新型コロナウイルス感染拡大への対策として、東京都の小池百合子知事が「3密(密閉・密集・密接)」や「STAY HOME週間」などインパクトのあるフレーズを用いたメッセージを発信し、反響を呼んでいる昨今。
先日は、小池都知事に取材をするために集まった記者たちを「密です! 密ですっ!」と連呼しながら颯爽と注意する姿が話題となり、そこから着想を得た人々が「密です」のセリフを元にした漫画やゲームを制作するなど、一種のムーブメントを巻き起こしています。
都知事のワードセンスをひも解く
だが私は思った。「都知事、ちょっとだけ“流行語大賞(※)”狙いにきてない?」と。
(※自由国民社による『ユーキャン新語・流行語大賞』のこと。その年に話題となり、世相を反映する“ことば”を決定する、12月の人気恒例企画)
いや、もちろん新型コロナ対策を多くの国民に浸透させるため、生活の中で口にしてみたくなるようなキャッチーな響きにしているのは十分、理解しております。しかし、それを差し引いても、流行語、狙ってない? 年末のユーキャンのこと、意識してない???
そんなパンチライン(決め台詞、落ち)を連発しまくっている小池都知事に感化された私は、いつしかこう考えるようになりました。
「私も流行するようなキャッチーな言葉、生み出してぇ……」
というわけで、流行語になりえるキャッチフレーズをさっそく作りあげていきたいと思います。やっていくぞ!
【1.都知事が発言した言葉たちを見てみよう】
まずは、都知事が今まで世に放ってきた言葉たちを調べてみました。すると、それらがいくつかの種類に分類できることに気がついたのです。(東京都ホームページ『施政方針』掲載内容より独断と偏見で抜粋しています)
分類1:《数字を使って韻を踏む》系
・3密(密閉・密集・密接)
・3つのシティ(セーフシティ・ダイバーシティ・スマートシティ)
・7C TOKYO(Chance・Change・Challenge・Check・Community・Children・Choju)
いま話題の「3密」以外にも、「3つのシティ」「7C TOKYO」など“共通の文字を含む言葉を並べて韻を踏む”という手法が使われていました。7C TOKYOの「Choju(長寿)」だけはゴリゴリの日本語なのでちょっと反則な気もしますが、いずれにしても覚えやすい。教科書に載っていたら「テストに出るんだろうな〜」とマーカーで線を引きたくなるような言葉たちです。
分類2:《日本語×英語》系
・STAY HOME週間
・都民ファースト
・時差ビズ
続いては「日本語×英語」系。聞きなじみのある「都民ファースト」や、都内各所にポスターが貼られていた「時差ビズ(※)」もこちらに分類されます。一度聞いたら忘れられない、インパクトのある語感です。
(※通勤ラッシュを回避することなどを目的として、東京都が東京都交通局と協力して進める、通勤時間をある程度自由化した働き方を推進する取組みのこと)
分類3:《聞きなじみのない外国語》系
・アウフヘーベン
・Beyond2020(ビヨンド・ニーゼロニーゼロ)
・東京ユニークベニュー
小池都知事といえば「アウフヘーベン(※)」で2017年流行語大賞の候補にノミネートされたように、外国語を交えた発言をすることも印象的。そしてどれも、ドヤ顔で口に出したくなるようなカッコいい響きです。
(※「より上の次元」を意味するドイツ語。豊洲市場への移転関連で発言。また、「Beyond2020」は'20年以降を見据えたレガシー創出のための文化プログラム。「ユニークベニュー」は歴史的建造物や文化施設等で会議やイベント、レセプション等を開催することを指す)
これ以外にもたくさんのキーワードが確認できましたが、まずは上記の分類を参考に、オリジナルのキャッチフレーズを作っていきたいと思います。
苦悩する300万人に救いの手を
【2.キャッチフレーズのテーマを決めよう】
そもそも何についてのキャッチフレーズを作るのか考えていなかったので、テーマを決めていきます。せっかくならば、大勢の人に使ってもらえるよう、社会問題に切り込みたい……! そこで、ひとつのアイデアが浮かびました。最近、知人が愚痴を言っていた“オンライン飲み会 断りづらい問題”をテーマにするのはどうだろうか?
外出自粛が推奨される昨今においては、パソコンやスマートフォンなどのビデオ通話機能を使って、離れた仲間たちと飲み会を開催する「オンライン飲み会」が大ブーム。私自身も体験したことが何度かあります。自宅にいながら気軽に参加できることや、自分のペースで安く飲めることなどメリットが盛りだくさんで、楽しく快適な時間を過ごしました。
その一方で、苦しい思いをしている方々もいます。それは「オンライン飲み会を断りたい」という人たち。そもそも「飲み会」自体が苦手な人はもちろんのこと「普段はお酒を飲むのが好きだけど、このご時世でははしゃぐ気になれない……」などの意見も、ちらほらと見かけます。
対面の飲み会であれば「予定がある」「体調不良」といった常套句(じょうとうく)で逃げ切れることもしばしば。しかし「今夜は約束があるから」と言えば「先約が終わったら参加して」と逃げ場を失い、「体調が悪い」と答えればあらぬ方向へ心配が及ぶというリスクもあり「リアルでの飲み会より回避するハードルが高い」と、苦悩の声が上がっているのです。
「そんなの普通に断ればいいじゃん」とおっしゃる方もいますが《オンライン飲み会 断り方》でGoogle検索をすると、なんと約3,000,000件もヒットするのです。そのくらい、キッパリと断ることができずに悩んでいる人が多いという事実がある……!
