裕のある場合、元夫の稼ぎが少なく生活が苦しい場合や介護などで働けない状況であれば、減額を打診されることも。話し合いで合意すれば減額、合意ができなければ家庭裁判所で調停となる。
◎ひとまず別居して、婚姻費用を請求する手も
婚姻費用とは、夫婦が結婚生活を送るための必要費用。衣食住の費用、交際費、医療費、子どもの養育費や教育費、水道光熱費などを指す。
「夫は妻に対し、お互いが同レベルの生活を確保できるよう婚姻費用を支払う義務があります。たとえ別居中であっても、です」
婚姻費用も、養育費同様に算定表が裁判所のホームぺージで公開されている。
「婚姻費用は、夫が不貞をしていなくても、別居した時点で請求できます。養育費は離婚後に支払われるもの、婚姻費用は別居中に支払われるもの。両方は同時には受け取れません。また養育費よりも、婚姻費用のほうが高額です。離婚にこだわらず、婚姻費用をもらいながら別居を続けるという作戦もあるわけです。籍は抜かないので、夫は不貞相手と再婚ができないうえに、妻には婚姻費用を払い続けるわけです」
5.年金分割
「離婚の際の年金分割ですが、“将来、夫が受け取る年金の半分を妻が受け取れる”と思っている人が多いのですが、間違いです」
年金分割は、結婚期間中の厚生年金(公務員は共済年金)の夫婦の保険料納付記録を、当事者間で分割する制度。
「例えば、結婚後に妻が仕事を辞めて専業主婦に。結婚3年目で離婚した場合、3年間に夫が払っていた厚生年金の保険料の半額が妻に分割されるというわけです」
妻も厚生年金を払っている場合は、夫婦で合算したうえで、半分に分割する。
「夫より、厚生年金に加入する妻のほうが稼いでいる場合、年金分割請求をすると損することになるので要注意」
A:年金分割の制度は、厚生年金(または共済年金)の保険料納付記録を分割する制度。ゆえに、厚生年金に加入していない自営業の人は対象外。夫が自営業の場合、夫婦ともに国民年金のみ。自営業の妻が将来受け取れる年金は、月額6万5000円程度(令和2年度)。「厚生年金に加入し続けた夫と熟年離婚をした妻の場合は、だいたい月10万円程度受け取れるという試算も。「年金分割については、自営業の妻は圧倒的に不利ですね」
(取材・文/長谷川華)
【PROFILE】
弁護士・中里妃沙子先生 ◎弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所代表。年間600件以上の離婚相談に乗っている。気さくでやさしい超・敏腕弁護士。『女性弁護士がわかりやすく書いた! 離婚したいと思ったら読む本』(自由国民社)など著書多数