世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
ナインティナイン・岡村隆史

第7回 岡村隆史

 4月23日放送の『岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で「コロナが収束したら絶対おもしろいことあるんです。短期間ですけれども、美人さんがお嬢(風俗嬢)やります」とヤバい発言して大炎上したパーソナリティのナインティナイン・岡村隆史(以下、岡村サン)。

 4月30日放送の同番組では、相方である矢部浩之(以下、矢部サン)が急遽、出演しました。岡村サンを誰よりも近くで見てきた矢部サンが説教をし、岡村サンが謝罪することは一種のみそぎになったと思います。しかし、矢部サンの発言を聞いていると、これはこれでちょっとヤバいのではないかと思うのでした。

 矢部サンが、岡村サンに指摘したことを箇条書きにしてみます。

■岡村サンは本番中や人がいるところでしか謝らない(オフでは矢部サンに謝らない)。
■プロデューサーやマネージャーにコーヒーをいれてもらっても、「ありがとう」と言わない。
■目上の人に食事に誘われると「ぜひ行かせてください」と表では言うが、マネージャーに「仕事だったことにして」と断らせる。

 矢部サン曰く、岡村サンは「年下、身内、女性に対して、そういうことをする」傾向があるとのこと。つまり、岡村サンは相手の立場によって態度を変えるハラスメント的な思考を持っているということでしょう。あえて乱暴な言葉を使わせてもらいますが、今回の発言は“貧乏人ハラスメント”と“女性蔑視”の融合ではないかと私は思いました。

 不況は10年に一度やってくると言われることがありますが、2008年にリーマン・ショックと呼ばれる世界規模の金融危機がありました。こういう不況と現在のコロナ禍が大きく違うところは「働きたいのに働けない」ことだと思います。

 安倍首相が緊急事態宣言を発令し、ほとんどの飲食店や商業施設が営業を休止したり、時短営業せざるを得なくなりました。人の集まる場所の営業を休止させるのは感染症対策としては正しいと思います。しかし、政府が満足な補償もしてくれないのに、店を閉じたら今度は経済的に干上がってしまう。たくさんの自営業者が生きるか死ぬかの厳しい状況に立たされているのです。

 しかし、こんな状況でも経済的に困らず、家にこもれる人もいるのです。岡村サンもその一人でしょう。2018年6月14日放送の『岡村隆史のオールナイトニッポン』にゲスト出演した今田耕司は、岡村サンに対し「小さいビル買いすぎやねん」とからかっていましたが、岡村サンなら何の心配もなくステイホームできるでしょう。岡村サンが裕福であることは悪くありませんが、今回の公共の電波を使っての発言は、まずかったと思います。

女性を敵として見ている岡村

 また、貧乏人ハラスメントに加え、岡村サンは女性に対する嫌悪も強いように感じます。岡村サンはいろいろな番組で、「相手の過去が気になってしまう」ことを理由に、結婚相手の条件として“処女”を上げています。しかし、当の岡村サンは童貞ではない。「セックスの経験があると、女性は価値が落ちる。男性は違うけど」と思っているのではないでしょうか。

 矢部サンも、岡村サンの女性に対する意見にドン引きすることはあったらしく、こんなエピソードを挙げていました。

■矢部サンが「結婚して、うまくいくコツは何か?」と聞かれ、「ありがとうとごめんなさいを言うこと」と答えたら、岡村サンが「白旗あげたんか」と答えた。女性を敵として見ている。

 矢部サンは「結婚してるから、エラいというわけではない」と前置きした上で、岡村サンが変わるために結婚を勧めたのでした。矢部サンは結婚したことで、以下のように変化したそうです。

■結婚して間違いなく、女の人はすごいと思えた。
■子どもにも恵まれて、(女性への)リスペクトは増していく。
■結婚して、子どもがいたらチーム。
■お母さんが監督、いっぱい怒るしほめる。自分はそこから一歩引いて見る(ことでバランスを取る)。

 矢部サンと言えば、独身時代はプレイボーイとして鳴らし、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)では、交際相手のほかに遊び相手が何人もいて、電話一本で女性が飛んでくることを暴露されていました。その矢部サンが結婚して、女性をリスペクトできるようになったのだから、そうだ、恋愛して結婚するべきだ!