ということで、この苦悩の日々に終止符を打つべく「オンライン飲み会についての注意喚起策」を急遽、打ち出すことに決めました。
【3.会見を開こう】
先ほど分析した小池都知事の手法を駆使し、“オンライン飲み会断りづらい問題”に一石を投じるキャッチフレーズを一晩中、考えました。
ここから、ちょっと記者会見ふうに紹介させてください。なぜなら、都知事っぽく振る舞ってみたいからです。
=======会見スタート========
本日はよろしくお願いします。しりひとみと申します。一般企業に勤めるただのOLです。
えー、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、緊急事態宣言ならびに外出自粛の要請が出ているわけですが、外食をせずに自宅でオンライン飲み会を行う方が非常に増えており、これは自粛を促すという観点から見れば、大変喜ばしいことでございます。
一方、オンライン飲み会を行う際にぜひ気をつけていただきたいのが「カタストロフ飲酒」です。「大惨事」という意味の「カタストロフィ」と、「飲酒」を組み合わせた造語となっております。
オンラインでの飲み会は便利な反面、友達のパーソナル(※個人的)な部分に踏み込みすぎてしまう、といった危険性も持ち合わせています。適切なフレンズディスタンス(※友人との距離感)を守らなければ、フレンズブレイク(※友人関係の崩壊)を招き、最悪の場合、けものフレンズ(※怒りの感情で獣と化した友人)を生みかねないのです。これがカタストロフ飲酒の恐ろしいところです。
そして、この忌々(いまいま)しきカタストロフ飲酒を防ぐための重要施策として、3つのT、すなわち「3T」を打ち出します。
スッ……(ここでおもむろにフリップを取り出す)
もうオンライン飲み会は怖くない!
(1)Timing ~相手のタイミングを理解しよう~
いくら気心が知れた相手でも、もしかしたら飲み会に参加したくない気分のときもあるかもしれません。断られたとしても「タイミングが悪かったんだな」と、相手の気持ちを理解するようにし、何度もしつこく誘わないようにしましょう。
(2)Time ~終わりの時間を決めよう~
各々の自宅で飲み会をするので、終電を気にしなくていいのもメリットのひとつです。しかし、だからこそ同時に「相手に同居人がいる場合、睡眠の妨害にならないか」「翌日の予定には影響がないか」などを今一度考え、酔う前に終わりの時間を決めておきましょう。また、規則正しい生活を心掛け、体調管理をすることもコロナ対策の一環です。
(3)Tsumami~つまみでマウントを取るな~
オンライン飲み会では各家庭や自宅のおつまみも必然的に画面に映ることになります。そこで露呈するのがズバリ“つまみ格差”。自分のテーブルの上が高級スーパー『成城石井』で買った高めのチーズやワインであることに対して、相手のつまみが「『チーちく』2本と『ばかうけ』1枚」だけだった場合でも「なんかバカにする」みたいな目で見ないようにしてください。そういうのはマジでやめてください。
終盤、ちょっとだけ私情を挟みましたが、以上で会見を終わります。
=======会見終了========
【4.おわりに】
以上が私の考えたキャッチフレーズです。やはり、小池都知事と比べるとまだまだ稚拙(ちせつ)。「3密」というキーワードのすごさを噛み締めた瞬間でした。いま思うと「カタストロフ飲酒」とか都知事は確実に言わないだろ。
そして、こんなことをやっていたら、いつの間にか休日が終わっていました。思わぬ形で「STAY HOME」をすることとなりましたが、みなさんもぜひ「数字を使って韻を踏む」「日本語×英語」「聞き馴染みのない英語」の手法を使って、STAY HOMEのお供にキャッチフレーズ作りに挑戦してみてください。
【PROFILE】
しりひとみ ◎昼間は会社員として働くかたわら、エッセイや小説を書いている副業ブロガー。名前は「人見知り」を文字ったもの。文章や写真、音楽、映像などさまざまな形態の作品を投稿できるウェブサービス『note』に綴った「住んでるマンションを退去したら被告になった話」が、Webメディア『オモコロ』主催の公募企画『第6回オモコロ杯』で佳作を受賞し話題に。noteの投稿コンテストではグランプリを受賞し『LINE MUSIC』とのコラボ連載を執筆中。ツイッター→@sirisiri_hit note→しりひとみ