安達祐実

 芸歴36年の38歳、安達祐実が好調だ。4月17日には、ドラマ『捨ててよ、安達さん。』(テレビ東京系)がスタート。地上波では10年ぶりの主演連ドラである。

 また、23日発売のファッション誌『CanCam』6月号では、史上最年長で同誌の表紙を飾ることに。アンチエイジングのお手本として、世の女性からの羨望を集めてもいる。

人形から人間になったきっかけ

 そんな彼女の人生はなかなか波瀾万丈だ。9歳のとき、ハウス食品『咖喱(カリー)工房』のCMに出て「具が大きい」の台詞でブレイク。その3年後には連ドラ『家なき子』(日本テレビ系)に主演して大ヒットさせた。決め台詞「同情するならカネをくれ」は新語・流行語大賞にも選ばれている。

 しかし、その年の暮れには、日本テレビに届いた「安達祐実」宛の郵便物が爆発するという事件が発生。彼女は無事だったものの、所属事務所の関連会社社員ら3人が重軽傷を負った。

 そんな惨事とは別に、彼女は数年前にも「生命の危機」や「命拾い」について告白している。アラサーのころ「生きることにあんまり楽しさを感じてなくて。このまま尽きてもいいみたいな(笑)」状態だったと、『テレビブロス』('17年2月25日~3月10日号)で語ったのだ。

 彼女は24歳で芸人の井戸田潤とデキちゃった結婚。長女も授かったが、27歳で離婚した。そこからネガティブ期に突入していくわけだ。ただ、その兆候は中学生のころから生じていたという。

それまであまりに忙しかったのに、ぱたりと仕事が来なくなった。すると、幼い頃からずっと誰かの人格を演じてきたせいか、自分の居場所がなくなったかのような、不安や恐怖に襲われたのです》(『婦人公論』'13年11月22日号より)

 成功した子役ほど、陥りやすい問題だ。

 自分以外の誰かを上手く演じることで、親にも周囲にもほめられ、愛される。そのせいで彼女は「演じていないと愛されない、存在を認めてもらえない」という強迫観念を抱くようになった。たとえ中学生であっても、仕事がなくなるのはアイデンティティの死活問題だったのだ。

 それでも、結婚による自己実現が上手くいければよかった。が、挫折。彼女は「愛されない」「認めてもらえない」という不全感にさいなまれながら、アラサーを迎えた。年齢と容姿とのギャップや、子役時代のイメージで見られることにも悩み、食欲や睡眠欲が低下して、周囲からも心配される状況だったという。

 そんな彼女にとって、一大転機になったのが33歳での再婚だ。

“生”を吹き込んだ再婚相手

 相手はカメラマンの桑島智輝。プライベートの彼女を四六時中撮影しているというエピソードでも話題になった。当時は過剰なラブラブぶりとして、バラエティー番組にも面白おかしくとりあげられたが、彼女にとってはこれが何より「効いた」のだろう。

 というのも、プライベートというのは「演じていない」状態だからだ。そこを撮影されほめられることは「演じていない」自分も愛され認められているという実感につながった。新たな夫は彼女を「演じていないと愛されない」という呪縛から解き放ったのである。

 また、自己肯定感が高まったことで、自分は自分だと考えられるようになり、容姿やイメージをめぐる悩みもうすらいだという。

 今から4年前には、長男が誕生。その翌年、前出のテレビ誌でふたりは対談して、こんな会話を交わした。

夫「一時期、存在が希薄でヤバかったんです。ご飯食べないし。寝てないし。ポテトチップスと炭酸ジュースで生命維持してる感じだったから

安達「出会ってなかったら本当に生命の危機があったんじゃないかなって思うぐらい。命拾いしました(笑)

夫「もともとそんなに食べない人だったから、炭水化物を摂取してるところを見ると嬉しくなるんですよ(笑)“生に向かってるな”って思うから

 2歳での子役デビュー以来、彼女は演じることを宿命づけられた人形のようですらあった。新たな夫はそこに生命力を吹き込んだといえる。実際、彼女は別のインタビューで「夫が私を人間にしてくれたと思うんです」とまで語っている。

 昔から人形のような愛らしさに定評のあった安達祐実。挫折や葛藤はそこにリアルな人間らしさを加えた。だからこそ今、身近な憧れの存在として、生き生きと輝けるのだろう。

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。