上段が'91年版『東京ラブストーリー』の主な登場人物、下段が'20年版

 最高視聴率32.3%を記録し、月曜の夜は街からOLが消えたといわれた1991年の大ヒットドラマ『東京ラブストーリー』。今年、29年ぶりにリメークされ話題になっている。当時のプロデューサー・大多亮さんが明かす、とっておきの秘話とは!?

『東京ラブストーリー』はバブルが弾けた時代に、従来のトレンディードラマとは違う方向性を考えているときに出会った作品だったという。

「純愛路線の『すてきな片想い』で手応えを感じていたころ、柴門ふみさん原作の『同・級・生』をプロデュースした先輩から“お前やってみる?”とマンガを手渡されたんです。ずっとオリジナルでやっていたので、原作ドラマは大変かなと思ったんですが読んでみて、自分が考える方向性に近い、ぜひやりたいと返事をしました

 原作者の柴門さんからは「好きにしていただいて結構です。ドラマとして面白いものを作ってください」とお墨つきをもらい、当時新人だった坂元裕二さんが脚本を担当した。

坂元さんは原作とは違う“赤名リカ目線”で書いてくれたんです。僕も新しいヒロイン像をやりたかった。そして、幸せの絶頂から不幸のどん底にリカが落ちていくという狙いもありました。だけど、さとみがあんなに嫌われたのは予想外でした。坂元さんだって“ここでおでんを持って行ったら嫌われるだろう”と思って書いたわけじゃないし(笑)。

 ただヒットする番組って、作り手が予期せぬことが起きるんですよ。こんなセリフが流行るんだとか、そういうことがたくさんあるんです。でも最後のほうは脚本が遅れてギリギリ……坂元さんとホテルに泊まり込み、書き上げたものからFAXでスタジオに送って、そのまま撮影。いま思うと、よく放送が止まらなかったなと(笑)」

 織田裕二、鈴木保奈美、江口洋介、有森也実─ビッグネームも当時は、まだ若手。周囲から「キャスティングが弱い」と心配されたという。

「しかも、田舎から出てきた人たちが東京で恋をするという地味な話だしね(笑)。でも小田和正さんの歌(『ラブ・ストーリーは突然に』)が入ったタイトルバックを見て“行けるんじゃないか!”という手応えはありました」

 最終回に向かって視聴率がぐんぐん上昇、四国・松山ロケでは多くの人が集まって熱気を感じたそう。

「当時は苦しかったけど、作っていて楽しすぎた。しかも結果がついてきた作品。恋愛ドラマを作りたいと思って入社して、自分のやりたいことがかなりできたという達成感や満足感があり、心にぽっかり穴があいちゃう感じがありました。でも、その後のドラマ(『101回目のプロポーズ』)で視聴率を超えられたことで、乗り越えました」

 今回のリメークには「マジか?」と驚いたという。

「でも1話を見せてもらって今こういうドラマってないな、どういう恋愛が起きるんだろうとワクワクしました。この作品は、東京が主人公みたいなものなんですが、その感じもよく出ていました。'91年版を見ていた人には、最初は違和感が大きいかもしれないですが、見ているうちにハマっていくと思いますよ


■プロフィール
大多亮 1958年東京都生まれ。'81年フジテレビ入社。報道、広報を経てドラマ制作へ。『101回目のプロポーズ』『愛という名のもとに』『ひとつ屋根の下』『妹よ』などをプロデュース。現在は同社常務取締役。

清水一幸プロデューサーが語る'20年版“東ラブ”の見どころ

 高校生のときに'91年版を見て「自分もドラマを作りたい!」と決意。在阪テレビ局に就職したが、ドラマ制作にこだわりフジテレビに中途入社。面接官だった大多亮さんに「いつか『東京ラブストーリー』を作りたい!」とアピールしたそう。

「3年ほど前に大多さんに“やってみたら?”と言われて動き始めました。でも実際に制作が決まって報告したら“マジか!”と(笑)」

 '20年版は、広告代理店に勤める完治が、地元の愛媛支部から東京営業部へ配属となって上京してくるところから物語が始まる。地元の同級生の三上に誘われた飲み屋に、学生時代から思いを寄せるさとみも合流。そこへ同僚のリカから連絡が入り、完治が会社に忘れた財布を届けてもらい、4人で一緒に飲むことに。リカの積極的な行動に戸惑う完治だが、彼女には上司の和賀と不倫の噂もあって……。

今回は原作に近い設定で、完治目線の台本にしました。'91年版と同じものを作ってもしかたないということと、今の時代のものを作りたいという思いからです」

 今の時代に欠かせない、スマートフォンやLINEによって描き方は変わる?

「仕事中や誰かと一緒なら、電話がかかってきても出ないこともあるし、内緒で会うためには“仕事だから”とウソをつくこともありますよね? それは今も変わらないし、気持ちのすれ違いはいくらでも描けるな、と」

 '91年版の脚本を担当した坂元裕二さんにリメークを伝えると、「へぇ~」と驚いた後に「俺が書くの?(笑)」と言われたという。大多さんや坂元さん、原作の柴門ふみさんも楽しみにしているという“令和版”の見どころは?

「時代は変わっても恋愛は不変。“昔のほうがよかった。私たちの見ていた名作を汚さないで”という方もいるかもしれませんが、“今の時代だからこうなった”と思って見ていただけたらうれしいですし、旧作も含めて、親子で見るきっかけにもなったらいいですね」

 地上波放送ではなく動画配信サービスFODでの配信や、主題歌にSNSや口コミで人気のシンガー・ソングライター、Vaundy(バウンディ)を起用。新たな取り組みにも注目したい。

(取材・文/成田全)