近ごろ、人間の身体に必要な5大栄養素が不足した状態である“新型栄養失調”の人が急激に増えているという。東京慈恵会医科大学付属病院栄養部係長の赤石定典さんは「栄養が不足した状態が続くと、健康バランスが崩れるほか、認知症や生活習慣病などを引き起こす要因にもなりかねません」と警鐘を鳴らす。できる限り長く健康に過ごすためには、どんな食事をとったらいいのか。赤石さんに教えてもらった。
「更年期」「骨粗しょう症」対策
女性は閉経後、女性ホルモン分泌量が低下することで急激に骨密度が減少。そのため骨粗しょう症のリスクが男性に比べて高くなる傾向が。
「骨の主成分となるカルシウム摂取はもちろん欠かせませんが、それど同じくらい大切なのがビタミンD。小腸でのカルシウムの腸管吸収を促進させる働きがあり、不足すると骨密度が低下するおそれがあります」
ビタミンDを含む代表的な食材には、まいたけがあげられる。また、ごはんに相性バツグンのしらす干しは、カルシウム含有量が牛乳よりも豊富なうえにビタミンDもとれ、骨の健康維持にはうってつけの食材だ。
「骨粗しょう症予防には、ビタミンKも不可欠。骨粗しょう症の治療薬としても使われており、納豆に多く含まれます」
納豆のイソフラボンには女性ホルモン様作用があり、更年期対策にもおすすめ。特に女性は毎日とりたい食材だ。
カルシウムは体内に吸収されにくい特性があるが、酸に溶けやすいため、お酢と一緒にとると体内への吸収率が一気にアップする。おすすめレシピは骨ごと小魚のお酢煮。骨までやわらかくなり、カルシウム補給にぴったり!
【この食べ方で栄養効率アップ!】
◎納豆は加熱しない!
血液サラサラ成分“ナットウキナーゼ”は熱に弱い成分。70度でほぼ働きを失ってしまう。
◎しらすよりもしらす干し!
しらすは天日で干すと、ビタミンDの含有量が生のものより約6倍近くもアップ!
◎まいたけは油で炒めて
骨の健康維持に欠かせないビタミンDは脂溶性なので、油で炒めて吸収力を上げて食べるのがおすすめ。
「肥満」を予防する
肥満を防ぐために、ただ摂取カロリーを抑えるだけでは必ずリバウンドがやってきてしまう。特に、代謝の落ちる大人世代のダイエットは質のよい糖質・タンパク質・脂質を適度にとりながらエネルギーの代謝を高める栄養分もとることが、成功へのいちばんの近道。
「糖質をエネルギーに変えるビタミンB1や、脂質を効率よくエネルギーに変えるビタミンB2が豊富な豚肉は、肥満予防に効果的。また腸内環境が乱れて悪玉菌が増えると、代謝が落ちて太りやすくなります。ごぼうなどに含まれる不溶性の食物繊維で便秘を解消しましょう」
さらに海藻類などに含まれる水溶性の食物繊維には、栄養素の吸収をゆるやかにして血糖値の上昇を抑えるというダイエットにうれしい効果が。
「ただし、効果を発揮するまでに少し時間がかかるため、食事の20〜30分前にとっておくのが理想的といえます」
食後の血糖値が急激に上がるとインスリンが過剰に分泌。血中の糖質を脂肪にして蓄える指令を出すため、肥満になりやすい。血糖値の上昇を穏やかにするには、野菜→肉・魚→炭水化物の順番で食べるのがベスト。お菓子やごはん、パンなど糖質の多い食品は、満腹時に食べたほうが血糖値が上がりにくくなる。
【この食べ方で栄養効率アップ!】
◎食事30分前の茎わかめ
コンビニなどでも手に入りやすい「茎わかめ」は、いつでも手軽に水溶性食物繊維がとれてダイエットに最適!
