1世帯2枚配付の『アベノマスク』、『お肉券、お魚券』、『条件付き一世帯30万円給付』などの政策や、星野源がインスタグラムにアップした『うちで踊ろう』とのコラボなどがことごとく炎上してしまった安倍政権。
新型コロナウイルスに関連した政策に、海外のロイター通信社は《臆病でナメクジのように遅い》と皮肉っている。
そして国内では、馴染みのある芸能人たちが次々と政府の愚策を批判し始めた。それももともと現政権に対して批判的な人たちではなく、およそ政治的発言に縁がなさそうな人たちまでもがだ。
現政権とは“ズブズブ”の関係
22日放送された『バイキング』(フジテレビ系)でも、おぎやはぎの小木博明は「ゴムの長さも違うし、左右で。めちゃくちゃですよ」と配布予定の“アベノマスク”をイジった。また、司会の坂上忍は1人10万円と決まった給付金について、「申請しないと、(その分の額が)国に残っちゃうのが何か嫌ね」と指摘すると、小木も税金の使途について「まぁ、ろくなもんに使わないですからね、国は」と皮肉った。
そして特筆すべきはコロナ禍によって「吉本興業と政権批判」のあり方にも変化が訪れたことであろう──。
これまでもSNSなどで政権批判を繰り返している吉本芸人といえばウーマンラッシュアワーの村本大輔や星田英利(旧芸名:ほっしゃん。)の名が挙げられよう。以上のふたりは明らかにテレビなどでの露出が減っている、いわゆる“干され”状態にあるといっていい。その理由についてキー局プロデューサーは、
「吉本興業といえば吉本新喜劇に安倍首相をサプライズ出演させたり、所属芸人が官邸を訪問したり、松本人志が首相と会食するなど、現政権とズブズブの関係にあると言ってもいいでしょう。
それだけではないです。吉本は昨年からNTTグループと共同で“教育コンテンツ”を発信する事業を展開中。政府の公的ビジネスに食い込み、最大で100億円近い巨額出資を段階に受けることになっている。大崎洋会長は、政府の沖縄の米軍基地跡地利用に関する有識者懇談会メンバーにも選ばれています」
そうした状況なだけに、所属芸人が政権批判をするなど、もってのほかなのだという。
「ことあるごとに辛辣な政権批判をしている村本さんは会社から注意を受けているようですし、舞台以外、ほとんど仕事がない状態になりました。星田さんはツイッターでずっと発信していることからか、最近はテレビで見ることはまったくなくなりましたね」
吉本芸人が政権を批判するのはタブーだということがよくわかる。
だが今回の新型コロナにおける政府の対応に、心ある吉本芸人は黙っていられなくなったのだろう。とりわけ安倍首相の『星野源とのコラボ動画』には怒りの声が多数上がっている。
オール巨人を皮切りに若手の不満も……
まず、たむらけんじが、持ちネタの獅子舞で、安倍首相の“星野源コラボ動画”のパロディを披露。これは皮肉といううより、モノマネの域かもしれないが、続いて登場したオール阪神・巨人のオール巨人が投稿したツイッターは、痛烈だ。
《とにかく、国はお金が有るんだし捻出は出来るんだから●(お金の絵文字)先ずは真水で20兆円、給付したらどう! 大人10万子供5万全国民に、所得が高くて貰わなくてもやれる人は、確定申告でその分、返したら良いのでは! 絶対こんな気持ちで、待てません●(怒った顔の絵文字)》
笑いのポイントも忘れてはいない。ツイートに添えられた4点の画像の1点目は、カジュアルなシャツと白いパンツを着て自宅ソファに座った巨人が、茶色い犬を抱いてじゃれあうもの。次にマグカップを手にする姿。3点目はリモコンを手にテレビをザッピングする様子。そして最後は、読書をしている一枚。まさしく安倍総理がアップした動画を完コピしたかたちだ。
なかでも目を引いたのは、4点目の読書姿。読んでいる本の表紙に《安倍晋三 この空虚な器》というタイトルがある。彼が手にしていたのはワイドショーなどでコメンテーターを務める藤井聡・京都大学大学院教授が編集長を務めている『表現者 クライテリオン』という雑誌だ。
スパイスのきいた芸の細かさには脱帽せざるを得ないが、彼は大御所芸人で吉本の重鎮。彼のような芸人が会社の意向を無視して、あからさまに政権を批判し始めたとことである変化が起こりそうなのだという。
「吉本の上層部としては村本やほっしゃんさんには言えても、大御所の巨人師匠の発言にはなかなか口を挟めず、内心苦々しいと思っているようです。また、巨人さんを皮切りに後輩芸人たちがこぞって声をあげるのでは、と心配もしているとか。
なんせ、“緊急事態宣言”により、劇場や営業を中心として活動している若手はただでさえ少ない給料が一気に減るわけですから、不満も爆発寸前だといいます」(吉本興業関係者)
海外と違い日本の芸能界はいまだに“政治的発言はNG”という空気が漂っている。しかし、社会をよりよくするために声を上げるのは当然の権利と言えよう。芸能人はよくも悪くも影響力がある。彼らが何かを発信することで、多くの人の意識を良い方に変えられるなら、それは願ってもないことだ。
<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌などで取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。