 と私は思わないのです。

弱肉強食の芸能界で育まれる価値観

 岡村サンのような売れっ子が、弱い立場の女性を軽んじるのは、ある意味、仕方がないことなのかもしれません。芸能界のような弱肉強食の世界では、弱い人は真っ先に淘汰されるからです。こういう世界で売れた岡村サンが目上の人を大事にするけれど、メリットのない人には冷たい態度を取るようになっても不思議はないと思います。

 それは相方の矢部サンとて、同じではないでしょうか。売れたミュージシャンが、糟糠(そうこう)の妻を捨てて女性芸能人と結婚することはよくありますが、矢部サンも似たような感じでした。矢部サンは元モデルの一般人女性とだらだら交際していましたが破局、現在の妻である元TBSアナウンサー・青木裕子とは案外あっさり結婚しています。女子アナという憧れられる職業の女性と結婚することは成功の証であり、自分の人生にメリットになると踏んだ部分もあったのではないでしょうか。

 矢部サン自慢の妻は、母としても優秀です。2020年4月9日付の『NEWSポストセブン』の記事によると、矢部サンのお子さんは都内の有名小学校に合格したそうです。女子アナというブランド妻を持ち、妻は愛するお子さんをしっかり教育してくれて、名門校にも合格させてくれる。メリットありありの結婚生活を送っているわけです。

 好意を持っている人や、メリットをくれる存在に優しくすることは、誰にでもできます。ですから、恋愛や結婚をしたからといって、女性蔑視が直るわけではないのです。実際、今回の件で岡村サンが悪気なく侮蔑したのは、自分と直接関わりのない女性でした。

矢部の女性神聖化に潜むヤバさ

 岡村サンをお説教した矢部サンの悪気ない発言にも、ひっかかる部分があります。矢部サンは「結婚して、女性をリスペクトするようになった」と話していました。「妻をリスペクト」と言わなかったのは、家族自慢にならないように、もしくは自分の妻だけでなく、世のお母さんたちみんなもすごいんだという気遣いを込めたとも考えられます。

 2017年の『日経DUAL』のインタビューで、青木裕子は育児分担についてこう語っています。

《1人のときは、ちょっと無理して頑張ると私だけでもできる、みたいな感じだったのですが、2人になると頑張ってもやりようがない。夫に「やって」と言うようになったら、意外と夫もできるんだな、と》
《(現在は)平日休みには積極的に育児にかかわってくれます》

 つまり、最初のお子さんのときは妻のワンオペに近い状態だったけれども、二人めのお子さんが生まれてからは、協力し合っているということでしょう。

 自分が当事者にならないと理解できないことは、たくさんあります。「子どもにも恵まれて、女の人へのリスペクトは増していく」と言ったのは、育児を妻に任せきりにすることもあったことへの反省と感謝の気持ちから生まれた言葉なのではないでしょうか。しかし「結婚して(妻ではなく)女性をリスペクト」というふうに、女性全体を賞賛することは「女性は家庭において、万能である」「家族の不出来は、妻もしくは母親の責任」という女性抑圧の一端を担っているように思えるのです。

 結婚したら女性みんなが、矢部サンの奥さんのように自動的に良妻賢母になれるわけではありませんし、妻がたしなめても、問題発言をする男性はごまんといます。そもそも、女性蔑視をしない独身男性だって、たくさんいます。岡村サンは困窮した女性を、性の対象と見て怒られましたが、結婚や女性を聖なるものとして見なす矢部サンもちょっとヤバいのではないでしょうか。

 矢部サンの発言にインネンをつけるのはこれくらいにして、恋愛や結婚以外で岡村サンが変わるためにはどうしたらいいのでしょうか。それは矢部サンのこんな言葉が参考になると思います。

「ADの女の子は(タレントに)コーヒーを入れて『ありがとう』と言われるとめちゃめちゃうれしいんやて」

 ADの女性に「ありがとう」を言っても、直接的なメリットはないかもしれません。しかし、ADがいなかったら、岡村サンは仕事にならないはずです。ADの代わりはいくらでもいると思うかもしれませんが、それを言うのなら、芸能人だって同じでしょう。

「女性だから」下に見ることはNGですが、「女性だから」といってリスペクトする必要もありません。まずは同じ職場で働く“仲間”として相手を見ること。それがすべての始まりな気がします。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」