◎ごぼうのアク抜きは不要
ごぼうの皮やアクには、ポリフェノールがたっぷり! 皮もむかずに調理するのが正解。
◎豚肉には玉ねぎをプラス
豚肉に含まれるビタミンB1は玉ねぎやニラなどに含まれるアリシンという成分をとると吸収率が上がる。
「生活習慣病」を予防する
生活習慣病の予防には、内臓脂肪を減らすことに加えて血液や血管を健康に保つことが欠かせない。
「血管の健康に有効な栄養分として、まずおすすめしたい栄養素がビタミンC。不足すると血管がもろくなります。血液サラサラ効果なら、なんといってもねばねば食材。例えばオクラのねばねば成分・ペクチンはコレステロール値を下げ、さらに血糖値の上昇も抑制します。オクラはビタミンCもとれるので、生活習慣病対策のために積極的に食べたい優秀食材です」
抗酸化成分として知られるビタミンEも、血管の健康に役立つ栄養素のひとつ。血管を広げ、血流を促す働きが期待できる。
「生活習慣病予防は主食の選び方も重要。十六穀米は、血管の拡張や血栓予防効果のあるマグネシウムなどのミネラルや、ビタミンD以外のビタミン、食物繊維がまとめてもとれる完全食。新型栄養失調対策にもおすすめです」
◎雑穀米は冷めてから
お米は炊きたてより冷めた状態のほうが消化されにくく、血糖値の上昇が穏やかになる特性が。だから血糖値が気になる人は、おにぎりにしておいて、冷めた状態で食べれば理想的。
◎1日10粒のアーモンドを習慣に
1日4〜10粒のアーモンド習慣で血液サラサラ、血行も促進されて、肩こりや冷え性改善も期待できる。毎日粒アーモンドを食べるのが大変なら、市販のアーモンドミルクなどを活用してみては。
「がん」になりにくくなる
特定の食材でがんを防ぐことはできないが、偏った食生活はがん発生のリスクを高める。
「がんになりにくい身体づくりには、抗酸化作用の高い食材を積極的にとり、細胞の老化を抑えることが第一ステップ。ビタミンA・C・Eが豊富なケールやパプリカがおすすめです」
ケールは青汁の材料として知られているが、最近はスーパーでもよく見かけるように。生でも食べられるので、サラダに加えるなどして気軽に食卓に取り入れて。写真上のように、ポリフェノール豊富なりんごやくるみと一緒にサラダにしてとれば、相乗効果でさらに高い抗酸化力が期待できる。
さらに、がん細胞を攻撃するNK細胞を活性化させることもがん予防に有効、と赤石先生。
「そのためには免疫力アップが必須。腸内環境を整える食物繊維と発酵食品をたっぷりとりましょう。キムチは発酵食品であるのに加え白菜の食物繊維もとれる、一石二鳥の食材です」
◎ケールは炒めて吸収力UP!
ケールに豊富に含まれるビタミンAは脂溶性。ゆでるより油で炒めたほうが吸収率が上がる。
◎りんごの皮でアンチエイジング
りんごのポリフェノールはほぼ皮に含まれている。消臭効果もあり、食後に食べるとお口スッキリ!
◎ダブル発酵レシピで腸活!
調理いらずで、2つの発酵食品がとれる「納豆キムチ」は、赤石先生イチオシの腸活メニュー。
コンビニごはんの上手な選び方
今や日々の生活に欠かせないものとなったコンビニのごはん。身体に悪いイメージがあるけれど、実は上手に選べば十分、健康的な食事に! ここでは、コンビニで選ぶべきおすすめの食品を、赤石先生が伝授!
おにぎりには枝豆をプラス
おにぎりだけだとタンパク質、ビタミン、ミネラルが不足。ほかの食べ物をプラスして不足した栄養を補おう。枝豆は大豆と緑黄色野菜の要素を持っており、タンパク質も野菜の栄養素もまとめてとることができる。
揚げ物はコーヒーとセットで
揚げ物は、時間がたったものは酸化した油が心配。回転の早いランチタイムを狙って買いにいこう。揚げ物を食べるときはコーヒーを一緒に飲むと、コーヒーが胃酸の分泌を促し、揚げ物の消化を助けてくれる。
カットフルーツで手軽に抗酸化!
ビタミンやポリフェノールが効率的にとれるくだものは、良質な食習慣に欠かせない食品。だが、日本人はその摂取量が不足ぎみ。コンビニで売られているカットフルーツを活用して、1日200g摂取を目指そう!
(取材・文/中村明子)
赤石定典さん ◎東京慈恵会医科大学附属病院栄養部係長、管理栄養士。メディアへの出演も多く、芸能人の食生活などの指導を行うなど幅広く活躍。共著に『美肌、太らない、老けないは食べ方が9割』(PHP出版)など。